護衛の仕事には危機感を持て 参
前書き……って何を書けばいいんでしょうね……
「うわ、すご…綺麗……!」
目の前には豪邸、後ろにはここまで乗ってきた黒光りのリムジン。
時代の都 第壱区
超重要な役割を持つ事務所や建物、また住人の豪邸が並ぶ。簡単に例えるなら貴族や王、地位や権限を持つ人のみが足を踏み入れていい区域。
そんな重要区域に初めて入った少年は目をキラキラ輝かせて周りをキョロキョロ。
「小野さんは何度か来たことあるんですか?」
「………」───“仕事でなら”
「凄いですね! 自分初めてでむぐっ!?」
「気持ちは分からんでもないが落ち着け」
はしゃぐ直哉の口を手でふさぐ中岡は、渋沢とその後ろの2人を見て申し訳なさそうに頭を軽く下げる。黒スーツの2人はけげんな顔をしていたが、渋沢はクスクス笑っていて、むしろ楽しんでいるように見えた。
「それにしても……」
落ち着いた直哉から手を離し、渋沢へと再び目を向ける中岡は問いかけた。
「渋沢殿、この依頼は出す必要は無かったのでは?」
この中岡の問いに渋沢は一瞬目を見開いたがすぐ微笑む。
「どうしてだい?」
首を傾げる渋沢に中岡は至って平静にしていた。こんな予想はしていたというように。
「第弐、参区ならまだしも、第壱区は政府の独壇場……、故に各重要人物が住まう場でもあります。
財界の頂点を担う貴方様ならそのことは承知の筈。我々自警団を動かす何か理由があるのなら是非ともお話し願いたく」
真っ直ぐ、自分の考えを包み隠さずに語る中岡に渋沢はやれやれ、というように一つ息を吐いて苦笑い。
「流石、龍馬君の相棒。自警団の双璧の一人と呼ばれるだけあるよ」
「…………恐縮です」
笑う渋沢に対して中岡は一瞬口元をひくつかせて苦い顔。その呼び名はあまり気に入ってないみたいだ。
「実は第壱区にはよく『反乱軍』が現れていてね、政府もその頻度に対処しきれていないときがあるんだよ」
「反乱軍が?」
「ハンラングン?………って何ですか?」
新しい単語に首を傾げる直哉。その様子を見ていた渋沢は「そういえば君は新人だったね」と笑う。
「反乱軍は文字通り、政府に反乱を起こし、政治を乗っ取ろうとする一つの巨大組織の事だよ」
「ええ!? 今の政治を乗っ取る!? 可能なんですかそんなこと!」
「可能は可能の筈だよ」
目の前の入り口の柵が開いていき、ガラガラと大きな音をたてる。
「かといって政治を簡単に乗っ取れる程、政府は柔じゃない」
中の屋敷までの道へと足を踏み込んでいく渋沢に続く全員。
政府の役人で良い例がこの間会った勝海舟だと彼は言う。
直哉は彼が実際に戦っている姿は見たことないが、前職の関係で警察へと連行された時に何度か疑われた事があった。その際に直哉を助けてくれたのが勝。上の人を説得して無罪放免にしてくれたため、彼は相当立場的にも強いんだろう、と直哉は勝手に想像していた位だ。
「まあ、今はお互い睨み合って牽制しあっている、そんな感じかな」
「それに反乱軍は今の政治に不満を持つ人の集まりだ。
その気持ちはこの町を守ろう、という強い意志とも取れる」
「うん。だから、あんまり無下にも出来ないんだよねぇ……。政府の暴走も止めてくれる良い役割を果たしてくれるけど……。
最近攻撃的になっててちょっと心配だから」
だから君達も呼んだんだ、と渋沢は笑った。
「しかし、第壱区に入るには入念な検査が行われますし、監視カメラも警備も万全……。一体どのような方法で侵入しているのやら……。」
顎に手を当て、考え込み始める中岡。それでいて真っ直ぐ歩き、皆と歩調は崩さない。豪邸の門の前へとたどり着き、コンコン、と扉を控え気味に叩いた渋沢は振り返ってまた笑う。
「というわけで、改めて護衛は頼んだよ」
「承知」
「が、頑張ります」
「……………了解」
中から扉が開き、黒スーツを着こなす初老の男性が六人を迎える。
中へと導かれるままにその6人は扉をくぐっていった。
「じゃあ行こうか、中岡君」
「はい。………小町、直哉、また後ほど会おう」
護衛である5人の内、渋沢の希望より中岡のみが話し合いの場に連れられ、直哉と小野、そして黒スーツの2人は別の部屋で待機することに。
「粗茶ですが……」
「え、わっ、お気遣いありがとうございます、はい」
美しい、というより可愛らしいという言葉が似合う、メイド服を着た女。ぱっちりした黒目、肩よりも長いセミロングの少し内巻き気味の黒髪が光に反射して輝いている。
「いえ、お仕事頑張ってください」
「あ、いえ、すいません。貴方もお仕事頑張ってください」
一礼するメイドに直哉も慌てて一礼、小野は小さく会釈、その2人の前に座っている黒スーツの2人は当然とばかりに出された紅茶と菓子を口へと運ぶ。
4人の間に(主に直哉にとって)気まずい沈黙が訪れる。
「君……」
「んへ?」
沈黙を破ったのは黒スーツの内の1人。直哉の正面の2人は彼をじっと見る。友好的な感じではない、見るというよりもむしろ睨んでいる。その眼力に少し怯えつつ直哉が苦笑いして問う。
「な……なんで、しょうか……?」
「君は護衛の仕事をなめているのか?」
「……へ………?」
「依頼人に対して馴れ馴れしい。それに視線の動かし方も歩行の仕方も、全く出来ていない」
「我々はこの仕事を十数年やっているんだぞ?」
だめ出しを頂いた。
突然のことで思わず固まってしまう直哉に2人は続ける。
「どうして渋沢様もこんな素人に護衛を頼むんだ?」
「(いやもう本当に申し訳ない)」
「自警団なんか所詮は素人を寄せ集めただけの集団じゃないか」
ピクリ、と苦笑いをしていた直哉の顔が固まった。
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