再生する意味 12
「あの、それで……”禍憑き”がどんな病気なのか私たちはまだよく知らないから、何でもいいからわかりやすい症状をみたいんだけど」
今まで皆の話を沈黙して聞いていたアーリィが、皆の話が一区切りついたようだと判断して、遠慮がちに手を上げてそう発言をする。それを聞き、ユエは「そうだね」と頷いた。
「病気を詳しく知ってもらうのは必要だね」
「と言っても、アタシたちは医者じゃないから医学的な観点からはみる事は出来ないけどね。何か病気の特長とか、わかりやすく確認できるような何かが見れればいいんだけど」
マヤの言葉に、ユエは「だったら紋様を見てもらうのが一番かもしれないね」と言った。
「あぁ、確か禍憑きになると体のどこかに変な模様が浮かび上がるんだったよな」
ジュラードの話を思い出してロースがそう言う。ユエは頷き、「イリス」と名を呼んだ。
「あんたのを見せてやりなよ」
「えぇ?!」
ユエの発言に何故かイリスはひどく驚き、そして彼はユエに「嫌だよ」と拒否を返す。その返事を聞いて不思議そうに「何でだい?」と言うユエに、イリスは大真面目にこう言った。
「ユエは私にこの場で下半身パンツ一枚になれって言うの?!」
「あぁ、そうだね……そういやあんたのは、そうしないと見せれないねぇ」
イリスの場合は”禍憑き”であることを示す痣が足の付け根付近の太腿に現れている為に、それを見せる場合はパンツ一丁とまではいかなくとも、とりあえず確実にズボンは脱がなくてはいけなくなる。医者のレイヴンにならば抵抗無くそれをみせることが出来るイリスだが、さすがに女性が多いこの場で一人下着姿になるのは常識的に考えて抵抗があった。
「そんな、私以外の前で下着姿になるなんて! 私は許しませんよ、イリス!」
「うん、みんなの前で下着姿にはならないし、勿論あなたの前でもならないから安心してね、ラプラ」
イリスは余計な事を言うラプラにちゃんとツッコミを入れ、「それはリリンのを見てもらったほうがいいよ」と提案をした。するとそんなイリスの様子を見て、ユーリが独り言のようにぽつりと呟く。
「なんかお前、変だぞ……お前がそんな常識的なこと言うなんて……なんかきもちわりぃな」
ユーリの普通に酷いその言葉に、イリスは苦い顔をして「私が非常識みたいな言い方やめて」と返す。
「や、だってお前は実際非常識の塊だったじゃねぇか」
「一応、昔も今も一般的な常識で考えて行動する普通さは持ち合わせていたつもり。 まぁ、あなたが知る頃の私は……そうだね、非常識に見えただろうね」
イリスは重い溜息を吐き、「そういうふうに振舞っていたから」と呟く。
「演技してたってか?」
「……少なくとも、あれが本当の私だって思わないで欲しい。……あなたは信じてくれないだろうから、無理に信じてとは言わないけど」
イリスのその言い分に、ユーリは何も言わずにただ彼を見返す。その鋭く責めるような眼差しの視線が不快で、イリスは彼から視線を逸らした。
「じゃあ模様については、ジュラードの妹さんの症状を見に行くべきだな」
イリスたちのやり取りが終わると、ローズがそう話を纏める。イリスは彼女を見て頷いた。そしてこう続ける。
「それで実はついさっき、この病の治療に繋がるかもしれないあることに気がついたんだよね。確定的な話ではないんだけど、ちょっと話していいかな?」
イリスのこの言葉にローズたちは勿論、ユエも驚いた顔をする。ラプラも目を見開いて「それはどういうことでしょうか?」と彼に聞いた。するとイリスは視線をラプラに移し、彼を見ながらこんな事を言った。
「そう、あなたに関係してるんだ、ラプラ」
「私、ですか… …?」
頷くイリスに、マヤは「詳しく説明してちょうだい」と話を促す。
「うん……それが、今朝調理中に少し指を切る怪我をしてしまったんだけど、それをラプラの治癒術で治してもらったんだ。それで、怪我を治してもらっただけなんだけど、”禍憑き”になってから恒常的に体調が悪かったのが改善したんだよね。その前日にも、怪我をしたのを魔法で治してもらってからいつもよりは体調が良かったし……」
「それって、回復魔法が禍憑きに効果あるってことなのか?」
イリスの話を聞いたローズがそう言うと、イリスは「そうはっきりと断定できる話じゃないけども」と返した。
「でも、もしかしたら何か治療のヒントがあるのかもしれない。今もこんなふうに長時間立って喋れるのは、今朝の治癒術のおかげな気がするし……」
イリスも半信半疑な情報なので、曖昧にしか説明は出来ない。それでもイリスは『もしかしたら』ということで、それをローズたちに伝えた。
「私の体の模様自体は消えてはいないから、病気が治ったわけでは無いと思う。それでも昨日今日とラプラに治癒してもらってから、体調が良くなったのは確かだから」
「ふぅん……興味深いわね。治癒魔法がその病気に対して、一時的かもしれないけども何らかの効果がある可能性が高いってことかしらね。でもどういう理屈かしら……魔法はマナの力……やっぱりマナの異変が何か関係が……?」
マヤが興味深そうに呟き、ラプラが続ける。
「あるいは私の愛がイリスの苦しみを癒した……!」
「あぁ、そうかもね……」
大真面目に妙な発言をするラプラに、イリスは目も合わせずに適当に返事をする。そんな二人のやり取りを見てローズは少し苦笑し、そして彼女が再び口を開こうとした時に広間にジュラードが一人で戻ってきた。
「あ、ジュラード」
ローズは彼の方へ視線を向け、「妹さん、どうだった?」と真剣な表情で聞く。ジュラードは僅かに安堵の表情を見せ、「あぁ、今は大丈夫なようだ」と彼女に返事した。
「熱はあるけど……実は不手際で起こしてしまったんだが、話をしたら意識もはっきりしてるし本人も今朝よりは体調がよくなったって」
ちなみにうさこはリリンに気に入られたので、リリンの熱で溶けたらどうしようと若干の心配を抱きながらも、彼女の元に遊び相手として置いてきた。そして様子を確認し終えたのでウネにリリンを任せ、彼はローズたちの元へと一人戻ってきたというわけだった。
「そうか。丁度いいね、起きたのならあの子の足に出てる”禍憑き”の模様を見てもらおうか」
ジュラードの話を聞いてユエがそう言う。そして彼女が立ち上がると、ローズたちも立ち上がり、イリスとラプラ以外がリリンの元へと向かうことにする。ジュラードも再びリリンの元へと戻ることとなった。




