再会 8
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夕刻近くの時間、ユエとイリスはレイヴンの診療所を訪れていた。
二人は診察室の椅子に腰掛け、レイヴンの話に耳を傾ける。
「あれからわたしも独自に”禍憑き”について調査をしてみたのですが……」
孤児院の残る子どもたちとリリンのことは、年上のエリとトウマに任せてきた。そうして二人は自分たちを苦しめる死の病についてをレイヴンと共に考える為に、ここに来ていた。
「やはりこの病にかかった者は、わたしが調べた範囲ではリリンちゃんやイリスさん含めて皆ゲシュでした。おそらくこの病は人と魔族の混血にのみにかかる病だと、そうわたしは今の段階で考えています」
「そうか……ゲシュが……」
重い溜息のような声で、ユエはレイヴンの言葉に頷く。イリスは硬い表情で押し黙り、そんな様子のユエを横目で見つめた。
「しかし今のところ報告が出来るような事はそれだけです。なぜゲシュの方のみにこのような病が発病するのかは、今はまだわかりません」
続けて「すみません」と呟いたレイヴンに、ユエは顔を上げて首を横に振る。
「いや、先生は本当によくやってくれているよ。ありがとう……」
ユエの言葉に続けるように、イリスも「えぇ」と小さく口を開いた。
「私たちのような存在にここまで真摯に向き合って治療を行おうとしてくれる先生には本当に感謝しています」
自分たちが忌み嫌われる存在だと言う事は、イリスもよく知っている。知っているからこそ、彼もレイヴンには深く感謝していた。当然心から心配してくれるユエたちにも。
「いえ、しかしわたしは医者です。人の命を救うのが使命だ……なのに、今のわたしにはあなたたちの病を治す手がかりすら見つけられていない……」
ユエたちの言葉に、今度はレイヴンが苦痛を堪えるような表情で首を横に振る。真面目な彼は、真面目ゆえに今の無力さが耐えられないようだった。
「先生がそんなに気に病む事は無いですよ。先生のお陰で、リリンも私もまだ頑張れてるんですから」
「そ、そうだよ先生。だから頼むよ先生、諦める事だけはしないでほしいんだよ……」
ユエにとってリリンもイリスも、大事な家族の一員だ。たとえ血は繋がっていなくとも、絆でその心は繋がっていると彼女は信じている。だから失いたくは無かった。
「あたしたちが頼れるのは先生しかいないんだ。二人を助けてやってくれ……」
普段は逞しく気丈なユエの瞳に、薄く透明な雫が浮かぶ。それを見て、イリスは驚いたように「ユエ……」と彼女の名を呟いた。
レイヴンも一瞬でも弱気になった自分を反省したのか、ユエに力強く「勿論です」と返す。
「とりあえずわたしの方では、もう一度リリンちゃんやイリスさんの血液検査を行ってみましょう。ゲシュということが病気に関係あるとすれば、その観点から新たな事実が見つかる可能性もあります」
「わかりました」
祈るような気持ちで、ユエはレイヴンに「お願いします」と告げて頭を下げた。
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「な、なんだか今日はすごい賑やかだね……」
空が群青色に変わった時刻、店の片づけを終えたレイチェルが家の中に戻ると、人口密度がまた一段と増して賑やかになっていた。
普段はアーリィとユーリの二人暮しの家なので、元々そんなに大人数を受け入れられるような広い家ではないのだが、それでも無理矢理今この家にはレイチェル本人を含めて七人(内一人は小型サイズ)と一匹が集まっていた。
夕食を待つジュラードやユーリがくつろいでる居間のソファーにレイチェルも腰掛けると、ユーリが彼に声をかける。
「さっきも言ったけど、今日は一晩ローズたちもここに泊まるからな。で、明日俺らはこいつらと出発だ」
「あ、はい、わかりました」
午後の間に自分たちが不在の間のことをユーリに説明されたので、レイチェルは彼に「こっちは大丈夫ですので」と返事を返す。ユーリは笑って「頼むぜ」とレイチェルの肩を叩いた。すると二人の元にミレイがうさこを抱えながらやって来る。
「ゆーり、みれいもがんばるんだからわすれないでね!」
「あぁ、わりぃ、お前も頼りにしてるぜ」
「ついでにおみやげもわすれないでね」
「いや、別に俺ら遊びに行くわけじゃねぇんだけど……」
ミレイのちゃっかりしたお願いに、ユーリは苦笑する。するとアーリィやマヤと共に夕食の準備を終えたらしいローズが、「ご飯出来たぞ」と彼らに声をかけた。