浄化 98
「あぁ、それはそうなんだが……でも、ここを超えないとローズたちの元へはたどり着けないから」
ジュラードがそう疲れた顔で説明すると、ヒスは「それもそうだが」と理解はしつつも心配した様子を見せた。
「あのさー、一応俺らもジュラードのことを心配して工夫したんだぞ? さっさと砂漠を超えるために空を飛んで移動してたわけだし」
「あぁ、それでお前らは空から落ちてきたのか」
ユーリの補足説明にヒスは呆れた顔を見せる。「相変わらずお前らは無茶をする」と、真面目で心配性なヒスらしい呟きを聞いてユーリも思わず苦笑を浮かべた。
「それでドラゴンに乗って空を……あ、イヤ、ドラゴンじゃないんだっけか?」
「えぇ、ナインさんはドラゴンではなく、魔族の方なんですよね?」
ヒスの疑問に続けてカナリティアが確認するようにユーリに問うと、ユーリは「そうです」と答えてナインへと振り返る。
「オッサン、元に戻れるか?」
「おう」
ユーリが呼びかけると、ナインは竜形態を解除して一旦人の姿に戻る。そうしてまた驚いたように目を丸くするヒスたちに、改めて「どーも」と片手をあげて挨拶した。
「ナインだ。なんか成り行きでこいつらに手を貸してる一般人だぞ」
「一般人か……」
『絶対一般人じゃないよな』という表情でヒスが見つめると、ナインは「そう見ないでくれ、照れる」と笑いながら返す。本人がそれ以上を語らないのなら、ヒスは一先ずナインのことは『一般的な魔族』という認識でいることにした。
「っていうかナインさんって、あのお店の店主さんですよね……?」
唯一アゲハはナインと面識があるので、彼がまさかドラゴンに変身する力まであるとは思わず、ひどく驚いている。そんな彼女にナインは楽しそうな笑みを向けて、「嬢ちゃん、また店に食いにきてくれよな」とナンパした。
「それで、どーすんだ? そのお嬢さんたちも行くところが同じなんだろう?」
ナインはアゲハたちを顎で指してユーリに向き直る。「それなら一緒に行くのか?」と言う彼に、ユーリは怪訝な顔を返した。
「一緒にって……こっからは歩いてくのか?」
「イヤ、ちげぇよ。逆だ。こいつらも乗せて飛んでくのかって聞いてるんだよ」
ナインは親指で空を指差す。それに驚いたのはアゲハたちで、「え?!」と声を上げた彼女にナインは「イヤか?」と聞いた。
「え、ええと……イヤではないと思うんですけどもぉ」
「四人増えるだけだろ? まぁ、もう一段階大きくなりゃ全員乗せられないこともねぇよ」
四人増えることが『だけ』と言い切れるナインに頼もしさを覚えつつ、ジュラードは「出来るならそれが楽だよな」と言う。ただしアゲハたちが問題なければ、だが。
「モロは置いていけば勝手に帰ると聞いたし、一緒に行くという選択肢もいいと思う。正直ここまで来るのはすごく怖かったが、でも楽は楽だったし」
ジュラードがそう正直に言うと、アゲハが「やっぱり怖いんだ!」と引きつった表情で声を上げる。ヒスとリーリエも少し遠慮したそうな顔をしていたが、一人カナリティアだけは「空を行くのもいいですね」と笑顔で言った。
「お前ら、どうする? 乗ってく?」
「私はユーリさんとご一緒したいですし、乗りたいです」
「え……本気か、カナリティア」
引き気味のヒスがカナリティアに問うと、彼女は微笑みながら顔で「えぇ」と頷いた。
「このモロとか言うモコモコした生き物も乗り心地良くて楽しいんですが、でも正直シャルルに乗ってるのとあまり変わらなくて」
「あぁ、あのお前の操る巨大うさぎ人形な」
カナリティアは新たな刺激が欲しいのか、「さすがのシャルルも空は飛べないので、どうせならあまり経験できない方を選びたいですよね」と頬を染めながら言った。意外とアグレッシブである。一方他の者たちはと言うと。
「う~ん、カナリティアさんがそう言うなら……私もユーリさんたちと一緒の方が良いと言えば、良いですし」
「わたしは……みなさんの意見に従います……高いところは、少しだけ怖いですが……皆さんと一緒ならがんばります……」
アゲハとリーリエがそれぞれそう発言すると、それを聞いたユーリは「じゃ、一緒に行くか」と言う。その彼の発言に、ヒスが即座にツッコんだ。
「おい、俺の意見は?!」
ヒスの訴えにユーリは面倒くさそうな顔をして「聞いてどうすんだよ」と言い放つ。
「お前の意見なんてこの中じゃ優先順位低いだろ……ってか最下位じゃん。聞いても仕方なくね?」
「ひ、ひどすぎないか……?」
ひどい意見だとは思うが、しかしこういう場面で自分の意見の優先度が低いことはヒス自身も自覚がある。というか、カナリティアが強すぎる。ユーリもだが、ヒスも基本的に彼女の意見には逆らえないのだ。
「わかった、それなら俺も反対しないさ。お前たちと一緒に行こう。ただし、安全第一にな!」
ヒスは諦めたように溜息と共にそう言うと、ユーリとナインに念を押すように「頼むぞ」と言う。ユーリは「俺に言われてもな」と頭を掻いた。
「オッサンが安全に飛行するよ、多分な」
「お前、今直前に空から落ちてきたことを忘れるなよ?!」
ヒスのもっともなツッコミに、ユーリは「あれは魔物の襲撃があったんだから仕方ないだろ~?」と返す。それを聞き、アゲハは「魔物に襲われるんですか?!」とまたちょっと怯えた顔をした。
「あー、アレは少しばかり運が悪かっただけだ。あんな魔物は滅多に遭遇しねぇ。俺も基本的には気を付けて飛んでるし、普通は問題ねぇよ」
アゲハを安心させるようにナインがそういうと、ラプラも「私も少々気を抜いていましたから、今後はしっかりと注意を払いましょう」と反省したように呟く。それを聞き、ジュラードは心から「頼むぞ」と言った。
「じゃ、まぁ~大丈夫らしいしさっさと乗ってローズたちんとこ行こうぜ~!」
大体の話がまとまり、ユーリは「俺はとにかく早くアーリィちゃんに会いたいんだ」と言ってナインを見る。
「オッサン、よろしく!」
「おう、まったく人にものを頼む態度じゃねぇけどな、それ」
一向に失礼な態度が改善しないユーリに苦い顔をしつつ、ナインは再び変身するために全員に「ちょっと離れてろ」と声をかけた。




