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神化論 after  作者: ユズリ
再生する意味
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再生する意味 11

「きゅうぅー……きゅ、きゅうぅっ」

 

 あろう事がうさこは眠るリリンの顔の上をよじ登り始め、ジュラードは思わず「お前なにしてんだー!」と大声で叫ぶ。するとうさこの自由行動とジュラードの大声で、閉じられていたリリンの瞼が動いた。

 

「ん……」

 

「あ、リリン……っ!」

 

 リリンが目覚め、ジュラードは思わず緊張する。久々の再会となるのだ。別れの言葉も無くいなくなった自分なので、妹がそんな自分を今どう思っているのかという不安が、確かにジュラードの中に存在していた。

 目覚めたばかりで意識のはっきりとしないリリンの瞳は、やがてそこにジュラードの姿を映し、それを認識する。

 

「……お、にいちゃん……?」

 

 自分を見つめてそう呟いたリリンに、ジュラードはこみ上げる感情を抑えて「あぁ」と返事をした。そしてそれを見て、リリンは呟く。

 

「夢じゃないよ、ね……?」

 

「夢じゃない……すまない、ずっとお前を一人にして……」

 

 ジュラードがそう謝罪を告げると、リリンは「一人じゃないよ」とかすれる声で言葉を返す。

 

「先生や、皆がずっと一緒だったから……でも、やっぱり寂しかった」

 

「すまない、本当に……」

 

 リリンに寂しい想いをさせてしまったという、胸を締め付けられるような後悔を感じながら、ジュラードは彼女にひたすらに謝る。リリンはそんな彼に、「いいよ、謝らないで」と告げた。そして彼女はジュラードに微笑む。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

「……リリン」

 

 優しい微笑みで、彼女の為とはいえ勝手にいなくなった自分を許してくれる妹に、ジュラードはただひたすらに感謝する。そして絶対に彼女を助けようと、ジュラードは改めて自分の心にそれを誓った。

 

「……あぁ、ただいま」

 

 リリンの手を握る。生を示す確かな熱をそこから感じながら、ジュラードは彼女に笑みを返した。

 

 

 

 リリンが目を覚ました頃、皆が集まっている広間は微妙に騒がしいことになっていた。何が原因でそうなっているのかと言えば、やっぱりこの男が主な原因だ。

 

「どういうことですか、イリスが死ぬかもしれないとはっ!」

 

 険しい顔でそう声をあげるのはラプラだ。彼は誰か特定の個人に問うのではなく、信じられない事態に対して理解できる説明を誰からでもいいから求めるという感じでそう問いかけを叫ぶ。しかし彼の問いに、今はまだ誰も明確な答えは返せずにいた。イリスでさえ。

 

 イリスから少し遅れて皆が話をする広間にやって来たラプラは、面識はあるはずだがすっかり記憶から抜け落ちたローズたちと改めて顔を合わせ、その後『やはり彼にも説明をしておかなくてはいけない』と考えたイリス自身から、たった今”禍憑き”のことを説明された。そしてこのまま何も治療法が見つからなくては、リリンもイリスも緩やかに死を迎えると言う事を知り、ラプラの顔色は変わる。彼はイリスも見たことの無い焦りの表情を見せて落ち込み、「なぜ……」と声を震わせた。

 

「何故イリスが、そんな……」

 

 ラプラの呟きを聞き、きっとジュラードも同じ想いを感じたのだろうと、ローズは思う。そう考えながら、彼女は気まずそうな様子でラプラの隣に立つイリスを見た。

 

「で、でも……どうやら病気の原因がわかるかもしれないらしいんだ。だから治療法ももう直ぐ見つかるかもしれないし……」

 

 あまりにもラプラが深刻な顔で落ち込むので、イリスがそうフォローをする。ユエも「あまり悲観的に考えない方がいい」と、ラプラに声をかけた。

 

「しかし……っ!」

 

 ラプラは何かを言おうとして、しかしこみ上げる焦燥のような無力感のような、あるいは怒りのような感情を上手く言葉に出来ずに沈黙する。やがて彼は自身の言葉は諦め、当事者であるイリスがなぜそんなに落ち着いていられるのかと、その疑問を本人に問うた。

 

「イリス、あなたは不安ではないのですか?」

 

 するとイリスは曖昧に笑って、「不安じゃないわけじゃないけど」と答えた。

 

「でも、だからって私が気落ちしてたら皆をますます心配させちゃうし……それに今は『もしかしたらどうにかなるかもしれない』って、希望があるからね」

 

「イリス……」

 

 イリス本人の落ち着きを見てか、ラプラもそう絶望するのは止めようと考える。彼は力強い表情となり、「わかりました」と言った。

 

「私もその”禍憑き”の治療法の発見、全力でお手伝いさせていただきます! イリス、あなたを死なせなどしませんよ! 絶対にね!」

 

 ラプラはそう言うと、ローズたちの方を向く。そうして彼はローズたちに「構いませんよね?」と聞いた。

 

「え……あ、あぁ……」

 

 断る理由も無いし、何よりラプラの目が真剣すぎて断れる自信が無かったローズは、ほとんど反射的に彼の言葉に頷いてしまう。するとユーリは「えぇ?」と嫌そうな顔をしたが、マヤは反対に「アタシもいいと思うわよ」と好意的な反応を示した。

 

「むしろ魔族の協力が得られるってのは心強いわね。原因がマナに関係しているなら、それについては魔族は詳しいでしょうし」

 

「えぇ、勿論です。一応私は呪術とマナについて常に研究している、呪術研究員でもありますしね。私の知識がお役に立てるのなら是非活用してください」

 

「でもこいつも前は敵だったんだぜ? そんなあっさり協力とかしていいのかよ」

 

 あっさりとラプラと協力すると言うローズやマヤに対して、ユーリは苦い顔で慎重な意見を出す。しかし過去のいざこざを考えれば、ユーリの反応は当然のものではあった。

 ラプラはユーリの反応に対し、「そうですね、普通はそう直ぐに私を信用は出来ないでしょう」と理解する反応を返す。


「しかし私も力になりたいのです。いえ、どうしても無理というのならば、その場合は私は私で別に原因と治療法の調査を致しますけども……」

 

「ユーリ、いいじゃない。ジュラードの為にも、協力してくれる人は多い方がいいわよ。それに彼だって真剣に助けたいって思う人がいるからこその協力の申し出なんだし。変なことはしないわよ」

 

 マヤがそうフォローを入れると、ユーリはやはり渋々といった様子で「わかった」と頷く。

 

「ジュラードの為なら仕方ねぇよな……」

 

 ユーリにとってイリスはそう簡単に許せる存在ではない。なので彼は『ジュラードの為』として、イリスやラプラと付き合う事を自分に納得させた。


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