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ヒステリー・パニック!  作者: シュガームーン
2/17

新たな仕事場

───パクパク、モグモグ、むしゃむしゃ……


 終わることなく咀嚼音が続く、ある店、一つの席の二人。


 一人は目の前の料理をこれでもかというほどに食べ、先程から咀嚼音を奏でる少年。もう一人はその少年の目の前で頼んだお茶とみたらし団子を味わう男性。


「はあ~~………生き返った!」

「もういいのか?」


 そう問う男性の目の前には空けられた大量のお皿の山と、それを積み上げて作ったのであろう少年。大きく息を吐き出し、後ろの椅子へと体重をかける。


「はい! 久しぶりにお腹いっぱい食べました。ありがとうございます」


 少年…直哉の嬉しそうな笑顔につられて、男性…龍馬も笑って、そうか、とお茶を一口含んだ。


「して、志賀直哉、といったか…。何故そこまで空腹なんじゃ?」


 見た限り、目の前の少年は未成年。服は多少汚れているがそこまでぼろぼろでもない。身なりとしてはそこそこ整っている、というのが龍馬の見解だった。


 直哉は、あはは、と少し苦い顔。


「実は自分、孤児院で育っておりまして……。今はもう独立して一応一人暮らしを」

「ほぉ? その若さでもう働いとるのか。世の中キツイもんじゃのう……」

「えぇ、まあ…。ですけど、また解雇クビにされて一からやり直しなので……」

「本当大変じゃな 御主おぬし


 龍馬の憐れみの目に直哉ははい、とどんよりオーラを醸し出す。再び坂本はお茶を一口、何気なく次の一言を繰り出した。


「なら、儂と来るか?」

「まぁ、別に今日たらふく食べれたので……あと二日は……



 ……………………………え?」



 どんよりムードから一転。目をパチクリとさせ、目の前でみたらし団子を頬張りお茶をすする男に直哉は尋ねる。


「あ、……あの、」

「ん?」


 なんじゃ、と彼が顔を上げ、モグモグと口を動かす。


「今何と……」

「んん? じゃから……」


 彼は良く味わいつつ、団子を飲み込み一呼吸置くと


「儂が仕事と職場を与えてやろう、と言うとる」

「…………。


 ………………。


 ……………………本当ですか!?」


 数秒間固まって龍馬の言葉を理解した直哉が、ガタッ!と荒く前のめりに立ち上がり、龍馬へと再確認する。その必死な表情を龍馬は「おう」と変わらず笑って受け流し、落ち着け、と座らせた。周りからは何事か、と視線を受けていたが何事も無いと分かるとすぐ反れた。


「勿論、ぬしが構わんならの話じゃ。何分儂の職場は変わっておってな……。後戻りはほぼ出来んぞ?」


 それでもいいのか、と今までとは違う真剣な表情で試すように問う龍馬。少年はそんな雰囲気を感じとってか、一瞬気圧されるが、すぐに口を横真一文に結んで、その視線と思いを受け止めた。


 そうしてお互いを睨み合い、長く感じる数秒後───


「どんな仕事かは、まだ分かりませんけど……。こんな自分でも誰かが求めてくれるのなら」


 先に口を開いたのは直哉。龍馬と同じく真剣な表情をしている。

 お願いします、と頭を下げる直哉に、龍馬は少し目を見開き呆気にとられたようにキョトンとしていたがすぐにくっ、と吹き出した。


「儂こそ頼むぜよ 新入り」











 カラコロリ、と下駄の音が鳴り響く。

 その後ろからもう一つ歩く音が聞こえるが、下駄の音に容易く飲まれる。

 物静かで人気ひとけが少ない此処は、


時代ときしろみやこ 第伍区だいごく


 この都市には第壱区だいいちくから第玖区だいきゅうくまであり、数字が低いほど治安は良く、逆に数字が高いほど治安は悪い。

 ちなみにこの第伍区はそのちょうど境目さかいめの地区。治安は良くもなく悪くもない半々の区である。


「あの、すいません。一体どこに……」

「職場に決まっとろうが」


 直哉の問いに、何を言っとるんだ、というよう、こともなげに返す龍馬。

 え、もうですか!?と直哉は驚き、

 善は急げじゃろ、と龍馬は笑った。


「でもっ、いきなりって、その、面接とかそういった類のものは………」

「何を言っとる。儂のお眼鏡にかなった時点で面接なんぞ合格したも同然じゃき。気にしなさんな。

 ……まぁ、強いて言うなら職の適性を見るだけじゃな」

「適性……ですか?」

「おう、最近の若者わかもんはうたれ弱いからか、1日でやめていきよるんじゃ……。困ったもんぜよ」

「エ?」

「もうすぐ着くぞ」


 下駄の音が止まり、目の前にはどこにでもあるような建物が。

 1階、目の前の扉には「2階へどうぞ」と書かれた看板が立てかけられている。少し目を右へと向ければ、2階へとそのままつながる金属製の階段があった。

 龍馬は迷うことなく2階へ続くその階段に足を掛け、直哉は慌ててその後に続いていく。


「あ、あの! 今更なんですがどんな仕事なんでしょうか!?」


 先程から妙に危機感が頭の中で警報を鳴らす。

───そういえばまだ仕事の内容を聞いていない、と。

───分かっているのは一度入れば後戻りは出来ないことのみだ、と。


 一体、1日で新人が辞めていくような職場って……!?


 そんな様子を感じとってか、龍馬はニタリ、と妖しい笑み。少年は更に警報を強く鳴らして青ざめる。


   そして……


「自分の目で確かめてみろや」


───ガチャリ


 扉が開かれた。



 広い室内の中にはパソコンやソファ、テーブルなどが置かれており、そんな室内に居るのはわずか3人のみ。

 龍馬は中に入り、まだ扉の外で深呼吸をして固まっている直哉に手招き。ようやく彼も中へと一歩踏み出した。

 それを見て龍馬が吹き出した。


「出す手足が一緒だぞ」

「緊張してるんです」


 直哉の声に反応してか、各々自由にしていた3人が、2人に顔を向けた。


「え、龍馬サン……誰それ」


 3人の内の1人が龍馬へと問う。

 首にはヘッドホン、赤い髪はボサボサで目は眠たげ。薄汚れている白いパーカーを着た男が持っていたゲーム機を閉じて聞く。

 龍馬はニッと笑って答えた。


「新人じゃよ」

「…………………」


 赤髪の男は龍馬と直哉を見比べて、怪訝な顔。


「誘拐?」

「違う」


 龍馬は即答して、開いたままの扉を閉める。

 その間にも3人の少ない視線が、初対面である少年へと突き刺さった。思わず直哉は固まり、それを知ってか龍馬は彼の肩に手を置いた。

 そして、良く通る声で3人に口を開く。


「今から此処で働くことになる、新人の志賀直哉じゃ。仲良くしてやってくれ」

「「新人?」」「……………」


 赤毛の男は頭を傾げて後の2人を見る。1人は白衣を着た男、もう1人は黒髪の美しい少女だ。


「そんな話聞いてる?」


 赤毛の男がそう問い、


「いや、聞いてないが……」


 答えたのは白衣の男だった。彼は読んでいた本から龍馬へと目を向ける。


「龍馬。いつの話だ」

「今日じゃが」

「おい」


 呆れたように白衣の男は息を吐き、本をパタンと閉じる。

 黒に限りなく近い茶色の髪と灰色の目をした男は、今度は直哉へと目を向けた。


「志賀直哉、……と言ったか」

「えっ? あ、はい」


 唐突に話しかけられ、再び身を固くして白衣の男に神経を集中する。


「…無理に連れて来られた訳ではないな?」

「え」

「儂はどういう認識をされとる」


 全く、と言うように息を吐く龍馬を白衣の男はじと目で見る。

 男は立ち上がり、直哉へと近寄ると手を差し伸べた。


「私は杉田すぎた玄白げんぱく。医者をやっている。疑ってすまないな…、龍馬は常に何をしでかすか分からないのでな」

「そうそう、放浪癖はあるし。

 …………あ、おいらは平賀ひらが源内げんない


 杉田の後ろからヒョッコリと顔を出す眠たげな男が、よろしく、と笑って、あと1人を指差す。


「んで、あっちの無口な子が、小野おのの小町こまちチャン」


 名を呼ばれて、唯一の彼女が小さく会釈。つられて直哉も軽く会釈した。


「本当は後3人ほど居るんだが、今丁度出払っててな。挨拶それはまた別の機会にしてくれ」

「は、はい」


 握手を交えた後、受け入れてもらえたことに安堵する直哉。それを見ていた龍馬もニィ、と笑う。


「改めて言おうか。新入りの志賀直哉よ」

「?」

「ようこそ。『自警団じけいだん 海援隊かいえんたい』へ。歓迎するぜよ」


 龍馬は朗らかに笑っているが、それに比べて直哉の顔は険しい。

 知ってか知らずか、彼は続ける。


「小さな職場じゃが、やりがいはあるじゃろう」

「………自警団?」

「「「?」」」


 やっとの事で出た言葉に龍馬以外は首を傾げた。


「あれ、聞いてないの、直哉クン」

「龍馬………」

「こっちの方が面白いじゃろ」

「そういう問題ではない」


 ちょっとこっちに来い、と龍馬は杉田へどこかへと連れて行かれ、残ったのは

 ポリ、と頬を掻き、どうしたものかとため息をつく男、平賀。

 まだ一言も発さない無口な女、小野。

 ことの張本人である 直哉。

──の3人である。


「あ……あの、平賀さん」

「んえ? あ、うん。何?直哉クン。源内でいいよ」

「此処はどういった職場でしょうか」


 絶望的な表情の直哉に気づいてないのか、平賀は顎に手を和え、言葉を選ぶように考えつつ答えた。


「そうだねぇ、簡単に言うなら……。荒事専門の集まりってトコ? 町の事件解決、指名手配犯の確保とか………

 ……まぁ、治安をより良くするためって言えば分かりやすいかな」


 簡単にだが説明する間、直哉の顔は強張り、青ざめてきている。

 ようやくそれに気づいた平賀は一言呟いた。


「とんでもないトコ来ちゃったね」

「…………はい」


 床にのめり込まんとどんより落ち込む直哉の肩を、平賀は労るようにぽん、とたたいた。



投稿出来ました。歴史人物の性格等は作者の想像です。

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