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神化論 after  作者: ユズリ
希望と代償
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希望と代償 18


「ユーリ、猿出ないかちゃんと見張っててね……パンツだってタダじゃないから、無くなると困るし」

 

「だいじょぶだいじょぶ、任せてよ」

 

 ローズが大変な目にあった後に水浴びするのはアーリィ。そして今回の見張りはユーリだった。

 ここに来る直前に『ユーリじゃ信用ならん、自分もついてく!』と言ったマヤは、しかしそうすると自分のいない間にローズとジュラードが二人で親密な仲になるかもしれないと勝手に想像して見張りを諦めた為、結局はユーリが一人で見張りをすることになった。

 

「つか俺も一緒に体洗っていーい? その方が効率的な気もするんだけど」

 

「だ、だめ! 絶対だめ!」

 

 顔を真っ赤にするアーリィに笑いながら、ユーリは「はいはい、わかりましたよ」と返事をする。

 

「お姫様が快く体洗えるように見張るのがナイトの役目ですからね。大人しく任務を全うしますよー」

 

「へ、変なこと言わないでよユーリ……もぉ……」

 

 アーリィは反応に困った様子でそう呟きながら服を脱ぎ始める。ユーリは先ほどのジュラード同様に、木の幹に背中を預けて見張る事にした。

 

 

 

「……はぁ……冷たくて気持ちいい……」

 

 服を脱ぎ、冷たい水の中に体を沈めながらアーリィは呟く。熱いより冷たい方が好きらしいアーリィは、夜の水の冷たさも体に心地よいようだった。

 一方でユーリは。

 

「つーかこれ軽く拷問じゃね……?」

 

 アーリィが心地よく体を洗っている間、ユーリは自分の理性と戦っていた。

 レイチェルたちが店に来てから旅立った今日まで、思えばもう一ヶ月以上やってない。マヤの認識である”性欲の権化”は言い過ぎかもしれないが、しかし相応に男の子なユーリは、ここにきて欲求不満が爆発しそうだった。

 

(あー……これで一人で抜くのも惨めだし……)

 

 大きく溜息を吐くユーリは、見張りに集中して気を紛らわせようと決める。彼は自分の気配は消して、周囲に不審な気配が無いかを探った。

 

(猿め……ノコノコパンツ奪いに来たらぜってぇ血祭りにあげてやる……)

 

 欲求不満過ぎて凶悪性が増してる様子のユーリは、鋭い目つきで周囲を探る。その時、彼の耳に小さいが確かな音が聞えた。

 ユーリは耳を澄まし、聞えた ”音”に意識を集中させる。

 

「絶対ここですよ……は、早く返さないと……」

 

「オレ行くのヤダよー。頼む、行ってきてくれっ」

 

(話し声……? 猿が喋るわけねぇよな……つーことは……)

 

 聞えた声は少なくとも二人分。男の声だ。ジュラードの声では無いので、自分たち以外に複数人の”誰か”がこの近くにいるということだろう。

 

(誰だか知らねぇが……覗きとはいい度胸じゃねぇか……!)

 

 腰に吊った短剣を二本引き抜き、ユーリは凶悪な顔で立ち上がる。彼は覗き容疑の何者かを血祭りに上げるため、声のした方へと音無く足を向けた。

 

 話し声のした方へとユーリが向かうと、彼はそこに二つの人影を見つける。一応他に人の気配が無いかを確認したが、どうやら覗き野郎はこの二人以外にはいないようだ。

 ユーリは殺気を極力抑え、何やら揉めているような会話をする二つの人影の背後に忍び寄る。その手には人のお肉がとってもよく切れる、自慢の短剣が二本握られている。彼は殺る気満々の表情で、二人の背後に立った。

 

「僕だって嫌ですよっ」

 

「じゃあ二人で行こう、恨みっこなしで」

 

「……わかりました」

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 何か話が纏まったらしい二人に、不自然に優しい笑顔でユーリが話しかける。

 

「どこに行くつもりなんだ?」

 

「ひいぃっ!」

 

「ひぎゃあっ!」

 

 突然背後から聞えたユーリの声に、二人の男が心底驚いた様子で短い悲鳴の声を上げる。そしてユーリは気づいた。

 

「あれ……お前、エルミラじゃねぇかっ!」

 

「へ? あ、ユーリ!」

 

 不埒な覗き(疑惑)野郎の一人が、レイチェルが行方を心配していたあのエルミラだと気づき、ユーリはひどく驚いた顔をする。エルミラもこんな場所でユーリに会うとは思わず、目を丸くして驚いていた。

 

「何でユーリがこんなところに!」

 

「そりゃこっちの台詞だよ。何でお前が覗きなんざしてんだ」

 

 驚愕するエルミラに、ユーリは短剣をちらつかせながら極悪な笑顔で脅す。たとえ知り合いであろうと、愛しい妻の裸を覗き見る野郎を許す気は無いらしい。

 エルミラは「ご、誤解だって!」と、殺る気満々なユーリに慌てて弁解を告げた。

 

「覗きなんてして無いよ! オレたちはただ、押し付けられたものを返しに来ただけっていうか……」

 

「押し付けられたもの?」

 

 ユーリが首を傾げると、エルミラと共にここに来ていた学者のフェリードが恥ずかしそうに何かを差し出す。

 

「こ、これです……」

 

「……これって」

 

 フェリードがユーリに差し出したのは黒い紐パンツ。すっごいマヤの趣味っぽいそのデザインの下着を見て、ユーリは『誰の?』なんて思わなかった。

 

「さっきオレたちがその辺で野宿してたら、いきなりこれ持った猿がオレたちを襲撃して来たんだよ。で、結局猿はコレをオレたちに押し付けて逃げていって……」

 

 エルミラの説明の続きをフェリードが語る。

 

「誰か女性の方の下着だとわかったんで、僕たち妙な疑惑をかけられる前に持ち主を捜してこっそり返そうとしたんです! 信じてください!」

 

 ユーリの殺気に怯えたフェリードが、涙目になってそう語る。エルミラも「ホントなんだよ?!」とユーリに強く訴えた。

 

「こっちからなんか人の声したから来てみて、それで女の人が体洗ってるから『ここだ!』って思って……本当にオレたちあの猿にはめられたんだって! すっごい濡れ衣! ごめんこのパンツ、アーリィに謝って返しといてよ!」

 

「はぁ……まぁ事情はわかったよ。でもそのパンツはアーリィのじゃなくて、ローズのだから……」

 

 ユーリが溜息混じりにそう答えると、エルミラは「ローズもいるの?」と聞く。説明が面倒になったユーリは、「とりあえず来るか?」と彼に聞いた。

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