再会 6
「確かに全く血の繋がりが無い他人……とは言い切れないかもしれないわね」
マヤもそんなことを言うので、ジュラードはアーリィとローズは血縁関係があるんだと認識する。彼は納得したように「そうか」と頷いた。
「で、あんたは?」
ユーリがジュラードをまっすぐ見据えながら、そう問いかける。ジュラードは「え?」と一瞬戸惑うも、自分の紹介を求められていると気づいて口を開いた。
「俺はジュラード……その、旅してる……」
必要最低限過ぎるジュラードの紹介に、ユーリは「ふぅん」と、理解したのかしてないのかよくわからない返事を返す。直後にローズが口を開いた。
「ジュラードが旅してる理由は、病気の妹さんを助けるためなんだ。そのことで、ちょっとアーリィにお願いがあって……」
「私?」
アーリィが驚いたように目を丸くし、ちょっと不安な様子で「なに?」と聞く。そんなアーリィの様子を見て、マヤが「そんなに心配しないでも大丈夫よ」と笑った。
「う、うん……」
だがアーリィの不安げな表情は変わらず、ユーリも「どういうことだ?」と眉をしかめるので、ローズたちはさっさと話をしてしまうことにする。
「実は彼の妹さんが『禍憑き』という病気にかかっているらしいんだ」
「禍憑きだって?」
ローズの説明にユーリが驚いたような反応を返すと、ジュラードは思わず「知っているのか?」と彼に聞く。ユーリは「まぁな」と頷いた。
「っつっても詳しい事は知らねぇけどな。名前と、それが今の時点では治すのか難しい病気だってことくらいしか知らねぇんだ」
そう答えた直後に、ユーリはローズたちが自分たちの所にきた理由を察して「もしかして」と呟く。
「アーリィに用事で”禍憑き”絡みって……魔法薬?」
「そうよん、当たり。ユーリにしては鋭いわね」
マヤの言葉にユーリは苦い顔で「お前、相変わらず俺のこと馬鹿にしてるだろ」と呟く。マヤはそれを完全無視した。
「無視すんなよ……つうかまぁ、ピンときたのは最近そーいう手紙がこっちに届いたからなんだけどさ」
ユーリのそのぼやくような呟きに、ローズは「どういうことだ?」と反応する。ユーリはローズたちに説明するようにこう言った。
「ん? いや、アーリィの魔法薬でその病気治せないかみたいな問い合わせっつーか……でもそんな見たこともない病気に対して無責任に薬売れねぇよと思って、ちょっとこっちも困ってたんだよ」
「今、そのことでアゲハがわざわざその病気の人の様子を見にヒュンメイに行ってるの……」
アーリィが補足するようにぼそっと呟くと、マヤは思わず「ヒュンメイまで?!」と驚きの声を上げる。ジュラードも決して近いとは言えない別大陸まで行ってると聞き、驚きながら『どれだけ行動力がある人なんだ』とちょっぴりアゲハに興味を持った。
「いえ、それよりアーリィの薬の評判がヒュンメイの方にまで伝わっている事に驚くべきかしらね……」
「確かに凄いよなぁ」
「それについてだが、そのアゲハが飛び出して行く先々でウチの薬を宣伝してくれてるらしくてな……それが少なからず影響してる気もするんだよな……」
そう答えたユーリは何故か苦い表情を見せるので、ローズは「何か問題があるのか?」と彼に聞く。ユーリは苦笑しながら答えた。
「いや、変に流行るとまた厄介なことになりそうな気がして不安っつーかな。それとあの得体の知れない恋の魔法薬が広範囲にばら撒かれる事態は恐ろしい気がすんだよ……」
じゃんじゃん売っといてなんだが、ユーリはやはり”恋の魔法薬”の強力な効果を若干危惧しているらしい。彼にとってはその効果の原理も全くの不明だから尚更不安になるようだ。
するとアーリィが「大丈夫」と彼に声をかけた。
「あの薬はおまじないみたいなものだから。効力は一日から三日くらいしか持続しないの。その後好きな人を捉まえていられるかは本人次第……あの魔法薬はあくまで”恋愛のきっかけ”になればいいなぁって考えて作ったものだから。……その代わり薬の効果は絶大だけど……薬が切れるまでは好きな彼は自分しか見なくなる……ふふ、だって私は恋する女の子の味方だし……」
「そ、そうか……」
虚ろに微笑みながらのアーリィの説明を聞いて、ユーリは引きつった笑みを彼女に返す。『むしろ怖いのはこの子の方かもしれない』と、恋する女の子を全力で応援しすぎてヤバイ方向に向かおうとしているアーリィを見て、ユーリはそれを真面目に思った。
「でも私、その病気知らないし……私の作る薬がその病気に効果あるのかわからない」
アーリィがそうローズたちに向き直って言うと、マヤは何かまた不安げな表情の彼女にこう言葉を向ける。
「大丈夫、アタシたちも『もしかしたら』って可能性であなたに頼みに来たのよ。それに禍憑きが何か魔法的な要因の病だったら、あなたは治癒治療や禍を解く解呪が得意だし、もしかしたらそれらで彼の妹を助けられるかもしれないと思ってね」
「そう……」
マヤの言葉にアーリィは頷くも、その表情はまだ何か迷っている様子だった。そんな彼女にジュラードは勇気を出して話しかけてみることにする。
「あの……あなたなら妹を助けられるかもしれないって、そう聞いたんだ……いや、無理でも責めることはしない。妹の病気は不治の病だって言われてるから、可能性があるだけでいいんだ。その……だから妹の所に行ってみてもらえないだろうか? 妹の病気をみて、何か手があるようだったら助けてもらえらばいいんだ」
ジュラードはそう言うと、「頼む」と言ってアーリィとユーリに頭を下げる。そんな彼の姿を見て、アーリィは戸惑ったようにユーリに視線を向けた。
「ゆ、ユーリ……どうしよう……」
アーリィ一人では決められない頼み事なので、彼女はユーリに意見を求める。ユーリはジュラードを見つめ、しばらく考えるように沈黙した。
「ユーリ、アーリィ、私からもお願いできないか? 本当は私が助けられればいいんだが、私はアーリィほど治療の魔法は使えないし魔法薬も作れん……その代わり私たちに出来ることなら何でも手伝うよ。だから……」
ローズも切望するように頭を下げるので、ますますアーリィは困ってしまう。別に助けたくないわけではないし、自分の力で誰かを助けられるならそうしたいが、しかし彼女はそうなるとしばらく店を離れる事になるだろうという事を心配していたのだ。なので彼女はユーリの判断を待っているのだが、ユーリもそれを考えているのだろう。彼はやがて、少し迷う表情で口を開いた。
「返事する前にちょっと聞かせてもらいてぇんだけど、あんたの妹さんって今どこにいるんだ?」
ユーリがジュラードにそう聞くと、ジュラードは「ボーダ大陸の東……アンジェラの国境付近の小さな村に……」と答える。それを聞いて、ユーリは再び考える様子となり呟いた。
「つーことは短くても二、三週間はこっち離れることになるな……どうすっかなー」
「二、三週間アーリィがいないと、店が結構困る事になるのか?」
「つーか、行くなら俺も行きたいからさぁー」
「え?」
ユーリのまさかの発言に、ローズは驚いたように目を丸くする。マヤも「なんであんたまで……」と、呆れたような言葉を彼に向けた。するとユーリは不満げな表情でこう言い返す。
「なんだよ、俺だけ除け者にする気かよお前ら。そーはいかねぇぞ」
「いや、だっておまえ、店はどうする気なんだ……」
ローズの当然の指摘に、ユーリは「だからそれで悩んでるんだって」と答える。そして彼はこう続けた。
「まぁ、今はレイチェルたちがいるからいっか」
「レイチェルに店任せる気か?」
「あぁ。そうすりゃ問題ねーだろ」
「……」
ユーリの返事を聞いて、ローズにはそれでいいのか悪いのか判断できないので黙り込むしかない。まぁ本人がいいならいいのかもしれないが……。




