もう一人の探求者 5
”妹”で自分の大事な目的を思い出したジュラードは、こんなところで暢気にお茶飲んでる場合じゃないと気づく。だが、そうは言ってもやはりローズをこのままリトの家に放置してとんずらする訳にもいかないだろう。
「……」
「……お兄ちゃん、眉間に皺がすごいよ? 怖い顔してどしたの?」
色々考えていると、自然と怖い顔になってしまうらしい。リトの言葉にハッとなったジュラードは、「な、何でもない」と言って眉間を指先で解すように揉んだ。
「それより、お前はどうして俺を助けてくれたんだ?」
「ん?」
お茶を啜りながら、ジュラードはリトへ問う。幼い少女は大きな栗色の瞳を丸くさせて、不思議そうにジュラードを見た。
「どしてって……お兄さん、困ってたでしょ?」
「ま、まぁ……それは確かにそうだ」
困っていても助けてもらえない場合がほとんどのジュラードなので、リトの返事に彼はちょっと心がジーンとなる。ますますいい子だなぁと、ジュラードが仏頂面しながらそう思っていると、居間にやっと目を覚ましたらしいローズが姿を現した。
「あ、あの……」
「あ、お姉ちゃん!」
目が覚めたら知らない場所にいた事にひどく戸惑っている様子のローズは、やはりこちらも見覚えが無い少女に「目が覚めたんだね」と言われてさらに困惑した表情を見せる。
「えっと……私は一体……それに君は?」
まだ若干顔色の悪いローズは、そう言って戸惑う表情のままリトを見た。するとリトはこう答える。
「リトはね、お兄ちゃんが眠ってるお姉ちゃんおんぶして困ってたみたいだから、お家に来なよって言ったの。お姉ちゃん、体だいじょぶなの?」
リトの問いかけにローズは「あ、うん……」と、何処か曖昧な様子で頷く。そして彼女は、リトの背後にいるジュラードに視線を移した。
「あ……」
「……本当に体調はもういいのか?」
視線が合い、まだ状況を把握できていないらしいローズは頼りない表情をジュラードに向ける。そんな顔されても困るジュラードは、取り合えず彼女の体調を伺ってみた。
「だ、大丈夫……えぇと、倒れたのか?」
ローズは答えながら、途切れた記憶を思い出してみる。ジュラードが無言で頷くと、彼女は大体理解したのか「そうか」と呟いた。
「なんだか……私の方が迷惑をかけたようだな。すまない……」
ローズはジュラードにそう言い、そしてしゃがんでリトにも「君も、私を助けてくれてありがとう」と礼を言う。リトは嬉しそうに微笑むも、直ぐに不安げな表情となってローズにこう言った。
「お姉ちゃん、まだ顔色悪いよ? 具合よくないなら、まだ寝ててもだいじょぶだよ? もう直ぐお母さんも帰ってくるし、そしたらお姉ちゃんお医者さんに診てもらえると思うから」
「いや……平気だ、ありがとう」
リトの言葉に再度頷くローズだが、確かに顔色はまだ優れない様子だ。ジュラードは立ち上がり、ローズにこう声をかける。
「まだ調子が悪いなら彼女も休んでいいと言ってるんだし、もう少しくらいならば世話になって休んでいけばいい。俺は……やらなきゃいけないことがあるから、もう行くが」
目が覚めたならもうこれ以上世話する義理もないだろうと、急ぐジュラードはそう言って自分の荷物を持ちに二人へ背を向ける。そのジュラードの行動にリトは驚いたように目を丸くし、「お兄ちゃんは行っちゃうの?」と聞いた。
「あぁ……悪いが俺は急いでいるんだ」
「でもお姉ちゃんおいてっちゃダメだよ……お友達でしょ?」
「……会ったのは今日が初めてだ」
「えぇ?」
ジュラードの返事に、二人の関係性がさっぱりわからないリトは困惑した様子で首を傾げる。よくわからないので困ったリトがローズに視線を向けると、ローズはジュラードを見てこう口を開いた。
「待ってくれ。……行くなら私も一緒に行かせてくれ。本当に私はもう大丈夫だから」
ローズのその言葉に、今度はジュラードが困惑する。彼は「何故一緒に……」と、訝しげな眼差しをローズに向けたまま問うた。
ジュラードに聞かれ、ローズも困った様子となり「え、ダメか?」と逆に問い返す。質問に質問を返すのは反則だろうと思いながら、ジュラードは小さく溜息を吐いて答えた。
「……まぁ、別に……かまわない」
断る理由なんて沢山あったのに自分は何故了承したのかと、自分自身の返答に疑問を思いながらもジュラードはローズにそう返事をする。ローズは微笑み、「そうか、ありがとう」と彼に返事をした。
「お姉ちゃんたち、もう行くの?」
「あぁ。ありがとう、お世話になったね」
リトの問いかけに、ローズはそう笑顔で言葉を返す。ジュラードが自分の荷物を取ったついでに彼女の荷物と剣を彼女に渡すと、ローズは荷物をあさって何かを取り出した。それは瓶に入った、色とりどりの小さな飴。小さな星のかけらにも見えるそれを、ローズはリトに「お礼にこれを」と言って渡した。
「わぁ……お姉ちゃん、このお星様みたいなの、なに? すごいきれい!」
「飴だよ。コンペイトウって言うんだ。私の生まれた所で、古くから伝わるお菓子なんだけど……甘くて美味しいよ」
「ほんとに貰っていいの?!」
「あぁ」
リトは嬉しそうに、コンペイトウの入った瓶を胸に抱えて「ありがとう!」とローズに礼を言う。ローズも彼女の笑顔を見て、とても嬉しそうに微笑を返した。