雛菊とトイレの花子さん
前回のあらすじ
すれ違いから
お互いに誤解を抱き続けていたが
氷屋の息子、氷河が自分のストレスにならないように
丸く収めて解決
仲直りさせた事により
前よりも、バカップルの様に成った雛菊と幸だったのでした
チャンチャン♪
癒依月荘では、人ではない存在が住んでいる
それは人にはあまり知られていない事です
また、住んでいる部屋はハーレム状態になっているという
『御主人様〜
特製のお弁当の用意が出来ましたわ〜♪』
アイロが、美味しそうなお弁当を作り
幸に渡す、当番制になった様だ
「わーい♪
ありがとー!
唐揚げおいしそ〜」
『一つは、別のを入れてありますわ♪
それは残しておいてくださいまし』
「何で残すの?」
『秘密ですわ♪』
「あーい♪」
▽▽▽
『САЧИ!
朝食よ〜
美味しいわよ〜』
朝食当番になったウボールカが、朝食を作っていた
「えーっと……
ビーフストロガノフと……ボルシチと……油で揚げた……ピロシキ!」
『詳しいわね〜
冷めないうちに食べなさいね〜САЧИ?』
『待つんじゃ!
ウボ!
肉ばかりで朝っぱらから体に悪いぞ!』
『朝食は、寧ろがっつり食べた方がエネルギーの効率が良いのよ?
топлёное молокоも有るわ』
「たぷたぷ?」
『Молко……意味は牛乳よ
低温でじっくり煮込んだ牛乳よ……
私は実はロシア出身なのに
隠れて掃除ばかりの毎日で、だからуборкаって名前付けられて
実際……本場の料理とか一切食べたことが無いのよね』
『何じゃと!?』
『だから、ちょくちょくネットで調べたり
図書館に行って、調べたりしてるわ
САЧИに食べてもらう為にね……』
「あ〜
……つまり……地元の名所や名物ほど、実はあまり行ったり食べたりしてないってやつだね〜」
『なるほどのう……
妾も、あまり食べる必要性が無いからの……
言われてみれば、岩手の実家では幸と仲良く半分にしたもの以外食っとらんな……』
「僕が大食いとか、よく食べるのに太らないねって言われた事が有るけど
僕よりお姉ちゃんの方が、食べる時多く食べてるから
僕が食べてるって思われてるんだよね〜」
『Хинаって、実際のところ
どれくらい食べれるのよ?』
『成人男性二人分の1食分に匹敵する食事量くらいは食うの』
『力士か!!
何処に行ってるのよ食べたものは!?』
『力士はもっと食うじゃろ?
妾とて無理をすれば、力士三人分くらいの量くらい食えるがの!
もし幸の手料理なら本気を出せば、横綱が束になっても食いきれん量を食らうし、絶対に残さぬ』
『どれだけСАЧИが好きなのよ……』
『言葉では言い表せぬ……』
「お姉ちゃんあーん♪」
『あむぅ〜
むあいの〜♪』
雛菊が幸の手ごと出された切り分けフォークに刺さったビーフストロガノフをほお張り、幸の手をしゃぶる
「危ないよ〜
フォークが喉に刺さっちゃうよ……」
『先の丸い肉刺しじゃから大丈夫じゃ』
「フォーク飲んじゃったの……?」
『心配は要らんぞ幸よ
妾の身体は、すり抜けて肉刺しのみを取り出せるからの
ホレ』
『汚いわね!!
飲んだフォークで食事を続けないで!
洗ってきなさい!』
「僕、お姉ちゃんのなら平気だよ〜?」
『妾は、幸のなら大喜びじゃ』
『馬鹿なこと言ってないで早く食べなさい!』
『……遅刻いたしますよ』
サラが、漫才トリオに割って入り
登校を促す
「そうだった〜!
学校行かなくちゃ!!」
『そうそう、前にХинаとСАЧИの影響で爆発したマンホールね
手抜き工事と老朽化が重なって
丁度、地震が有ったらしくて……
ガスが地下の至るところに混ざったってニュースで発覚したわよ……
САЧИのラッキーでアンラッキーが広範囲に及ぶから
なるべく、САЧИを単独行動にしない様に
誰かがСАЧИと行動した方が良いわよ
Сараとか私とかが』
『何故妾が入っとらん!?』
『おおっと〜!
私を忘れてもらっては困りますわ!』
『あんたらは、論外よ!
イタズラしかしない奴と性的イタズラしかしない奴は!!』
『あんまりですわ……しくしく……私とてイタズラばかりしてるわけじゃ無いですのよ……オヨヨヨ〜ン』
『お〜よしよし……あの狂犬は酷い事を言うのぉ〜
ヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ』
『禿げますわ!!
やめてくださいまし!!』
『誰が狂犬よ!!
嘘泣きなんか止めなさい!!
САЧИが信じちゃってるわよ!?
明らかに口でオヨヨヨとか!
しくしくとか言ってるのに信じちゃってるわよ!?』
『否、違うぞウボよ
アレはトイレに行きたいが時間を心配している顔じゃ!!』
『行ってきなさい……』
「行ってくるね……」
▽▽▽
幸は、学校に向かっていた
雛菊を連れて手を繋ぎ仲良く登校をしている
「んー?
お姉ちゃん、あの人達何で道の所で塞いでざわざわしてるの?」
『さあの?
とにもかくにも、退いてくれなければ学舎に行けぬの……
おーい?
何があったんじゃ?』
「ん?
ああ、道に不法投棄されてるんだよ
お嬢ちゃんじゃ重くて退かせなさそうだから、レッカーとかが来るまで
みんな足止め喰らってるんだ」
『ふむ、アレか?』
「ねえ、お嬢ちゃん?
アレってミニョルニルじゃない〜?
トールハンマーだよ、たぶん!」
『北欧神話のか?
あんなものを
こんな所に捨ててある訳無いじゃろ?
いくら、捨てる神あれば拾う神ありという
ことわざが有ろうと、ミニョルニルを捨てる雷神なんぞ居るわけ無いじゃろ?』
「でもみんな、困ってるし
序でに持っていこうかな〜」
『何でもかんでも、拾うでないわ……
でもまあ、後で交番にでも持っていけば大丈夫じゃろ』
「うんしょ……うんしょ……
重いね〜これ〜」
幸は、落ちている槌を引き摺り動かして行く
「待ちなさい君!
レッカー車が来たから本官に任せなさい!」
警官が来て幸を止めた
「そう?
じゃあ、僕は学校に行くね〜」
幸は歩き出したが、警官が動かそうとしても槌はピクリとも動かなかった
「重い……よくこんなの引き摺って歩けるな……
き……君!
やっぱり運ぶの手伝ってくれないか?」
「う〜ん……僕も重いし……」
「引き摺って歩けるだけましだから手伝ってくれないか?」
「うぇぇ……遅刻しちゃうよぉ……」
「向こうまで!
向こうの広い道に出るまでお願いしますよぉ〜!
レッカー車が狭い道に入れないんですよぉ……
落とし主が見付からなかったら
君が貰っても良いからぁ……」
「う〜……
レッカー車の所までだよ〜?」
幸は、再びハンマーを引き摺り運びだした
『持ち上げたらどうじゃ?』
「んー!
重いよ〜!
持てないよ〜!」
幸はフラフラと今にも転びそうだ
『妾が持ってみるかの〜
幸よ、一旦置くんじゃ』
幸が地面に置いたハンマーを雛菊が掴み、重さを確かめた後
片手で持ち上げ、肩に乗せながら軽々と歩き出した
「すごいね〜!
お姉ちゃん!」
「あのお嬢ちゃん何者なんですか?」
「お姉ちゃんだよ〜」
「はっきり言って、本官のタイプ……
主導権握られて、なすがままにされたい……」
『妾は幸以外の男に興味なぞない
このアリス・コンプレックスめが』
「ミーはショック……
哀で涙が落ちてくる……
ここまででいいです
ご協力感謝します!」
「じゃあ、僕は行くね〜」
「落とし主が見付からない場合の書類にサインをしてくれないと
ハンマーは渡せないんですが」
「もー……パパッと書いたら行くからね……」
『幸よ……よく考えるんじゃぞ?
冷静に考えて、要るか?』
「お姉ちゃんが持ち上げられるから何かに使えるかなって」
『そうかの?』
幸は、書類にサインをした
「じゃあね〜」
▼▼▼
幸は、雛菊と学校の校門までやって来た
どうやらギリギリ間に合った様だ
「おはよーございまーす♪」
門の番をしていた、先生が時計を確認して言った
「遅刻一歩出前だぞ
もっと早く来い!」
「ごめんなさい……ボルシチがあまりにも美味しくて……」
「朝から何食ってんだよ!?」
「ボルシチとピロシキとビーフストロガノフ……」
「朝食は簡単に作れるもの食べてこい!!」
「わかりました……」
幸が校門に入り靴を履き替えるが、雛菊は地面から3?程
浮遊しているので、上靴に履き替える必要は無い
「お姉ちゃんの上靴って無いの?」
『妾は浮いとるから問題無いぞ?』
「そっか〜」
「おい幸!
何、独り言
言っとんねん!!」
幸の背中を、友達が多く
ガールフレンドもいるので勝ち組だと思って自惚れている男が
叩いた、その勢いで幸は
顔面を下駄箱に、ガンっと、ぶつけた
「●ヤングッ!?」
「何でカップ焼きそばやねん!!」
『コヤツ……』
雛菊が、幸の背中を叩き
下駄箱に顔面を叩きつけた男を睨み、襟首を掴み
くるりと縦に回転させて床にビタンと叩きつけた
「ウッ……」
「大丈夫?」
『行くぞ幸
出席に遅れるぞ?』
「あーい」
▽▽▽
「間に合ったかな?」
「早く席に着きなさい
出席をとります……」
出席チェックを済ませた幸は、授業を受けているが
膝には雛菊を乗せている事を認識出来る者は教室には幸以外は居ない
「この問題が解る人は?」
誰も手を挙げない
「居ないのか?
じゃあ幸でいいか、答えを言ってみろ」
「えっと……まだそれは習ってないんだけど……」
『妾に続け幸
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらは(わ)す
おごれる人も久しからず……
ただ春の夜の夢のごとし
たけき者も遂にはほろびぬ
……ひとへに風の前の塵に同じ……』
「祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
たけき者も遂にはほろびぬ
ひとへに風の前の塵に同じ…………?」
「教えてすら無いのに知ってるのか……」
「何だよ幸ぃ〜!?
その詠唱呪文みたいなのはー!」
「詠唱呪文じゃない
まだ続きは有るが、平家物語の……
いわば、どんなに栄えていても
いずれは滅びるという事だな」
『いかんいかん……ついつい幸に答えを言ってしまったわい……
幸よ、妾は勉強の邪魔にならぬよう
学び舎を彷徨いてくるからの』
「あーい」
▼▼▼
雛菊は、何となくトイレに来た
何やらモクモクと煙がトイレの上に昇っている
『何じゃ?
火付けか?』
「誰!?
おい!!
誰だか知らんけど先公にチクんなよ!!」
トイレの真ん中の扉の鍵が空き、タバコの臭いと共に人が出てくる寸前
雛菊は、隣の3番目のトイレに隠れた
『……ふぅ……よもや、厠で煙草を吹かしておる者が居るとは思わなんだ……』
『え……あなた誰よ……?』
おかっぱ頭の、赤いスカートを着用した古風な制服の小学生が、中学校であるにも関わらず
トイレに居た
『すまんの〜使用中じゃったか〜?
図々しい様じゃが、匿ってくれぬか?』
『えぇぇ……』
その時、トイレの個室の上から水が降ってきた
ホースで放水をされているのである
『きゃっ!?』
『妾の後ろに隠れておれ
水くらいなら、妾が傘になってやろう……』
雛菊が、小学生の女の子を庇い水を浴びてびちゃびちゃに濡れていく
『トイレを……トイレを汚さないでよ!!』
勢いよく、小学生がトイレの扉を開けた
トイレからは水が、手の形に伸びている
「ギャアア!?
花子がダブルで出た!?」
『初対面で呼び捨てするなんてマナーがなってないわよ!!』
『何じゃ?
花子というのか?
妾は雛菊じゃよろしゅうの』
『後にして!!
今回の放水以外にも何度も何度もトイレにヤニを充満させるわ!
便器の中に人を沈めて暴れさせて騒がしくするわで
いい加減頭に来たわ!!
そんなにトイレが好きならトイレの中に流れなさい!!』
花子と呼ばれた小学生が、水の腕を便器の中から伸ばして
未成年喫煙者をトイレに引き摺り込んだ
「や……やめて!!
離して!
ああああああああっ……」
ジャー……ゴポゴポという音と共に流される未成年喫煙者
『あ〜〜スッとしたわ……
で?
何だっけ?
ヒナゲシ?』
『雛菊じゃよ
雛芥子は遠い昔の妹の方じゃ』
『ふーん
雛菊ねぇ……あなたも初対面なのに呼び捨てするなんて礼儀がなってないわね』
『うむ、確かに初対面じゃな……
どうも他人とは思えない相手じゃからの
ついついの〜
非礼を詫びよう花子嬢』
『花子さん……でしょ?』
『ドーモ、ハナコ=サン
ヒナギクです』
『嘗めとんのかコラ
喧嘩売りに来たの?
買うわよ?
ん?』
『妾は見付からない様に隠れただけじゃよ
喧嘩はせんよ』
『あ〜はいはい……とりあえず着替えなさいよ
予備の服貸すわよ』
『いや、妾はこれでよい
座敷童子じゃからの
花子さんと判別不能になってしまうからの……ん?
もしや……都市伝説や学校の七不思議や学校の怪談等で有名な
トイレの花子さんか?』
『は?
今さら?
てか、座敷童子?
ここは岩手じゃないわよ?
東北じゃなくて関西よ?』
『知っとるよ
越して来たんじゃよ
幸というこの学舎に通う大切な人に着いてきたんじゃ……
今度紹介してやろうか?』
『あなたの知り合いとか、不安感がするんだけど?』
『幸はマトモじゃよ?
……いや……中学生になっても座敷童子の妾が見える故に、マトモでは無いのかの?』
『何?
マトモじゃない知り合いもいるの?』
『居るぞ〜?
共にアパートの一室で住んでいるのは掃除ばかりの潔癖症なゴールデンレトリバーじゃろ?
イタズラ好きの頭の変な茶色いメイドじゃろ?
表情に変化の無い無表情じゃが、まだマトモなメイドと……
他の部屋の住人には、驚くと
ねじ回しで刺してくるサラリーマンが住んでいての〜』
『怖っ!!
修羅の国!?
引っ越した方が良いわよ!?』
『それは出来ぬ
幸はそのアパートの大家じゃからの』
『えぇ……
大家〜?
世も末ね……中学生で大家なんて……親は何してるのよ……』
『あー……幸はの〜
妾が見える故に、母親から実家を追い出されたんじゃよ……
父親同伴で、アパートの大家契約をさせてもらったのがせめてもの餞別じゃな』
『何で中学生でそんな闇抱えてんのよ……』
『アレじゃぞ?
幸以外、皆人外で同居しとるからの
見えぬ者からしたら、牡丹灯籠の怪談の如く
異様な……精神病院に入れられる様な
一人芝居のホームドラマに見えるんじゃよ』
『それは遣る瀬無い気持ちになるわね』
『そうじゃろ?
じゃがな、妾は幸が幸せになる為に何が必要かと
考えるあまり、幸の気持ちも考えず
幸を悲しませてしまったんじゃ……
幸はそんな妾にも嫌わずにいてくれる本当に大切な存在じゃ……
是非とも幸に会ってもらいたいの〜』
『えぇぇ……でも私は女子トイレの怪異よ?
男には会えないわよ?
私と同時期に男子トイレには太郎ってのが出現するから
男はそっちにしか会えないわよ?』
『次郎は居らんのか?』
『いないわよ』
花子さんと会話をしているとチャイムが鳴った
『おお……幸が飯を食べる時間じゃな
妾と食べれる用に多目に拵えられておる弁当なんじゃよ』
『ふーん』
▽▽▽
「いただきますどうぞ♪」
『今戻ったぞ幸〜』
「おっ、うまそー」
以前に、幸の弁当を食べたクラスメイトが性懲りも無く
現れた
「あげないよ!」
「大丈夫大丈夫、盗らないって〜
……唐揚げゲット!
へへへーん♪
騙されたな〜!」
「ああっ!!」
『なんて卑しい奴じゃ!!』
唐揚げを口の中に
まるごと放り込んだクラスメイトがみるみるうちに苦しみ出す
「うっ……ヴェェェェ!?」
そしてのた打ち回り、床で頭を打ち意識を失った
「何なの……?
アイロお姉ちゃんが言ってた最後の一個の秘密を引き当てたの?」
『まさか……アイロは妾にコレを食わせようとしたのか!?
とっちめてくれるわ!!』
「幸君!!
いったい何が起こったんですか!?
説明しなさい!!」
悶え苦しむクラスメイトを見た先生が、幸に詰め寄ってきた
「僕のお弁当勝手に食べて倒れました!」
「本当です先生!
見てました!
勝手に盗み食いして倒れました!」
目撃者の他のクラスメイトが味方になった
「私も見た!」
「俺は行き成り唐揚げを奪って食ったのを見た!」
「なんだ自業自得ですか
人騒がせな」
『アイロは何を入れたんじゃ!?』
▽▽▽
放課後、雛菊と幸は下校中に手を繋いで歩いていたが、幸が立ち止まり言った
「あ〜
今日も1日疲れたなぁ……
そうだ〜!
お姉ちゃん、銀行いこ〜
お金卸さなきゃ」
『はいよ
そういえば、幸よ
アパートの税金は払っておるのか?』
「銀行自動引き落としだよ〜?
アパートの家賃も振り込まれるの
別に遅れても払ってくれれば構わないけど
薄井さんは
まめだよね〜
毎回ちゃんと払ってくれるの」
雛菊と幸は銀行に着き
預金通帳を見て、幸の口座から生活費を引き落とす
『のう……幸?
家賃では説明出来ぬような、収入があるんじゃが……
コレは何の金じゃ?』
「実はね……お姉ちゃんとの暮らしを
暇潰しに漫画にしたりして、描いてたら
ルカお姉ちゃんがね〜?
出版社に持ち込みに行きなさいって言ったから
持っていったら、気に入られて……」
『初耳なんじゃが……』
「お姉ちゃんにプレゼント買って驚かせたかったの……」
『プレゼント?
妾に贈り物なんぞ……
幸から貰った赤いリボンが何よりも宝じゃ……
幸が居れば贅沢はせんよ……酒ももう飲まぬ』
「御揃いの何か……食器とか買おうかなって思ってたんだけど」
『ま……まさかそれは!?
夫婦茶碗というヤツか!?』
「たぶんそうかも」
幸は夫婦茶碗の意味を殆ど理解していない
『こ……壊れやすい物は……その……嬉しいが困るんじゃが……』
「じゃあ、夫婦雛っていうの前に売ってたから買う〜」
『夫婦雛……幸は妾に成仏させようとしておるのか?
浄霊をするきなのか?』
「僕を置いていかないで……」
『幸を置いてあの世には逝かんぞ?
毎回耐えておるからの……いつか耐えきれず逝くやもしれぬが
また、修羅道でも何でも殲滅させて何度でも幸の元へ戻る故に心配は要らぬぞ?
妾が幸絡みで本気を出せば、地獄の鬼も泣き喚く程の底力が出せそうじゃからの』
「すごいね〜
お姉ちゃん強いんだね〜」
『幸が毎晩妾を抱き枕にしたお掛けで
妖力が回復され続けて上がったんじゃよ』
お金を卸して、銀行を出ると
知らない男がバイクに乗りながら
大金が入った鞄を引っ手繰り
走って行く
「えっ……ひったくり……?
お姉ちゃん、泥棒……?
今の?」
『フンッ!!』
雛菊は、薙刀を出してバイクに乗ったひったくり目掛けて投げた
「グギャッ!?」
薙刀が身体を貫通してハンドルに刺さり
コントロールを失ったバイクが転倒した
『金子と薙刀を返すんじゃ!!』
「た……助けて……救急車……」
『その薙刀は生きている者には刺さらぬ様に投げたんじゃ
救急車を呼ぶ必要など無いわ』
雛菊が、薙刀を抜きながら怒鳴り付けた
「お姉ちゃん……
薙刀で怪我しなくても
バイク事故で、骨折してるみたいなんだけど……」
「腕と脚の骨が折れた……
救急車と治療代を頼む……」
『知らん!!
治療費くらい自分で払え!!
盗人猛々しいの!!』
雛菊は、ひったくりから鞄を引ったくった
額から血を流して、ひったくりが幸に訴えかける
「あ……あんたはマトモそうだ……頼む助けてくれ……」
「今、警察と救急車近くの銀行の人に呼んでもらうね」
幸は銀行に走って行った
「警察は……やめて……」
『甘ったれぬな!!』
▽▽▽
『という事が有ってのう
幸と早々にトンズラこいてやったわ』
「救急車と警察が来て連れてかれてたよ〜
銀行の人に
ひったくりが鞄を盗んで直ぐバランスを崩して事故ったって言ったから
そのまま連れてかれたんだよね」
『ふーん……で?
Хинаは、薙刀の後がバイクから警察に見付かったらどうするの?』
『問題無いぞ?
何故なら、刃物の後は付かぬからな
あの薙刀は、妖魔や霊や……
魑魅魍魎の類いしか斬れぬ様に投げたからの』
『は?
その薙刀って対象を選べるの?』
『如何にも、この薙刀は
使い方次第で、建物を傷付けず貫通をさせ
密室殺人から、悪霊に憑依された者を傷付けず
引き剥がす事も可能じゃよ?』
『チート武器ね……
他には何が出来るの?』
『伸縮自在じゃ
普段は小さくして懐刀の様に隠し持っておるぞ』
雛菊は、薙刀を綿棒サイズに縮めた
『如意棒かッ!!』
弁当にブート・ジョロキアを唐揚げに仕込むイタズラにより
顔面がめり込み
『前が見えねェ』
と呟くアイロを尻目に雛菊とウボールカが、漫才の様な会話をしていると
チャイムが鳴った
インターホンでは無いので実際に出るか、ドアのルーペを見なければ
誰が来たか解らない
旧式のチャイムだ
「お姉ちゃん!
ピンポン鳴ったよ!」
『みたいじゃな
曲者やも知れぬ、妾が後ろに隠れて幸
守ってやろう』
▽▽▽
幸が玄関に出ると
気が強そうな、基本的に他人や相手の言う事の意見を聞かず
自分の意見を押し通しそうな雰囲気を醸し出している四十代から五十代くらいの、女性と
口を鱈子の様に腫らした、ブート・ジョロキアを唐揚げ粉で揚げたブート・ジョロキア唐揚げを食べたクラスメイトが居た
恐らく、女性は母親だろうか
仁王立ちで青筋が額に見えており
幸を見るなり怒鳴り付けた
トイレに流された女子は、生きています
生きたまま海に流れ着き呆気にとられています
誰も死なない
やさしいせかい