再会 15
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出発の日の空は、心地よい晴れの青空だった。
「それじゃあレイチェルにミレイ、行ってくるからな。しばらくよろしく頼むぜ」
「はい、ユーリさん。大丈夫、お店は僕たちに任せてください」
「おねえちゃん、いってらっしゃい。きをつけてね」
今日は朝早くからジュラードの妹のいる場所へ出発ということで、日が出て直ぐにジュラードたちは店の玄関の前でレイチェルたちの見送りを受ける。
「うん、ミレイも張り切りすぎて怪我とかしないようにね」
「だいじょうぶ、みれい、けがなんてしないよ!」
気合の入っている表情のミレイに苦笑を零しながら、アーリィはミレイの頭を撫でた。
「二人とも、忘れ物は無いわよね?」
再び手のひらサイズに小さくなったマヤは、いつもの定位置に収まりながらユーリとアーリィにそう声をかける。二人は揃って「大丈夫」と彼女に言葉を返した。
ちなみにマヤがまた小さくなっているのは、昨夜のうちにアーリィが魔術の荒業を解除してしまったからが理由だ。ローズは今もまだ魔法もハルファスの助けも借りられない状態だったが、何かあった時は今後ユーリとアーリィが戦力として加わるので若干彼女は安心していた。
「それにしてもユーリにアーリィ、なんでそんな準備がいいんだ?」
しっかりと冒険者服を着込んでいる二人を見て、ローズが不思議そうにそう問いかける。
邪魔になるからか伊達眼鏡を外しているユーリは、黒いレザーのジャケットに同じく黒いズボン姿で、腰には以前愛用していた二本の短剣を吊っている。そしてアーリィは水色と白を基調とした愛らしいデザインの衣装を着用し、共に以前冒険していた時とは違う新しい冒険者服だった。
「いつものエプロン姿で遠出するわけにはいかねぇからな。ま、なんかあった時の為に用意してたってわけよ」
「うん……実はいつかこういうことがあるんじゃないかなぁって、何となく予感してたんだよね」
「予感?」
アーリィの言葉にローズが首を傾げると、ユーリが笑ってこう答えた。
「お前らの手助けっつーか、そういうので呼ばれんじゃねぇかってな。そう思って一応準備はしといたんだよ。まさにビンゴだったな」
「そう、だったか……」
ユーリたちの言葉に何となく嬉しさを覚えたローズは、彼らに向けて微笑みを返した。
「二人とも、ローズもアタシもしばらく役立たずだから、そこんとこよろしくね。迷惑かけちゃうけど、なんかあった時はジュラードと一緒に頑張って」
マヤがそう言うと、アーリィが「うん、わかった!」と力強い表情で返事をする。”役立たず”と言われたことは悲しいけど正しいので、ローズも「頼むな」と二人に告げた。
「んじゃ行くか。えーっと、東の方だったよな?」
「あぁ。とりあえずアンジェラを目指してもらえばいい」
ジュラードがそう答えると、ローズが頷いて「それじゃあ東を目指そう」と言う。それが出発の合図となり、ジュラードたちはレイチェルたちの見送りを受けながら東に向けて歩き出した。
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「わー、エルミラさんって凄いんですねー! この測量結果のレポート、完璧ですよ! 驚いたな、全然ど素人じゃないじゃないですかー!」
「当たり前よ。オレを誰だと思ってやがる」
ひょんなことからフェリードという地理学者の青年の手伝いをすることとなったエルミラは、彼と共に各地のマナの測量を行っていた。彼らはボーダ大陸の西から北の方向に移動をしながら測量を続け、今現在はボーダ大陸最大の国・ティレニアの北の町に滞在していた。
研究者同士だからか意気投合した二人は色々意見を交わしあいながらマナの測量を行い、今は午後の測量までの休憩ということで甘味所で甘いお菓子を食べながら、二人で今までの測量結果を纏めた資料を眺めていた。
「すごいですねぇ、なんか僕よりよっぽど詳細にまとめてあって……ホント、何者なんですか?」
一応自分は色々と厄介な者に追われている身なので、フェリードに詳しい身分を明かしていないまま共に行動していたエルミラは、改めて聞かれて「あー、ノーコメントで」と返事を返す。フェリードは納得いかなそうな表情で、「やっぱり教えてくれないんですね」と呟いた。
「だって知ったら君にきっと迷惑がかかるから……そう、オレって実はとある国の王子で、今お忍びで放浪の旅をしてる最中とか何とか……そういうことにしておいてよ。いっそそれを真実だと信じ込んで、オレをもっと敬ってくれても構わないからさ」
「……まぁいいですよ。それよりもエルミラさん、これってどういうことでしょうね?」
エルミラの戯言を軽くスルーして、フェリードは資料をエルミラに見せながらそう問う。エルミラは「何が?」と聞きながらテーブルの上の桜餅に手を伸ばし、差し出された資料を覗き込んだ。
「これですよ、これ。一部の地域での異常なマナの量です」
「あぁ、それね。さぁ……そーいうのはオレもよくわかんないんだよねー」
二人でここ数日ボーダ大陸の西の一部を測量して歩き回ったのだが、各地のマナは確かに三年前から増加傾向にあった。だがその増加の量が異常に多い地点が何ヶ所かあり、フェリードはそれがとても気になっている様子だった。
「う~ん……増えているマナは各地ばらばらですけど、一体何が原因で一部の場所だけ異常にマナの量が増えているんでしょう?」
「無いよりはあったほうがいいんだから、少ないより多いほうがいいんじゃないの?」
やけにマナの異常な量を気にするフェリードに、エルミラが桜餅を頬張りながらそう返事をする。しかしフェリードは「そうでもないかもしれないから気にしてるんですよ」と返事した。
「え、なに? どゆこと?」
「実はエルミラさんと調べる前にも、マナの量が異常に増えてる場所を何ヶ所か見つけていたんです。そういうとこで暮らしてる人に話を聞くと、なんかここ数年で変な植物が生えたり見たこと無い魔物が出没するようになったりって話を聞くので、もしかしたらそういうのってこのマナの異常な増加が原因なんじゃないかって僕思いまして……」
「へぇ……それは確かに気になるね」
「でしょう?」




