2017/01/19に見た夢 淫夢から悪夢
こんな夢を見た
天涯孤独の身の上だった。
一番古い記憶は、路地裏のあったゴミ箱を漁り、やっと見つけた酸っぱい匂いのするハムの切れ端を、自分のように薄汚い老人に横取りされて泣いている。
極貧の中で育った俺は、甘栗を売る仕事で人並みの生活を手に入れると、あとはトントン拍子で財を成し、事業をさらに広げて二十代を終える頃にはいわゆる億万長者という奴になっていた。
もちろんそれらの多くは裏の仕事に手を出していたことによる収益だったのだが、そういう生き方を後悔するつもりもなければ、罪悪感もない。
俺が利益をあげるたびに、だれかが不幸になっていたのかもしれないが、当然知ったことではない。
なぜならそうしなければ、俺は今でも路地裏でゴミ箱を漁る生活を不幸だとも思わずにしていたはずだからだ。
仕事で世界中を飛び回る日々を送っている中で、何の予定もない日が数日できた。
何か理由があったわけでもなく、俺は生まれ育った肥溜めのような街にしばらくぶりで帰ってきた。
乗っている車はこの街で暮らす連中には、その儚い人生の中で二度遠目にかかれないような高級車で、俺は外の景色を見ながらワインを飲んでいた。
「なつかしい?」
そう言いながら俺の背中から首に腕を絡めてきたアリアはついさっきまで激しく愛し合っていたために、何もきてはおらず、汗ばんだ彼女のきめ細やかな肌が俺の背中にぴたりと張り付いてくる。
女と言うよりはまだあどけなさの残る少女であり、背中に張り付く二つの塊は年相応の膨らみでしかないのだが、その伝わってくる温もりを俺は愛しく思う。
「そんなわけないだろ。もう二度と戻らないと決めて出た街だ。ろくな思い出しかない」
そうだ。
俺にはろくな思い出しかないのだ。
武器商人として滅亡に導いた国の数など覚えていないし、俺が売った武器で奪われた命の数も数えてところで仕方がない。
弱い奴が淘汰される世界なのだ。
そして、アリアと出会ったのもそんな残酷な世界だった。
「どうか娘だけでも助けてください」
政府軍に武器を売り込むために、現地視察中に巻き込まれた市街戦で負傷し、大量に出血しながら俺の腕にすがりつき、現地の言葉でそう言い残して生き絶えた若い女の反対の腕に抱かれていた赤ん坊がアリアだった。
俺が売った銃で撃たれたのかどうかはわからない。
たとえそうだったとしても、俺の心は痛まなかったが、何の気の迷いかわからなかったが、俺は赤ん坊のアリアを引き取って今日まで共に暮らしてきた。
彼女はその幼い外見とは裏腹に、中身は計算高い女に育っている。
それがいいことか悪いことか、親でもない俺には知ったことではないのだ。
「桃栗三年ガキ八年とは、よく言ったものだな」
俺がアリアを見てそういうと、彼女はよくわからないという顔をしてただ笑っているだけだった。
俺はアリアには仕事の事や生い立ち、そして彼女の母親の最後と彼女が生まれて国のこともすべて話している。
だけど彼女は、
「難しい話はよくわからない」
そう言って、いまの生活に満足しているのかあまり興味を示すことはなかった。
彼女は背後から正面に回ると、俺の膝の上にまたが利、向かい合わせになる。
「俺が憎いか。俺はお前の親兄弟を殺しているかもしれない。お前の生まれた国を世界から消したのは俺かもしれない」
「しらない。だって、赤ん坊の頃の記憶なんてないし、お母さんも覚えていなければ、生まれた国に行ったこともないもの。興味もないわ。でも……」
そう言うと彼女は俺を真っ直ぐ見つめた。
いや、正確には俺を通り越して俺の背後の何かを見つめて言った。
「あの人たちはどうかしらね」
あの人たち?
俺はアリアの視線の先を捉えるべく、振り返る。
そこには血まみれの子供達の姿があった。
眼球は腐り落ち、何もない暗闇が瞳になっている。
何かを言うわけでもなく、何もない瞳で俺を見ているのだ。
そして俺にまるで助けを求めるように腕を差し出す。
その腕は肘から先が吹き飛んでいて、肉と骨がむき出しになっていた。
俺は悲鳴をあげそうになる。
しかしアリアが俺の口に優しく手のひらを当てて塞ぐと囁くのである。
「私の時は泣き叫んでも止めてくれなかったじゃない」




