再会 17
リリンが再び高い熱を出したのは昨夜遅くにだった。
ここ最近の数日は体調が良くなり回復していたように見えていた彼女だったが、やはり”禍憑き”は彼女を侵蝕し苦しめる。原因のわからない病は、時間と共に彼女の命を削り続けた。
「ハァ……ハァ……」
ベッドの上で熱にうなされて苦しそうに呼吸を繰り返すリリンの額に、ユエが水で冷やしたタオルを取り替えて乗せる。ここに居る子どもたち全員の”母親”である彼女の表情は、不安を隠しきれずに心配そうにリリンを見つめていた。
「先生、氷枕作ってきたよ」
「あぁ、エリありがとう」
うなされながら眠るリリンを気にして、エリが控えめな声でユエに声をかけながら部屋に入ってくる。彼女は持ってきた氷枕をユエに手渡し、「リリン、大丈夫?」と小声で聞いた。
「うん……ちょっと今回はまた熱が高くて不安でね……今日はあたしが看てるから、あんたはギースたちのことよろしく頼むよ」
「うん、わかった……」
エリはユエの返事に頷き、彼女の後ろからリリンの様子を見つめる。その眼差しはユエと同じもので、彼女は不安げな様子のまま再び口を開いた。
「……今日はお姉ちゃんも具合悪いんだよね」
「え? あ、あぁ……そうだね」
リリンと同じ病に侵されるイリスも、昨夜から体調が優れずに今日は部屋で休んでいる。
イリス本人の要望もあって子どもたちにはイリスまで禍に侵されている事は伏せているユエだが、しかし子どもたちは薄々彼の体調不良の理由に気づき始めている様子だった。
「ねぇ先生、お姉ちゃんってもしかして……」
エリは不安げな表情のまま何かを言いかけ、しかしそれ以上を口にするのが自分でも怖いのか、結局俯き口を閉ざす。ユエはエリの不安の理由に気づかないふりをして、彼女にこう声をかけた。
「イリスは大丈夫だよ。でもあんたたちがそんな不安な顔してたら、あいつも元気になれないよ。あんたたちはイリスが元気になるまで、あいつの分の仕事頑張ってくれたらいいよ」
「……うん」
不安の拭えない様子で、エリはユエの言葉に頷く。そして彼女はユエに背を向け、部屋を出て行った。
「……本当に情けないね、あたしは……」
エリの居なくなった部屋で、ユエは独り言のようにそう静かに呟く。
不安がる子どもたちにも、苦しむリリンやイリスにも何もしてやれない自分に、無力さと情けなさを重く感じる。
「せめてあんたがこの子の傍にいてくれたら……」
魘されながら眠るリリンに視線を戻す。汗の滲む彼女の頬をそっと撫でながら、ユエは祈るように「ジュラード……」と呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
彼は荒野を歩いていた。深く長外套の頭巾を被り、顔を隠しながら一歩一歩と歩みを進める。
荒野を駆ける乾いた風が砂を巻き上げ、灰色の長外套がばさばさと大きく音を立てて靡いた。
「……ここはやけにフラのマナが濃いな。それにこのマナの感覚は、私の知らないものだ……これがウルズから生成されたマナというわけか。興味深い……」
不意に立ち止まりながら、彼はそう呟く。すると彼の背後で別の声が聞えた。
「やっぱり”こちら側”のマナが再生している。……それにしてもここ一帯は異常に濃度が高いみたいだけど……」
声は彼の背後についていくように立っている女性のもので、彼女もまた灰色の長外套を着用し、それに付属する頭巾で顔を隠している。
「なぜ……」
「さぁ……私にはわかりません」
「希望が届いたのかな」
「……そうかもしれませんね。それを確認する為にも……あの人を見つけなければ」
短く言葉を交わしあい、二つの陰は再び動き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇