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神化論 after  作者: ユズリ
希望と代償
68/494

希望と代償 3



 

「イリス、入るよ」

 

「!?」

  

 ユエの声が聞え、直後に部屋のドアが開かれる。ベッドに沈んでいたイリスは「ひぅ」と奇妙な悲鳴を上げながら飛び起きた。

 

「ゆゆゆ、ユエ! いきなり開けないでって!」

 

「あ、ごめん。着替え中だったのか?」

 

 ふとももに刻まれた”禍憑き”の刻印を見ていたために下半身が下着一枚の状態だったので、イリスは慌ててベッドの上の毛布で下を隠す。しかしユエは下着姿のイリスを前にしても、全く気にした素振りは見せなかった。

 

「着替えてたわけじゃないけど……でもあの、さすがに女性の前でパンツ一枚ってのは恥ずかしいんだけど」

 

「悪かったね。まぁいいじゃないか、あたしらは家族みたいなもんなんだし」

 

 ユエのその言葉に、イリスはどう返事をしたらいいのか迷うように複雑な表情を漏らす。家族と言ってくれることは嬉しいけれども、しかし今はそれが同時に辛くもあった。

 

「あたしは別にイリスや子どもたちの前でパンツ一丁でも恥ずかしくないけどねぇ」

 

「そ、それは恥ずかしがってほしいんだけど! 特に私の前では恥ずかしがって! ユエは女性なんだから!」

 

 イリスが真面目に強くそう訴えると、ユエは可笑しそうに笑いながら「はいはい」と返す。そのわかってくれたのかそうでないのか微妙な彼女の態度に、イリスは『大丈夫かな』と心配になった。

 

「でも嬉しいねぇ。あたしを女性扱いしてくれるのって両親とあんたくらいなもんだよ」

 

 巨人族という古の種族の血を体に流す彼女は、純血の巨人族ほどで無いにしろ普通のヒューマンと比べると大柄だ。女性ではあるが、しかしイリスよりもよっぽど背格好の逞しい彼女は、周囲から普通の女性として見られていないことを自覚していた。

 しかしそれをそんな深刻なコンプレックスとも捉えていない彼女なので、今のような台詞を笑いながら言う事が出来るのだろう。

 

「子どもたちまであたしのこと男前な先生って言ってるしさぁ」

 

 苦笑と共にそうぼやいたユエに、イリスは小さく首を振った。

 

「そんなことない。ユエは魅力的な女性だと、私はそう思うよ」

 

 彼女の大きな手は優しい母の手だと、イリスはそう思っている。女性の持つ優しくも強い母性は何よりの魅力で、自分はその手の温かさが大好きだとも自覚している。

 

「そ、そうかい……?」

 

 まっすぐな言葉を向けられて照れるユエに、イリスは「うん」と返事を返す。そうして彼はユエの大きな手に自分の手を重ねた。

 

「ねぇユエ……私が死んでも……」

 

「止めとくれ。そんな言葉聞きたくないよ」

 

 静かに口を開いたイリスの言葉を拒絶するように、ユエはベッドに身を乗り上げてイリスの体を抱き寄せる。彼を強く、しかし優しく抱きしめて彼女は言った。

 

「あんたもリリンも生きるんだよ。死ぬなんて、そんなのあたしが許さない」

 

 大好きなその手のぬくもりを肩に感じながら、イリスはそっと目を閉じる。頬を熱を持った雫が音無く零れ落ちた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 五日ほどの船旅を終えて、ジュラードたちはティレニア帝国の南のある大きな港町へと到着する。

 幸いにもトラブルも無くここまで移動出来たジュラードたちだったが、大地に足を下ろした彼らの顔には長く船上にいた疲れが現れていた。

 

 

「あー……やっと陸だ……やっぱ地面は落ち着くなぁ」

 

 大きく伸びをしながら、ユーリは安定した大地の感覚を踏み締めそう呟く。隣で少し疲労した表情のアーリィも、「そうだね」と彼の言葉に同意し頷いていた。

 

「船の中でも話をしたが、ここからしばらく先の国境付近からは徒歩で山越えをしないといけなくなる。孤児院がある周辺は最近新たな魔物も出没し始めているから気をつけてくれ」

 

 相変わらずうさこの保護者となって、うさこを荷物と共に腕に抱えたジュラードが繰り返し注意を皆に話すと、ローズが「あぁ」と頷いた。

 

「特に私は気をつけないとな……なんてったって役立たずなんだし」

 

「……ローズ、役立たずって言ったこと気にしてるの?」

 

 何かローズの自虐的発言に引っかかるものを感じたマヤがそう問うと、ローズは乾いた笑顔で「そんなまさか」と答える。マヤは小さく「気にしてんのね」と、全て理解した様子で呟いた。

 

「アタシだって役立たずなんだから、そんな気にする事無いのに……」

 

「だ、だから別に気にしてなんて……気に、してなんて……はぁ……」

 

 物凄い気にした様子のローズを横目で見て苦笑するユーリに、ジュラードは「そういえば」と声をかける。

 

「ん? どうした?」

 

「お前とアーリィも昔は冒険者だったんだよな?」

 

 ジュラードが問うと、ユーリは「おぉ」と肯定する。ジュラードは少し遠慮するように、こう問いを続けた。

 

「その……やっぱりお前らもローズのような規格外な強さなのか?」

 

 とりあえずアーリィが魔法を使える事は、ジュラードも承知している。しかし規格外な二人組であるローズとマヤの知り合いということは、きっとユーリも何かしらとんでもない力をもった人物なのではないかと、そうジュラードは密かに睨んでいた。さらに言うと、おそらくアーリィも魔法以外にも何かとんでもない能力を隠しているんじゃ無いかと、彼は大真面目にそう思っていた。

 警戒しているような期待しているような顔でそんなことを聞いてくるジュラードに、ユーリは可笑しくなって思わず笑い出す。

 

「ははっ、なんだそりゃ! そんなわけねぇよ!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

 ゲラゲラ笑うユーリに、しかしジュラードは何処かまだ疑うような眼差しを向ける。二人の話を聞いていたアーリィも少し笑いながら、「普通だと思うけど」とジュラードに言った。

 

「そうそう、フツーだって。つーか別にローズだって、そんな規格外とか言われるような奴じゃねぇと思うけどなぁ。ってか、規格外って何気にひでぇな」

 

「……そういう認識の時点で、お前たちの言葉を言葉どおり信じたらいけない気がしてきた」

 

 ジュラードのその返事にユーリは苦笑しながら、「まぁ、何にせよハンデはあるからな」と言う。

 

「俺らがローズたちと冒険してたのって三年前の話だし、それ以降は俺もアーリィも店のことでいっぱいいっぱいでこうやって旅すんの久々だしな。体鈍ってるのは確実だから、あんま期待すんなよな」

 

 ユーリはジュラードの肩を叩き、「俺もお前に迷惑かけねぇようには頑張るわ」と言う。アーリィも「私も」と言い、ジュラードはそんな二人にどう返事をしたらいいのか迷う表情を向けた。

 

「……普通って言ってるが、絶対に秘められた力の覚醒でパワーアップとか変身とかする気がする……」

 

「おいジュラード、お前俺らを何だと思ってんだよ」


 ジュラードの大真面目な独り言を聞き、ユーリはローズに「お前、ジュラードに一体何をして見せたんだ?」と聞く。ユーリのその問いに対してローズは、「いや、俺だって変身なんてしてないぞ」と首を横に振りながら言った。

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