表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒステリー・パニック!  作者: シュガームーン
4/17

自己を熱望せよ 弐


「責任者は坂本龍馬様でよろしいですね?」

「あぁ。振り込みはこの口座にしておいてくれ」

「了解しました。完了至りましたらお呼び立て致しますので、席に座ってお待ち下さい」

「よろしく」

「俺…要りました? ねぇ」


 目の前でいい顔して笑っている龍馬さんを、思わずゴミを見るような目で見てしまった。


 書類をとある場所……銀行に届けたはいいが、逆に書類手続きがあった。

 入って一日二日の新入りで、またこんな大事そうな事は今まで経験したことが無く、しどろもどろに。

 そこへ助け船を出してくれたのが龍馬さんだった。とんとん拍子で話が進む進む。


 ……ハリセン無いかな殴りたいツッコミたい






 手続きが終わり、近くの長椅子へと座る2人。

 最後に書類に判子を押して貰えば初仕事は終了。


「なぁに、仕事とはあらゆる経験を積むから意味があることくらい、直哉にゃあ分かんぜよ?」

「いや、まぁ……うん、そう、ですね……?」


 呵呵、と笑う龍馬だが、直哉は分かったような分からないような納得しがたいような、微妙な顔だ。


「……まぁ、仕事は仕事なんで良いんですけど」


 そう呟いて彼は銀行内のテレビへと目を向ける。

 ちょうどニュースが始まるようだ。


『続いてのニュースです。

 四日前、第肆区で起こった銀行強盗殺人事件、被害総額は約12億にも上るそうです。また、この一件で金島かなじまみのるさん、75歳の命が奪われて行きました。

 犯人は自らを「ゴールドラッシュ」と名乗っており、約1週間前の第伍区の銀行強盗では、約15億円の被害、更には三人もの尊い命を奪っていきました────』


「銀行強盗か。最近多いのう」


 直哉が隣へ目を向けると、新聞を広げてそう呟いている龍馬が彼の目に入った。


「強盗を捕まえろって感じの依頼も来るんですか?」

「来る時ぁ普通に来るぞ。主に指名手配犯類がな」


 新聞に目を向けたまま肯定する龍馬にやっぱりかぁ、と直哉はため息をつく。


「犯人の内、少なくとも二人は異能持ちじゃな」

「え?」


 新聞を見ながら呟いた龍馬に思わず声が漏れた。

 そんな直哉の様子をちらりと見た龍馬はもっと詳しく説明する。


「テレビでも新聞でも言うとろーが……、

 ゴールドラッシュとやらは金目のものを全て『手ですら何も持たず持ち去っていく』、更に現れる際、逃げる際には『存在すらなかったかの如く消え去る』と。

 異能じゃなきゃあ説明つかんことを奴等は堂々とやっとる。

 まぁ、素人のやることじゃき、バレバレじゃがな」


 淡々と言う龍馬に納得した直哉。


 源内さん曰く、異能はかなりバラエティが豊富だ。

 『手ですら何も持たずに持ち去っていく』はおそらく物を収納する系統の異能だろう。もう一つの『存在すらなかったかの如く消え去る』の方は言うところのテレポート、瞬間移動に近い異能だと俺は考え、ポツリと一言。


「……不謹慎ですが、なんだか盗みにうってつけの組み合わせというかなんというか……」

「儂だったら異能を使わずとも、もっと追跡困難な盗みを行うが?」


 この人が言うと実行しそうでとても怖い。

 やらないで下さい、と一言釘を刺してみるも冗談じゃ、とカラカラ笑う……


 あえてもう一度言おう。

 この人が言うと実行しそうでとても怖い。


 ひとしきり笑った龍馬さんが笑みを浮かべたまま話す。


「今頃じゃが、此処も銀行……、更に銀行強盗こやつらは第伍、第肆区と来ておる。そして、此処は第参区…。

 ひょっとしちゃあ…その“ゴールドラッシュ”が現れるかもしれんのう」

「冗談止めてくださいよ、それで現れたら元も子もな……」



    ドカアアァン!! ガシャアアッ!!


「「……………………」」


 入り口付近の自動ドアやガラス、壁が盛大に割れる、壊れる音がする。

 2人は思わず無言になり、音のする方へ顔を向けた。


 全身黒ずくめの集団、全員で十人弱くらいだろうか。その内の一人が高らかに声を張り上げる。


「ゴールドラッシュだ!! 騒げば殺す!! さっさと金目の物を用意しろ!!」


 その間に黒ずくめの集団は銀行内にへと散らばっていく。


「………………、……これって…フラグですか?」

「さぁなぁ」


 冷や汗を流す直谷と違い、龍馬は顔色を変えず、


 むしろ─────


「手間がかからず助かるぜよ」


 ─────頬を吊り上げ、妖しく笑い、周りに聞こえない声音でそう呟いた。











───────自警団事務所一室………


 一人は椅子に座り、ペラペラと雑誌をめくる艶のある黒髪をもつ少女。

 一人はソファに寝転び、携帯ゲームをしている男。


「大丈夫かなぁ」

「………………」


 声を出したのはソファに寝転がった男、平賀。

 うつぶせから仰向けになり、顔のみを少女に向けて話しかける。


「そう思わない? 小町チャン」

「…………何?」


 凛としていて鈴のような声が、か細く少女の口から発せられた。

 それを平賀は体制を変えず、閉じた携帯をそのままヒラヒラと揺らす。


「だからぁ、直哉クンと龍馬サンだよ。今頃またトラブルにでも巻き込まれているかも」

「何故そう思う?」

「「!」」


 二人が扉の方を見れば、いつの間にか杉田が入ってきており、パタンとその扉を閉めた。


「お疲れ、玄白サン。来たんだったら声くらいかけてくれればいいのに」

「あぁ、すまない。それで?」


 近い椅子に腰掛け、先程までの話を促す杉田に平賀は上体を起こし、口を開いた。


「龍馬サンがわざわざ直哉クンの簡単な仕事について行くんだよ? あの人トラブルに自分から近づいていく厄災みたいなものじゃん」


 今頃テレビで放送されてそう、とぼやく平賀を見つめる2人。

 正直な話、平賀の考えていることはほぼ当たる。そのため、今話していることをあまり放っておくことが出来ない。


「小町も同意見か?」


 杉田が小野を見て問いかける。小野はその問いかけに少し間を空け、頷く。

 そして彼女は近くにあったリモコンへと手を伸ばして電源を入れる。


 ぷちっと音が鳴り、画面へと映ったのは緊急速報。


『─────………銀行強盗集団ゴールドラッシュは現在銀行内へと立て籠もっております! 中の人質は約60名程で、警察もうかつに手が………─────』


 女子アナが野次馬の外から状況を説明、テレビの画面が銀行内をアップで映す。

 そこには………


「…………あ」

「全く………」

「やっぱりねぇ……」


 各々三人は呟き、お互いに目配せすると部屋の外へと向かった。


「あ、悪い。小町、テレビを消してくれないか」


 部屋を出る直前杉田が思い出したように小野へ頼む。それに彼女はこくりと頷き、再びリモコンへと手を伸ばす。


 テレビに映っていたのは、

 青ざめて隣の人を見ている少年と

 こんな状況に似合わないほど穏やかに笑っている男だった。

 その直後 プツリ、と画面は黒く、何も映さなくなり、


「ほらほら。早く行かないとあの放浪人しでかすよ」

「新人が心配だ」


 人が出て行く騒がしい音が部屋に響いた。











 一方で銀行内部では、テロが続いていた。


      …………しかし 一人は楽しそうだ。


「いやぁ……これは厄介なモンに巻き込まれたなぁ」


 満面の笑みでその一人が音量を下げることなく大きな独り言を呟く。隣に座っていたその男性の連れはギョッとして止めに入る。


「ちょっ、声が大き………」

「あ? 何だよテメェ」

「(ほらああああぁぁ!!)」


 心の中で大きく絶叫している直哉を知ってか、いや、確実に知っていて知らないフリをしている龍馬は「んん?」とその男を見てせせら笑う。


────完全に馬鹿にしている。


 簡単に男が逆上して龍馬の首元を乱暴に掴み上げるが、それでも龍馬は涼しげな顔をしている。それが男の怒りを押し上げた。


「テメェ、ナメて…………







…………………………あ…………?」


 膨れあがっていく怒気ごと体の力もゴッソリと持っていかれて、無くなったかのような喪失感に似た感覚に、首元を掴んでいた手の力は抜け、ガクリと膝をつき倒れ込んだ。

 全く体が動かない、自分が何を考えていたのか、考えようとしているのか、全く分からない。



 ただ僅かに指先が動くだけ。



 そんな男を上から見下すように笑って見ているのは、先程まで首元を掴まれていた男、龍馬だった。


「全く、人質というのは無事だから意味があるからこそ、大切に扱うもんだというのに」


 分かっとらんなぁ、と龍馬は再び直哉の隣へと腰を下ろす。


「なぁ 直…………どうした青ざめて」


 龍馬の隣に座っていた直哉の顔は病人のように青ざめていて、思わずそう聞いてしまう龍馬。

 当の本人はポツリと呟く。


「周り、」

「……ん? すまんもう一度」


 本当に小さく呟いたため、聞き取りにくかったのか聞き返す龍馬にギギギ、と音がつきそうな首の振り向き方をする直哉は冷や汗をダラダラ流している。

 思わず龍馬は軽く引いてしまった。


「どうした」

「ですから周り……!」

「あ? 周り………?」


 龍馬がふと周りに目を向ければ、銀行内の人ほぼ全員から注目を集めていた。


 そのことにようやく気がついて、


「儂を見つめてどうしたんじゃ?」

「「「「遅ぇよ!!」」」」


 首を傾げる龍馬に、余裕がまだある者がそう突っ込んだ。


「テメェ一体何しやがった!?」

「おいおい。こりゃ、偉いことになったもんぜよ」


 怒鳴られているにも我関せずと、くつくつ笑っている龍馬はよっこらせ、と年寄りじみた声を出してゆっくり立ち上がる。

 すると先程怒鳴った男がずんずんと龍馬へ寄っていき、額へ銃を突きつける。


 室内には悲鳴が上がり、テロリストが「うるせぇ!!」とその悲鳴を恐怖で打ち消す。

 直哉も驚き立ち上がろうとしたが、龍馬がそれを手で制する。


「テメェ……異能持ちだな?」

「ほぉ? 儂が? ふむ、何故そう思う?」


 銃を突きつけられても涼しい顔をしている龍馬。

 男はフン、と鼻で笑って見下すように龍馬を見る。


「見りゃ分かるさ。俺の能力より遙かに劣る欠陥品だろうがな」

「その言動から読み取るに、御主おぬしは恐らく瞬間移動の方の能力者か」


 男を真っ直ぐ射貫く、その眼光に、男は一瞬気圧されたがすぐに気を取り直す。しかし、その声には、少しの険しさが混じり込み、


「………何故そう思う?」

「おやおや、先程と立場が逆になってしもうたなぁ」


 クスクスと笑って答えようとしない彼のすぐ真横に何かが爆音と共に通り、後ろの壁へとメリ込んだ。


 悲鳴が上がる。


「悪いが……俺はそこまで気が長い方じゃねぇ」


 マスクのせいで表情は分かりにくいが声色は先程より低い。


 次の瞬間───


「いだっ!?」

「ママぁっ!!」


 近くにいた女性の髪を乱暴に掴み上げ、龍馬に向けていた銃をその人へと突きつけた。側にいた小さな男の子はその女性にすがりつく。


「何やってるんだ!!」


 直哉が驚きと共に叫んだ。立ち上がろうとするとその頬に銃弾がかすり、壁へ跳ねた。

 彼の頬には傷が一線、赤い血が一筋。


「黙ってろガキが!」


 女性の髪を掴んだまま乱暴に揺さぶった。彼女の顔が苦痛で歪む。


「っ………………!!」


 ギリリと歯を噛み締め、その覆面男を睨みつける直哉。その様子を見ていた男はフン、と鼻で笑う。


「ねぇママはなしてよっ!! ねえってばぁ!!」

「……ちっ」


 ……が、すぐ側で涙を流し、グシャグシャに顔を歪めた男の子を見て


 ───────蹴り上げた


「ぎゃっ!!?」


 鈍い音がして小さな体が浮かび、軽く吹っ飛んだ。


「ケンタ!!」


 母親である女性は悲痛な声を上げる。

 ゴロゴロと転がり、ゲボッ、と胃の中身と血を吐き出してうずくまった。


 目を見開き、直哉は思わず何も考えられなくなる。


「────やっと大人しくなったか」


 その耳に我慢が爆発する言葉が入り込んだ。


 ひ弱な子供を、その勇気を、蹴り上げ、更には侮辱する。


 頭の中で何かが切れる音がした時には、直哉はすでに地を蹴っていた。


 拳を握り締め、目の前の男に思い切り振り抜いた。


「ぶっ……! あがあっ!!?」

「リーダー!?」


 龍馬の目の前の、子供を蹴り飛ばした男が吹き飛び、壁へとぶち当たった。


「…………ほぅ……」


 龍馬は感心したような、驚いたような呟きをもらし、目の前に立つ黒髪の少年を見る。彼からは怒りのオーラが立ち上っているかのようで、指の関節を鳴らしている。


「がはっ! ガッ………ガキィ!」

「謝れよ。二人に」


 ビクリともする、底冷えする、怒りを噛み殺した声。

 そのテロリストが見たのは怒りに燃える少年の、その紅い双眼(・・・・)

 ギロリと、子供を蹴った男を睨みつけた。


「謝れっ!!」

「調子に乗んじゃねぇよガキィイ!!」


 側にいた一人が激昂。

 銃を向け、発砲───それは少年の左こめかみに命中。


 銀行中に、大きな悲鳴が上がった。


 撃たれた少年の体が大きく右へと傾くが、突然その動きが止まった。


「…………はっ?」

「………あ?」


 撃った男が有り得ないモノを見る目と、少年が男を睨む目が交差する。カラン、と少年に当たった筈の銃弾が床を鳴らした。



 ───それと同時に


「うごっ!?」


 男の鳩尾に拳をめり込ませる直哉。そのまま殴り飛ばす。


「……てっ………てめぇは………っ」


 先程まで怯えていたあの少年ではない。

 ─────『狩られる』側と『狩る』側の立場が、この瞬間に逆転した。


 リーダーと呼ばれた男は咄嗟に残りの仲間に指示を出そうと少年を指差す。

 その動作を見て、少年も身構えた。


「うっ 撃て────」


 少年に向かって残りの銃が全て火を噴く









「あらぁ? これって良い状況だったかな?」


「───……はっ?」


 ────が、そこへこの緊迫した状況をぶち壊すような吞気な声が響いた。

 指示を出そうとしていた男は呆気にとられている。



 ジャリ、とテロリストが空けた穴から入ってきたのは三人という少ない人数だった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ