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ヒステリー・パニック!  作者: シュガームーン
5/17

自己を熱望せよ 参


「あらぁ? これは良い状況だったかな?」


「───っは……?」



 入ってきたのは三人。


 一人は赤毛で眠たげな男。


 一人はほぼ黒に近い茶褐色の髪をした、白衣を着た男。


 最後の一人は無表情、だが見目麗しい少女。



「おう、やっと来たか」


 来て当然、という風に彼…龍馬は自然に三人に話しかけた。


「やっと…ねぇ……? どうせ来ることが前提だったんでしょ?」


 赤毛の男、平賀源内が面倒くさい、というようにため息をつき、答える。


「当然じゃ。……と言うよりおまんの脳程ありゃあ分かってた事だろうに」


 呵呵と龍馬が笑う。

 その側には突然の状況にポカンとする少年、直哉。


「悪いな、初仕事からこのような事に巻き込ませて」

「あっ。いえ、別に・・・」


 申し訳なさそうに白衣を着た男、杉田玄白が口を開き、直哉は慌てて構えを解き、手を横に振った。とても先程、怒鳴って男二人を殴り飛ばせてみせた少年とは思えない程の慌てようだ。


「誰だ貴様等は! それ以上入ってくるな!!」


 ジャギ!と全ての、合計五丁の銃が三人へと標準。


「あらら、今度は危機的状況かぁ……、どうする? 玄白サン、小町チャン」

「どうするも何も、やることは一つしか無いだろう」


 足は止めたが三人の口は止まらない。一名は初めから口を閉じているが。


「悪いけど、おいらはそこまで働く気は無いよぅ。ほぼ四人に任せまーす」


 はぁ、とため息、ヒラヒラと手を振る平賀に龍馬はあっはっは、と笑った。


「あぁ、構わんて。充分戦力になる。さて、じゃあ……



 ………やるか」


「てめぇら全員ぶっ殺せ!!!」


 座ったまま、吹っ飛ばされた男が指示を出すが




 ───────『今一度日本を洗濯致し候』




 ドサドサと倒れる音がする。


「っなぁっ!?」


 男が慌てた。

 指示よりも速く、龍馬が銃を持つ男達に触れ、無力化した。

 龍馬は笑う。


「儂の異能、『今一度日本いまいちどにほん洗濯致せんたくいたそうろう』はよこしまなモノ、つまり悪意や汚れた意志、負の感情等を全て完璧に浄化、洗浄(無力化)する」


 こんな風にな、と彼は拳銃を手にする。

 するとその拳銃はボロボロと形を崩し、龍馬が軽く力を込めただけで、呆気なく塵と化した。


───坂本さかもと龍馬りょうま

異能力『今一度日本いまいちどにほん洗濯致せんたくいたそうろう



「純粋さの無い者は、儂の前で立つことさえ出来んぜよ」


「(だからあの時も……!)」


 つい先程、首元を掴んだ男が倒れ込んだ時、更に初めて出会った時も男二人を地に伏せさせ、ナイフを塵へと消し去っていた。

 男が呆気にとられている内に、


「ギャッ!」「ぐわッ!」「げぇっ!?」


 銃を無力化され、強みを失った他三人をすぐさま平賀、杉田、小野が叩く姿を。

 言葉を無くすテロリスト一人がそれを為す術なく見守っていた。


「さて、と 残るは後、御主おぬしだけじゃが……どうする?」


 男がハッとして龍馬を見れば、妖しく黒い笑みを浮かべていた。


「降参した方が身のためぜよ」


 その笑みに背筋がゾッと凍りつく。ぐちゃぐちゃな思考を無理矢理一つにまとめ、即行動する。

 ────ここに居たらヤバい


 能力を発動させようとすると、頭を鷲摑みにされた。

 目の前にはあの男とは違う黒く危険な笑みを浮かべた紅眼の少年。

 ここまで接近されても気づかぬ自身へ憤りを覚えるくらいに、この少年が何故か恐ろしくて仕方が無かった。


「……一人だけ逃げようなんて、ムシが良すぎないか?」


 次の瞬間 彼は怒気の表情に変わり、強く固めた右拳を大きく後ろへと振りかぶり────


「うっ うわあああああああっ!!!」


 悲鳴上げる、その憎たらしい黒い覆面に向かって思い切り、怒りの感情を込めて、


  右拳を振り下ろした。


 鈍い音がして、床が割れ、男は気絶。

 顔には拳がめり込んだ跡が付き、大量に血が流れていた。















「真に申し訳ございませんでした!!」


 正座して地面に手をつき、頭をこすり付ける少年の目の前に居るのはその少年と同じ職場の者達。


「いやいや……別にそこまでして謝るほど、直哉クン、悪いことしてないし……」

「私の能力で充分治せるし、幸か不幸か病院も近いから 直哉は気に病む必要は無い」

「………………」

「あっはっはっは! いやぁ、先程の奴ぁスカッとしたなぁ!」

「「あんたは黙ってて/お前は黙ってろ」」


 直哉の見事な土下座に2人は頭を上げさせようとフォローをしていて、一人は無言。もう一人は直哉の行動を豪快に笑い飛ばしている。


 直哉の殴った男…テロリストの一人が頭部への損害ダメージが酷く、逮捕の前に緊急搬送された。

 そのことに対して直哉は責任や、皆に迷惑をかけてしまったと思い、瞬時に土下座を繰り出したのであった。


「何を言うちょる、おまんら さんざ威張り散らしとった奴が綺麗に潰れっちまった! これ程愉快な事ぁ無いじゃろうて」

「頼むから少し黙っていてくれ」

「いや……。……分からなくもないけど」

「おい」

「じゃろう?」

「調子に乗るな」


 笑う龍馬を叩く杉田はしゃがんで、土下座を続ける直哉の顔を少し上げさせようと話しかける。


「直哉、何度も言うがそこまで気に病む必要は無い。勿論、反省は要るがな」


 諭すように声を柔らかく、出来るだけ優しく直哉へと声を掛けた。

 だが直哉はまだ曇った顔をしている。

 今回のことで、また追い出されるのではないか、と若干泣きそうな顔をして俯いている。

 それを見て、杉田はフゥ、と眉を寄せて息を吐くと、いまだに笑っている龍馬に顔を向け、立ち上がった。


「龍馬、お前から何か無いか」

「あ? 何か? そうじゃなぁ……」


 浮かんだ涙を指で拭い、笑みを絶やさないまま直哉へと目を向けた。


「志賀直哉」


 名前をフルネームで呼ばれ、直哉は顔を下に向けたまま、はい、とか細く返事をする。


御主おぬしは今回、怒り任せに強盗主犯を瀕死の重傷に追い込んだ。流石にこれは爆笑出来る程やり過ぎじゃなぁ」


 カラカラ笑っている龍馬を杉田が再び叩く、いい音がした。


「痛ったいなぁ、そんなに叩くことでもねぇだろうに。

 ……っと話が逸れたか で、直哉 ぬしの処遇については………






 …………お咎め無し 次から気をつけるように」


「え?」



 その言葉に直哉は顔を勢い良く顔を上げ、龍馬の顔をまるで信じられないというように見つめる。


「ク、………クビにはしないんですか!?」


 今までの経験上、トラブル後にはクビなのが直哉の定石セオリー。だが龍馬は


「ウチゃぁ、こんなのは序の口じゃ。この程度でヘコたれちゃあ、儂等の仕事についていけんぞ?」

「これで“この程度”って……」


 ニタリと笑って言い切る龍馬に直哉は複雑な気持ちになった。


「そうだねぇ……。これから凄くスリリングは仕事も待ってるし、このくらいのコトには慣れて貰わないと」


 うんうんと頷き、龍馬の話を肯定する平賀。


「慣れすぎても私が困るんだが」

「玄白サン、喜んで能力使うでしょーよ」

「誤解を招く言い方をするな」


 ハァ、とため息をついた杉田。


「………がんばろ」

「(喋った)」


 初めて小野の声を聞いた直哉は思わず驚く。


「え、あ、じ、じゃあ俺は……」


 本当にクビでは無いのか、と疑う気持ちと、こんな仕事出来れば辞めたい、逃げ出したい、と思う気持ち。


 ────そして その気持ちを一瞬で消し去る程


「さて、じゃあ……戻ろうか、直哉」


 ─────『俺』という一人の人間を見て、見捨ててくれなかったということが本当に嬉しかった。


「っはい!!」


 涙を一筋流し、満面の笑みで答える。それに龍馬もニッと笑った。


「よし! 新入りもようやく決心がついたようじゃ。入社祝いにパァッとやるか?」

「あ、いいねぇ。おいら、久しぶりにグラタン食べたい」

「まだ仕事中だ。せめて出張中の三人が帰ってからにしろ」

「細けぇなぁ……。いいじゃねぇか、どうせやることぁ少ねぇんだし」

「多かろうが少なかろうが、仕事は仕事だろうが」






「それなら是非、俺の仕事もやってくれないか、龍馬」

「ん?」


 全員が目を向ければ、そこに居たのは赤みがかった茶色の髪と目が特徴的な背の高い、黒いスーツを着こなす男性。気の抜けるような優しい笑みを浮かべている。


「おお、おまんか。かつ海舟かいしゅう殿」


 龍馬はヒラヒラと手を振り、笑う。


「久しぶりだな、龍馬。会ったと思えばすぐに事件トラブルか。そろそろ牢にぶち込んでもいいようなもんだがどうする?」

「あっはっはっ! 相変わらずの仕事人間だなぁ!」

「そうか? 普通だろう?」


 笑顔でサラッと恐ろしい事を言う勝に、龍馬もこれまた気持ちの良い笑顔で受け流す。それに勝はキョトンとする。


「ありゃ? 勝サンじゃん。どしたの、こんな所にまで」


 そこに平賀もニュッと二人に近づく。


「あぁ、源内か。いやなに、噂の強盗が捕まったというから仕事に来ただけ、というのが九割、テレビに龍馬と直哉が映っていたからとりあえず見に来ただけ、というのが一割だな。

 本来なら当事者である龍馬と直哉には事情聴取を行う所だが………」


 そこでチラリと龍馬と直哉に目を向けた。


「………まぁ、馴染みある面々だし、まだ当事者もいる。止めといてやるよ」

「分かっとるのぉ」

「な、なんかすいません……。いつもご迷惑ばかり……」

「あれ、直哉クン……、勝サンと知り合いなの?」


 いつも、という単語に反応してか、平賀が首を傾げて問う。

 直哉は苦笑い。


「俺、すぐ職を失うし、働いてる所は大体色々ヤバい所ですし、よく警察の方に行くんですよね」

「直哉クン本当に凄いね」

「直哉の職運の悪さに俺は色々と大変なんだが……。今回は龍馬の所で働くとは、な……。


 心配と不安しかない」


「そんなにですか……!?」

「まぁ、頑張ってくれ」


 勝はポン、と直哉の肩に手を置き、警察の人達の元へと戻っていった。

 それを見届けた後、龍馬が再び声を掛けた。


「そんじゃあ、帰るぞー」

「ねぇ どこか食べに行こうよ、もうすぐお昼だし。そのくらいはいいでしょ?玄白サン」

「…………まぁ、いいだろう……、今のところ一段落はつているからな」

「いえ~い」


 笑ってぴょんっと跳ねた平賀。実に嬉しそうだ。杉田は小野へと目を向けた。


「小町はどうする?」

「……………何でも」

「直哉は?」


 龍馬が直哉へ問う。直哉の目が輝いた。


「え? いいんですか?」

「おぅ」

「だったら……んー……… 皆さんのお薦めが食べたいです」













───────志賀しが直哉なおや

異能力『自己じこ熱望ねつぼうせよ』


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