再会 16
フェリードの推測は、エルミラも大変気になるものだった。もし本当に彼の言うとおりならば、マナの増加が環境に強く影響している事となる。いや、それ自体は当然のことだが、フェリードの言う『変な植物』や『見たことの無い魔物』という影響の形がエルミラには気になる部分だった。
「もっと具体的な異常の例を知りたいなぁ……」
マナの観測地点の表を眺めながらエルミラは呟く。フェリードもお茶を啜りながら「そうですねぇ」と彼の呟きに同意を示した。
「気になる事は調べたくなっちゃう性分ですからね」
「そうそう、そうなんだよねーオレたち」
エルミラはふと思いついたような顔をして、フェリードにこう聞く。
「じゃあさ、調べに行こうか?」
「え?」
エルミラは凄く生き生きとした笑顔の表情で、「そうだよ、調べに行こう!」と言って立ち上がった。
「ちょ、エルミラさん! 僕、まだこれ量る仕事が……っ!」
「調査のついでに量ればいいじゃん。いいから行こうぜ」
「せめてそれ、逆にしてくれませんか? 量るついでに調査ならまだ……」
「もうどっちでもいいよ。それより行こうって」
「えぇ、今からぁ? まだ僕の頼んだあずきパフェが出てきてな……」
「あ、おばさーん! ごめん、あすきパフェキャンセルで! これ桜餅とお茶の代金ね! ごちそーさま!」
「ちょっと、なにそれ勝手に!」
「さぁ行こう!」
思い立ったら即行動の自由人・エルミラにフェリードは振り回され、「もぉ~」と文句を言いながらも彼の背中を追って歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アル・アジフを出たジュラードたちは列車で三時間ほど移動後、漁業が盛んな港町に到着していた。この港からは客船にも乗れる為だ。
彼らは乗り物の乗り継ぎの回数を少しでも減らす為に、船での移動を挟んでからの陸路で、ボーダ大陸の東のアンジェラ王国を目指そうとしていた。
「へぇ、ジュラードって孤児院で育ったのか」
「……あぁ」
船に乗る前の待ち時間に昼食を兼ねて少し町で休憩をすることとなり、現在五人と一匹は町の食堂で席に着き、料理を待ちながら雑談を交わす。
「じゃあ妹さんがいるのも孤児院なわけね」
マヤが確認するようにジュラードに聞くと、うさこを膝に抱えた彼が「あぁ」と頷いた。
今までは孤児院での育ちということは、ジュラードにとって他人に隠しておきたい事実であった。しかしそもそも自身がゲシュであったり、ゲシュと偏見無く接するローズたちと行動を共にしていくうちに、ゲシュであるが為の『孤児院育ち』という劣等感は彼自身の中で薄らいでいた。それを正直に告げられるほど、ジュラード は自分でも気づかない程にローズたちを信頼し始めていたのだ。
「そうか……じゃあその、今まで色々大変だったのか?」
ローズがそう遠慮がちに問うと、ジュラードは「まぁ、それなりに」と答える。
「それでも俺がいた所は恵まれていたと思う。先生が厳しいけど優しい人で、俺たちと真剣に向き合ってくれる人で……唯一の欠点をあげるとすれば、その人の料理は恐ろしく不味かったってことくらいだ」
真剣な顔でそうジュラードが答えると、ユーリが苦笑しながら「なんだそりゃ」と言う。マヤも苦笑いし、彼女はこう口を開いた。
「アタシも孤児院にいたことあるんだよねー。なんかちょっと懐かしいなー、あんたの話」
「そうなのか?」
ジュラードが驚いた様子でマヤを見ると、マヤは「うん、すっごい昔ね」と頷く。確かに大昔の話だなと、マヤの過去を知るローズたちはそれぞれに心の中でツッコんだ。
「アタシがいたとこの先生も優しいけど厳しい人でさぁ~。子どもたちで出来る事は全部やらせる人だったから、毎日結構忙しかったな」
しかしその時の経験があるから、自分は自立できているのだろうともマヤは思う。そして大変ではあったがその日々は充実もしていたと、マヤは遠い過去を懐かしんだ。
「俺のとこの先生もそんな感じだ。でも先生の場合は家事が出来ないから俺たちにやらせていたとこもあるけど……最近は家事が得意な人が働いてくれるようになったから、今はその人の手伝いで皆自主的に料理手伝ったりしてる」
「なんだか話を聞くと、孤児院の生活もそう苦労ばかりではないようだな。むしろマヤやジュラードの話を聞くと、充実しているんじゃないかとさえ感じるよ」
「そうね、いい環境のとこで育ったんでしょうね。アタシも彼も」
そんな会話を交わしていると、彼らのテーブルに注文した料理が運ばれてくる。漁業の町なだけあり、新鮮な海産物を使った料理がテーブルの上を鮮やかに彩った。
「お待たせいたしました」
「お、旨そう!」
ユーリが早速フォークを持ち、「いただきまーす」と言って魚介のパスタを食べ始める。ジュラードたちもそれぞれに、これからの旅路に挑む体力を付ける為に美味しい食事に口を付けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇