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神化論 after  作者: ユズリ
再生する意味
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再生する意味 5

 ジュラードは気まずく緊張した面持ちで、懐かしい建物をじっと眺めていた。そしてそれ以上の不安を胸に宿しながら、彼は自分の後ろに立つローズたちにこう言う。

 

「ここだ……ここが俺と妹が育った孤児院……ここに妹がいるはずだ……」

 

 妹はまだ無事だろうか……そんな不安がどうしても拭えず、彼は険しい表情でローズたちにそう言葉を告げた。

 ジュラードたちの前には、古い教会の建物があった。こんな寂しい山の麓に何故……と、思わずそう考えてしまうような場所に、その建物は建っていた。

 

「何だが一部分がやけに壊れてるな……」

 

 先日マーダーや異形の魔物の襲来があって壊れた礼拝堂を見ながら、ユーリがそう呟く。ジュラードもそれに気づき、彼はますます胸に不安を感じた。

 

「何かしら? もしかして、あの気持ち悪い魔物に襲われたとか?」

 

「俺はわからない。少なくとも俺が出て行く前は、こんな状態ではなかった」

 

 マヤの疑問にジュラードはそう答え、そして彼は短く一言「行こう」と告げる。それを合図に、立ち止まっていたジュラードたちは再び歩みを進めて孤児院へと近づいた。

 

 

 

 

 ジュラードが建物に近づくと、外で遊んでいた子どもたちが彼に気がつき、そろって皆驚いた顔でジュラードを見た。

 

「ジュラード兄ちゃん!」

 

「ほんとだ! ジュラードお兄ちゃんだ!」

 

 まだ幼い少年たちは、突然ここからいなくなったジュラードが、また突然ここへ帰ってきた 事を喜んで傍に駆け寄る。

 ギース、フォルトのやんちゃな少年二人が傍に駆け寄ってくると、ジュラードは少し気まずい気持ちながら「ただいま」と彼らに告げた。

 

「お帰り兄ちゃん! 兄ちゃん、なんか日焼けしたな!」

 

「お兄ちゃん、後ろの人たち誰? 今までどこ行ってたの? お仕事そんなに大変だったの?」

 

 二人に声をかけられ、ジュラードは「え、えぇと」と口ごもる。さらに彼の元にエリもやって来て、「おかえり」と彼女はちょっと怖い顔でジュラードに声をかけた。

 

「本当に今までどこ行ってたのよ、馬鹿。先生たちも皆も心配してたんだからね」

 

 小さい子どもたちのお姉さん役をしているエリは、自分より年上のジュラードにもそう厳しい言葉を向ける。年下だがしっかり者のお姉さんには敵わない様子のジュラードは、ばつが悪そうな顔で小さく「すまない」と彼女に返した。しかし次に彼女の口から出た言葉で、ジュラードの表情が変わる。

 

「リリンだってずっとあなたに会いたがっていたし……」

 

「!? リリンは……あいつは大丈夫なのか?!」

 

 ジュラードが血相を変えてそうエリに聞くと、エリはますます怒ったような顔となる。

 

「相変わらず体調は悪いわよ! ってゆうかね、そんなに心配してたんなら、どうしてリリンを置いてどっか行ってたのよ! あんたがいなくなってから、お姉ちゃんも具合悪くなって……他にも色々あって、みんな疲れちゃって……」

 

 段々と喋る語尾が小さくなっていくエリは、声が涙声に変わってくると俯いて表情を隠す。エリのそんな様子を見て、ギースとフォルトが口々に囃し立てた。

 

「うわ、兄ちゃん、エリ姉ちゃんのこと泣かせたー」

 

「泣かせたー」

 

「お、おい……っ! 止めろ、ってか何故泣く……」

 

 ジュラードがそうやってオロオロしていると、建物の中から大柄な人影が飛び出してくる。その人と認識するには大きすぎる大きさに、ジュラードの後ろに居たロースたちは一瞬魔物かと思い身構えた。そして直ぐにそれは大変失礼な勘違いだったと気づく。

 

「ジュラード!」

 

 小さな少女と共に自分の元に駆けつけた大柄の女性を見て、ジュラードは「先生!」と声を上げる。ユエはジュラードを見るなり、エリ以上に怒った様子でこう叫んだ。

 

「今までどこ行ってたんだ、このバカ!」

 

 怒り心頭な様子のその女性の迫力に、そう叱られたジュラード本人のみならず、ローズたちまでもが驚いたように肩を一瞬震わせる。うさこにいたってはもう原型が危ういほどに、ぶるっぶるに震えていた。いつものことと言われればいつものことだが。

 

「あたしの剣まで勝手に持ち出して、あんたは……本当に何をしてたんだい!」

 

 ユエのこの一言に、ジュラードは「す、すみません」と素直に謝る。実は彼が持っていた刃幅の厚い黒の大剣は、パンドラ探しに出かけようと決めた時に、昔は冒険者だったと言うユエの持ち物から勝手に拝借してきたものだったのだ。

 ユエは本当に反省したように神妙な面持ちで俯くジュラードを見て、色々と小言を言いたいのを今は我慢して、とりあえずは客を大勢連れて急に帰ってきた事情に対する話を聞くことにした。

 

「まぁ、今は何でまた急に帰ってきたのかの話を聞こうかね……説教はそれからだ。あんたの後ろにいる人たちのことも聞きたいし」

 

 ローズたちを観察しながら、ユエはジュラードへそう言う。ジュラードはうな垂れつつ、「わかった」と返事をした。そしてローズが一応挨拶の為に口を開こうとした時、孤児院内からまた人が出て来て、ジュラードたちの元へと駆け寄ってきた。

 

「ジュラードが帰ってきたって聞いたんだけど、本当? よかっ……」

 

 そう言ってこちらにやって来たのはイリスだ。彼の後にはラプラもついて来ていたが、ローズたちは二人の顔を見てそれぞれに驚いた様子で反応した。

 

「っ……」

 

「あっ!」

 

 ローズがまずそう言ってイリスを凝視すると、ユーリがひどく険しい表情となって「なんでてめぇがここに」と呟く。イリスもジュラードが連れてきた客人の正体に気づき、彼は驚き以上に何か恐れたような顔となってローズたちを見た。

 

「おや……どこかで見たことがある顔のような、そうでないような……誰でしたっけ?」

 

 ラプラはいまいちローズたちを思い出せないようで首を傾げたが、しかしイリスははっきりと彼らを記憶していた。本当ならば過去なんて全て忘れてしまいたい彼だったが、そうはいかないのだ。イリスはジュラードに駆け寄ろうとした足を止め、数秒その場で立ち止まった後に、蒼白な顔色の彼は踵を返して再び室内へと戻っていった。

 

「あ、おい! 待てよ、てめぇはレイリスだろう!」

 

 ユーリが叫んだが、イリスは振り返る事はせずに建物の中へと消えていく。ラプラも怪訝な顔をしつつ、彼の後を追って中へと戻っていった。

 

「……驚いた。あんたらもイリスの知り合いなのかい?」

 

「イリス?」

 

 ユエがローズたちに聞くと、ユーリが怪訝な表情となる。だがかつてヴァイゼスという日の当たらない場所で共に行動していた事のあるユーリは、直ぐに事情を推理してこう吐き捨てるように彼は呟いた。

 

「あの野郎、また偽名使って行動してやがんのか……」

 

 ユーリの呟きにユエも何かを理解したようだったが、しかし彼女は今この場では深い事情を追求しようとはせず、ローズたちにこう声をかける。


「あんたたちがどういう理由でここに来たかはわからないけど、しかしジュラードが理由も無しにここに人を連れてくるわけも無いからね。何か用があって来たのかい?」

 

 ユエがそう聞くと、ローズがまずは口を開く。

 

「はい。私たちは旅の者なのですが、途中ジュラードと出会って、彼が病気の妹を助ける為に旅をしていると聞いて、是非協力したいと思って彼と共にここに来ました」

 

 ローズのその説明に、ユエはひどく驚いた様子でジュラードを見る。

 

「あんた、そういう理由でここを勝手に飛び出したのかい?」

 

「……言うと反対されると思っ たから……」

 

 ばつが悪そうにジュラードが小声でそう答えると、ユエはまた「この馬鹿」と言って軽くジュラードの頭を小突いた。そうする彼女の眼差しは厳しくともどこか優しいもので、それは母の眼差しだとローズは気がつき思った。

 

「まぁいいさ、ちゃんと帰ってきたし……あぁ、こんなとこで立ち話もなんだ。とりあえず皆中に入りな。詳しい話もそこで聞くよ」

 

「あ、はい」

 

 ユエに促され、ローズたちはジュラードと共に一先ず孤児院の中へ入ることにする。大柄なユエの背中を追って、ジュラードたちは子どもたちと共に玄関の戸をくぐって中へと入った。


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