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神化論 after  作者: ユズリ
もう一人の探求者
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もう一人の探求者 4

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 草原地帯から街道に抜けてそこを三十分ほど歩いていると、運良く行商の馬車が一台そこを通りかかり、大荷物なジュラードを見かねた商人の男性がジュラードたちを近くの町まで乗せて行ってくれることとなった。

 そうして何とか過労でローズ同様に倒れる事を免れたジュラードは、二時間ほど馬車に揺られてアンジェラの国境近くの町へと辿り着く。その町で下ろしてもらった彼は、一先ずローズを医者か何かに見せなくてはいけないと思い、診療所でも無いものかと街中を歩き探す。だが始めて訪れた町で、そう簡単には目当てとする場所が見つかるはずも無い。

 

(……誰かに聞くか)

 

 重量オーバーな荷物その他が辛いので、ジュラードはさっさと楽になるために診療所が無いかを町の人に聞くことにする。しかしここで、普段の彼が毎度遭遇する問題が発生した。

 

「……」

 

 町には老人や若い青年、幼い少女や恰幅良い中年の女性など様々な人が歩いている。店も多く、彼が今歩く町の目抜き通りは賑やかな雰囲気だ。声をかけようと思えば、人はいくらでもいるから簡単にかけられる。……はずだ。

 

「……」

 

 だがジュラードは難しい顔をしたまま道の端で立ち尽くし、一向に人に声をかけようとしない。

 実は彼はでかい図体と強面な顔のわりに、心は繊細で人見知りする男だった。話を聞かないといけないという気持ちはあれど、見知らぬ他人に自分から声をかけるという勇気がなかなか出ずにどうしようもなく立ち尽くす。

 誰にでも気軽に声をかけれる社交性というのは旅に重要なほど必要なスキルだと彼も理解していたが、それが自分には無いのだから仕方ないとも諦めていた。

 それに自分はどうも、他人に対して余計なプレッシャーを与えてしまう程に人相が悪いらしい。いざ勇気を出して他人に声をかけても、相手によっては怯えて逃げていく事も多々あった。強面な顔だという事はジュラードも自覚していて、そういう自分の顔に対するコンプレックスのようなものもあり、ジュラードはますます他人に声をかけられない悪循環に陥っていくのであった。

 

「……」

 

 だがこのまま突っ立っていても、やはりどうしようもない。何より荷物その他が重くて、そろそろ腕が限界だった。

 ジュラードは勇気を振り絞って、目の前を通りかかった青年に声をかけた。

 

「おい……」

 

「はい……ひぃっ!」

 

 だが、やはり青年はジュラードに声をかけられると何か勘違いして怯え、逃げていく。緊張から表情が強張っていつも以上に目つきが悪くなっていたし、何か声のかけ方もまずかったような気もするが、不器用な男である彼にはそんな事はわからなかった。

 ジュラードは顔を逸らされてまた一目散に逃げられた事に、心が傷つき他人に対するトラウマを重ねていく。面倒なくらいに傷つきやすくもある男だった。

 

「……なぜだ」

 

 虚しく、彼は立ち尽くしながらそう呟く。

 こんな顔と性格だから自分は”あの場所”でも友達などいなく、唯一の肉親である妹だけが自分を誤解せずに接してくれていたとジュラードはふと思い出した。

 

「……お兄さん、そのお姉さんどしたの? だいじょぶ?」

 

「え……?」

 

 色々思い出しながら悲しい気持ちになっていると、ジュラードの背後で幼い少女の声が聞こえる。ジュラードが振り返ると、その視線の先には丁度今思い出した妹よりも少し幼い少女が立っていた。

 

「お兄さん、困ってる? お姉さん、具合悪いの?」

 

「え……あ……」

 

 茶色い癖毛と同色の大きな丸い瞳が愛らしい印象の少女が、どこか心配した様子でジュラードに声をかけている。たった今青年には逃げられたのに、十歳かそこらの見た目の少女の方から声をかけてきたことにジュラードはちょっと動揺した。

 だが幼い子でも、自分を怖がらずに話しかけてくれてことはジュラードにとって素直に嬉しい事だったし、ありがたかった。なのでジュラードは、藁にも縋る思いで少女に返事をする。

 

「俺は困っている。だが彼女が具合悪いのかは、俺にはわからない。彼女を診てもらうために、医者を紹介してもらえると嬉しいんだが……」

 

 すると少女はちょっと困ったように眉根を寄せて、ジュラードにこう返す。

 

「ごめんねお兄ちゃん。リト、一人ではお医者さんのとこ行ったことないからよくわからないの……」

 

 リト、と、そう自分の名を言った少女は、しょんぼりとした様子でジュラードに謝る。ジュラードは「いや、いいんだ」と、慌てて首を横に振った。

 

「わからないなら、別に……」

 

「そだ、お兄ちゃん家においでよ。家でそのお姉ちゃん、休ませてあげるくらいなら出来るよ。もうすぐお母さんも帰ってくると思うし、お母さんだったらお医者さんのことわかると思うの」

 

 リトの突然の提案にジュラードは一瞬戸惑うも、しかし今の自分に唯一優しくしてくれるのはこの少女だけだと錯覚した彼は、彼女の提案に「いいのか?」と聞く。リトは大きく頷いた。

 

「いいよ。あ、でもお姉ちゃん、すぐお医者さんに診せなくてだいじょぶかな?」

 

「……外傷は無いようだし、貧血か何かで倒れたんじゃないかと俺は思うんだが……多分、大丈夫だろう。取り合えず休ませてもらえると助かる」

 

「うん、わかった。こっち来て、家すぐそこだから」

 

「すまない……」

 

 申し訳無さそうにそう呟きながら、ジュラードは自分に背を向けた少女の後をついて行くことにした。

 

 

 

 リトが『直ぐそこ』と言っていた通り、白い煉瓦で造られた彼女の家は彼女に声をかけられた町の通り沿いにあり、五分もかからずに到着する事が出来た。

 少女の家には現在は誰も居らず、もう直ぐ買い物に行っている母が戻ってくるということなので、ジュラードは取り合えず未だ気を失っているローズを、リトの案内で彼女の部屋のベッドへと寝かせた。

 

 

 ローズを寝かせ、彼女と自分の分の荷物を部屋の中に置かせてもらいやっと身軽になったジュラードは、居間に案内される。

 

「お兄ちゃん、はいどーぞ」

 

「え……あ、す、すまない……」

 

 ソファーに座って疲れた息を吐きながら、リトから差し出されたお茶をジュラードは受け取る。

 リトはまるで自分の妹のようにいい子だと、そうしみじみ思いながらジュラードは温かいお茶を一口啜った。

 

「……そうだ」

 

「どしたの、お兄ちゃん」

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