間章 世界の創成
生命が生まれる前のお話です。
「久しぶりだね」
優しい声が、暗くもなく、明るくもない場所で響いた。
「あれ? もしかして忘れちゃったの?」
忘れるわけない。こんなにも、透き通った声。
「よかった。また、初めからになるところだったよ」
それで、今日は何をするんだ?
「えーっとね。創ってほしい物があるの。お願いしてもいいかな?」
構わない。どんなものでも。僕が生きていれるなら。
「じゃあ、これが内容。後は君の好きにしてくれていいよ」
その声は、どこか冷たかった。
吐き捨てる、とまではいかないが、ヒンヤリしていた。
できたよ。
数分後、僕の小さな声が、鳴り響いた。
「うん。ありがとう。これで少し『セカイ』が変わったよ」
世界、セカイ。本当に変わったのだろうか。今までも、今日だってなんにも変わってない。
今日も、明日も。たいして変わらない。きっと、
「……かわってな、い」
枯れた声。かすかすしている。低い声。
「やっと、声を出してくれたね。君の思ってる事読み取るの、大変だったよ」
「どういう、こと?」
「君は、声を出してなかったでしょ。だから、君の『思う』を読み取ってたんだよ」
一息ついてまた、
「でも君は今日、話してしまった。そう、してしまった、んだ」
何が、なんだか、分からなかった。ただ、ぐるぐる、セカイが回っていた。
「え? 僕、わるいこと、した?」
「ううん。君は悪くないよ」
沈黙。少しの沈黙が、長いように感じた。
「全部、全部ね。世界が悪いんだよ」
刹那。周りが明るくなった。初めて見た、明るい世界。
「あーあ。ほんとだったんだ。あの人の言ったこと」
「あの人?」
「うん。君が声を出せるようになったら、ボクは消えちゃうの。こうやって世界が明るくなってね」
そういえば、この子は体が透けてきている。
この後、きっと、この子は消えてしまう。ここから微塵もなく。
僕のせい?
そう思った。きっと、そうだ。
世界のせいじゃない。僕のせい。絶対。なんで? どうして。そんなの……
「いやだよ‼ きえちゃうなんて」
あの子は振り向いて、少し笑った。
「大丈夫。また何時か会えるよ。泣かないで」
僕はいつの間にか、泣いていた。胸が痛い。
「ほんと? あえる?」
「うん。君もボクも生まれ変わって」
「うまれかわるの?」
「そう。ボクは、『ソーヌ』として。君は……」
あの子の声が小さくなっていく。
「僕は? ッ僕はどうなるの?」
「きみは……」
「……『ミュラン』」
「っ、きみの、ほんとうのなまえは?」
痛い。
「ボクは、イヴ」
「ごめんね、ごめんね。僕ね、君の事ね
だいすきだよ。」
「知ってる」
最後に、イヴは笑ってくれた。涙を浮かべて。満面の笑みで。
「さようなら。我が愛しき『アダム』いつまでも」
世界は、変わった。明るく光っている世界。
それでも、イヴがいない世界なんて、つまらない。
「もう、どうでもいい」
アダムは眠った。深く、悲しく、静かに。
「ごめんね」
アダムは、創成を已めた。
イヴに逢えるまで。何時かの日を待ち続けた。
「生きて」
イヴの微かな声が左耳に響いた。
因みにイヴが最期にアダムに頼んだことは
「運命の果実を創って、それを食べて。」
ぺらり。
「生きて、私を見つけて。 イヴ」
今後はこんな風に間章を混ぜて書こうと思います。ありがとうございました。また次章。