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神化論 after  作者: ユズリ
希望と代償
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希望と代償 8

 短い悲鳴を上げて、ギースは駆け寄る直前にその場に倒れこんでしまう。彼のその異変にイリスも彼の名を叫んだ。

 残酷に響いた銃声と彼が倒れこんだ事の意味は繋がり、ギースの右足には銃弾が貫通した穴と、そこから細く零れる鮮血が見えた。

 少年を撃ったのは、先ほどイリスの要求を拒んだ男だった。そしてイリスが動けなくなったギースに駆け寄ろうとした時、男たちは今度はイリスを取り囲み拘束する。

 

「くっ……てめぇらよくもギースを……!」

 

 二人の男に羽交い絞めにされて身動きの取れなくなったイリスは、それでも怒りを男たちに向ける。そのイリスの態度を見て、リーダーの男は心底愉快そうに表情をゆがめて笑った。

 

「おいおい、さっきまでの落ち着き払った態度はどうしたよ? ガキが撃たれたくらいでそんなに怒るなって、せっかくの美人が台無しだ」

 

 自分を睨みつけるイリスに笑みを向けたまま、男は「いいじゃねぇか、ガキにはそこで見ててもらおうぜ」と囁く。

 

「公開レ○プなんて俺たちも興奮しちまうな。大事なオネーチャンが男にマワされて種付けされる光景なんて、ガキには最高にいい思い出になるぜぇ?」

 

 ギースに聞かせるような声で、リーダーの男はそうイリスへと言葉を向ける。ギースが痛みに呻きながらも、「おねーちゃん……」と呼ぶ声がイリスの耳に届いた。

 

「さて……いつまで気丈な態度で居られるのか楽しみだな」

 

 リーダーの男の手がイリスの顎にかかる。胸糞悪くなる男の顔か近づき、吐息がイリスの唇に触れたその瞬間だった。

 激情だけが浮かんでいたイリスの表情が変わる。彼は心の奥底に燃え滾る怒りを押し込み、ひどく冷静な眼差しとなり行動を起こした。

 イリスはまだ自由だった足を使い、密着していたリーダーの男の股間に強烈な膝蹴りをくらわす。完全に油断していた男は悶絶し、苦痛に顔を歪めた。

 

「ぐ、ぁ……っ!」

 

 リーダーの男が激痛に体を丸め、その瞬間に自分を抑える男たちが怯んだ隙を逃さず、イリスは拘束を振りほどく。そして体を回転させ、それと同時に自分を拘束していた男の一人の腰から短剣を引き剥き奪った。

 

 自分が生きる為には、仇なす他人は殺せと教えられてきた。

 そんな自分が今更誰かを守るために戦うなんて……と。

 

(でも……それでも守りたい……)

 

 言い訳を するつもりはない。自分は汚い人殺しだ。

 でもたとえ人殺しを重ねた血まみれのこの体でも、救えるものがあるならば救いたいと思った。

 

「ぎゃああぁぁっ!」


 短剣を抜いた勢いのままそれを振り抜き、自分を拘束していた男の一人の両目を横一閃に切り裂く。返す刃でイリスは、短剣を奪った男の喉を正確に狙った。

 悲鳴も無く、喉を引き裂いた男は血の海に落ちていく。その返り血をまともに浴びながら、イリスは振り返り残るマーダーを視界に捉えた。

 

 視界を奪った男は混乱し戦意を喪失しているし、リーダーの男もまだ動けずに居る。となると、残るは二人。

 

 考えたのと行動をするのはほとんど同時だった。反射的に動いたと言う方が正しい。抵抗した自分に向けて、残る男たちが武器を向ける。一人は斧、一人はギースを傷つけた拳銃だ。

 イリスは迷うことなく銃口を向けてきた相手に向けて、男が撃鉄を起こすのと同じタイミングで、短剣を投擲する。

 飛び道具相手にほんの僅かでもいいから時間稼ぎが出来ればいい程度に思いながら短剣を投げたイリスだったが、彼の期待以上に短剣は効果を見せたらしい。短剣を投げた時点で銃を持った男を視界の外に追いやったイリスだったが、男の悲鳴はその耳に聞えたので少なくとも何処かに当たりはしたのだろう。しかしそれを確認することなく、イリスは斧を振りかざし自分に向かってくる男と対峙した。

 

「しねこのアマああぁぁぁっ!」

 

 丸腰のイリスは、しかし慌てる様子も無く、逆上し襲 い掛かってくる男に冷静に対処する。斧が振り下ろされた瞬間に彼は身を横へとずらし、男へと足払いを仕掛けた。

 頭に血が上っていた男は大きく体勢を崩して倒れる。イリスは傍に落ちていた、壊れた礼拝堂の一部だったガラス片を素手で掴んだ。その拾い上げた凶器で、イリスは倒れた男の上に馬乗りになって首筋を突き刺す。掴んだガラス片で傷ついた手は、自分の血と男の血でまた朱に染まった。

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