再会 7
「つーわけで、まずはレイチェルたちに相談だな!」
「あ、あぁ……」
ユーリはそう言って立ち上がると、早速レイチェルたちに今の話を相談しに行く。マヤはその場に残ったアーリィに、「ねぇ、二人とも居なくてお店大丈夫なの?」と聞いた。するとアーリィは数秒考えた後、ちょっとだけ自信なさげに「多分」と答える。
「ユーリが大丈夫って言うんなら大丈夫じゃないかって思うけど……商品の在庫もあるし」
「そう。まぁ確かにレイチェルしっかりしてるし、ミレイもなんか手伝えてるみたいだから任せてもそんな問題は無いようには思えるけど……」
「うん……あ、でもやっぱりミレイは心配かもしれない。なにかを任せると変な方向に張り切る傾向があるから……う~ん……」
「あの……なんかすまない……その、迷惑かけて……」
なんだか居た堪れない気持ちになってジュラードが小さく謝ると、アーリィは驚いた様子で「べ、別に謝る事じゃない!」と彼に返した。
「だって妹が大変なんだろ? 私だってミレイっていう大事な妹がいるから、お前の気持ちわからなくも無いし……」
「え? あの小さい子どもとお前は血縁関係だったのか?」
アーリィの発言に、ジュラードはますます彼女らの関係がわからなくなる。ということは、ローズとアーリィとミレイは三人が姉妹なのだろうか?
ジュラードが一人悶々と悩んでいると、ユーリが戻ってきて彼らにこう報告した。
「よう、お待たせ。なんかレイチェルに相談したら、『いいよー』だってさ」
ユーリのその軽すぎる報告を聞いて、ジュラードは思わず「いいのか?!」と確認してしまう。ユーリは笑って「いいんじゃねぇの?」と彼に言った。
「ず、随分適当だな……」
ジュラードの呆れた声に、マヤも苦笑いを浮かべる。そんな彼らの反応を見ながら、ユーリは「なんにせよ、これで決定だな」と言った。
「よーし、そうと決まれば早速準備しねぇとな!」
「準備?」
アーリィが首を傾げると、ユーリは「あぁ」と頷いて彼女に微笑みかける。
「だって遠出すんだぜ? 色々準備しねぇと」
「あ、そういうことか」
アーリィは納得し、「私もする」と彼に言う。ユーリはジュラードたちに向き直り、こう告げた。
「出発は明日でいいか? 長く店空けるし、そのことも含めて色々準備してかねぇといけねぇから」
「なるべく速い出発がいいが、でもそっちの事情もあるからな……俺はそれで構わない……」
ユーリの問いにジュラードがそう答えると、ローズは「じゃあ出発は明日だな」と頷く。するとマヤがユーリにこう聞いた。
「明日の出発はいいんだけど、そうするとアタシたち今日ここに泊まってってもいいのかしら?」
「ん? あー……どうだろう。部屋そんなにねぇから、誰かこの居間で寝てもらうことになるけど……」
「……ちなみにあんたはどこで寝んのよ?」
「俺? 俺は勿論アーリィと一緒に愛の寝室のベッドで!」
「ゆ、ユーリ!」
「ローズ、あいつを殺せ。ジュラードでもいいわよ。八つ裂きにしてしまえ」
本気の命令を下すマヤにローズは苦い顔で「ここで血なまぐさい事はダメだ」と言い、ジュラードも無言で首を横に振って拒否を示す。そしてユーリは赤面したアーリィの肩を抱いて、勝ち誇った顔でマヤをニヤニヤと見ていた。
「くそ、むかつく。ユーリの癖に生意気だ……いいわ、元に戻ったら真っ先にユーリをこの手で八つ裂きに……」
「本気だ……マヤのあの目は本気だよ、ユーリ……あれは八つ裂きどころかミンチにする気の目だよ……」
マヤのマジな発言にアーリィはハラハラするも、ユーリは勝者の余裕なのかまるで意に介さず、怖い彼女を無視してローズたちに話しかけた。
「で、どうする? それでいいならここに泊まってってもかまわないぜ。毛布くらいは何とか用意するから」
「じゃあそうさせてもらうよ。ジュラードもいいか?」
「あぁ……」
ジュラードが頷き、ユーリは「りょーかい」と返事をする。彼の返事にローズは「ありがとう」と呟いた。
「いいって、礼とか。こっちも久々にお前らに会えてテンション上がってるとこあるし……なんつーか、別に迷惑とか全然思ってねぇからさ」
照れ隠しの苦笑を浮かべつつ、ユーリはローズにそう答える。姿が変わっても変わらぬ態度と優しさでもって接してくれる彼に、ローズは色々と助けられていると改めてそれを感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
肌寒い風が吹く。どこか寂しいその風に、白い花びらが舞うように数枚流れた。
「……まだこの時期のここは、相変わらず空気が冷たいね」
そう呟きながら彼は、深く被ったフードを左手で押さえる。反対の手には、先ほど風に待った花びらと同じ白いマジカの花の花束が握られていた。
白い花束は弔いのものだと、この地域ではそう語られている。なので彼も白い弔いの花を手に、少し寒さを感じる丘を登ってやってきた。
彼は目的としていたものの前で立ち止まり、上着のフードを外す。三年前よりは随分と短くなったが、襟足まで伸びた彼の白藍色の髪が、また強く吹いた風に大きく靡いた。
「久しぶりだね、マギ。それに、レンツェ」
立ち止まったのは、真新しい白い墓の前。かつてここには古く小さな墓があったが、三年前に彼女の元に彼を還したのと同時に、彼が今の墓に立て直したのだ。
「君たちは今、共に居て……きっと二人で笑っているんだろうね……」
墓に刻まれた二つの名前を何処か寂しげに見つめ、ジューザスは手向けの花を静かに墓の前に置いた。そして彼は、自分以外誰もいないこの場所で言葉を続ける。
「マギ、君が居なくなって……この世界も少しだけ変わったよ。いい意味でも、悪い意味でもね。でも、私たちがした事は決して間違いではなかった……私は今もそう思っているよ」
遠い場所に向かった友人たち。この場所にまだ留まる自分。その全てに意味があるのならば、自分はまだここに立ち続けなくてはいけない。
「時々今も思うんだ、この世界は残酷だねって……でも、愛しい……だから信じてる。……君も信じて、どうかそこから見守っていてほしい……」
空を見上げる。金色の瞳に映ったのは、寂しげな灰色の空。
強い風が彼の元を吹きぬけ、再び風に攫われた白いマギカの花びらは灰色の高くに吸い込まれていった。




