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神化論 after  作者: ユズリ
再会
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再会 2

「ええと、それで……イライザさんは一体どんなご用件でわたしのところに来たのでしょうか……?」

 

 温かなハーブティーをイライザの前に用意しながら、リーリエはそう彼女に問う。イライザは湯気の立つお茶を一口啜って心を落ち着かせ、テーブルを挟んで自分の向かいの席に腰を下ろしたリーリエをまっすぐ見据えた。

 

「えと、あの……わ、わたし……」

 

「あ、そうだ! 昨日作った焼き菓子がまだあったんだ……ちょっと待っててくださいね、持ってきますから……」

 

「え? あ、はい……」

 

 自分で話を聞いておきながら、しかし勝手にまた席を立ってどこかに行ってしまったリーリエに、イライザは呆気に取られたような顔をする。大真面目に占ってもらいに来たイライザなので、リーリエの若干マイペースな行動に『この人本当に大丈夫なのかな?』と、ちょっと心配になった。

 でもまぁ、お陰で緊張はほぐれたかもしれない。そう考えていると、リーリエがお盆を抱えながらまた部屋に戻ってきた。

 

「どうぞ、召し上がってください……お口に合うか、わからないですけど……」

 

「あ、ありがとうございます、じゃあいただきます」

 

 甘い香りが漂う焼き菓子を一つ頬張り、イライザは「あ、美味しいっ」と思わず呟く。それを聞いたリーリエは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「よかった……あ、どんどん食べてくださいね……多く作り過ぎちゃって困ってたんです……」

 

「は、はい……あの、でも私今日はあの……」

 

 なんだかこのままリーリエのペースで話が進むと、普通にお茶会で終わってしまうような気がして、イライザは不安そうな表情で「占ってもらいたいことがあって……」と告げる。そうして話を軌道修正させ、リーリエも「あぁ、そうですよね……」と頷いた。

 

「では改めてお話伺います……今占ってもらいたいことがあると仰りましたが、どのようなことを占って欲しいと……?」

 

 今度こそ本題を語れそうな雰囲気となり、イライザは「はい」と頷く。そうして彼女は語った。

 

「私、今アジアタの学院で機械についてを学んでいるんですけど、先日ボーダ大陸の機械技術研究してるところから『こっちにきて学ばないか?』って誘われて……そ、それで私迷っててここに来たんです!」

 

「迷ってる……ですか……」

 

「はい……」

 

 イライザの言葉を聞き、リーリエは「なるほど」と頷く。そうして彼女はイライザの話をさらに詳しく聞くため、彼女の言葉の続きに耳を傾けた。

 

 リーリエがこの場所で占い師として働くようになったのは一年ほど前からだ。

 二度目の『審判の日』から一度故郷に帰った彼女は、それから一年半ほどはそこで生活をしていた。

 未来予知や死の予言、遠視などいくつかの異能の力を持って生まれた彼女は、その異能の力ゆえにかつて故郷では実の両親も含めて畏怖の対象とされて迫害されていた。しかしヴァイゼスでの経験で自分のネガティブな思考を少しでも返す事が出来たと自信の持てた彼女は勇気を出して故郷に帰ったのだ。

 故郷に帰って直ぐにはやはり周囲に受け入れられなかった彼女だったが、自分の意見を相手に伝える勇気を得た彼女は、誤解されていた自分のことやその気持ちを伝えることで徐々に他の者たちと打ち解けられるようになる。そうして彼女は両親ともやがて和解し、逃げてばかりだった自分ともお別れする事が出来た彼女は、その後再び故郷を旅立ちここに来たのだった。

 過去にも占い師として生計を立てて暮らしていた経験があるリーリエだが、その当時は故郷から逃げたという事情があり、生きるためにやむを得ず自分の異能の力を使っていた。だが今の彼女は自分の力を他の人の為に役立てたいと、そうはっきりとした自身の意思があってここで占い師として働いている。『自分の力を誰かの役に立てたい』と、それはかけがえのない友人の影響が強いと、そうリーリエ自身思っていた。彼女は……いや、あの頃の”仲間”は皆元気にやってきるだろうか。

 

 

「……というわけなんです……私、ここを離れて他の大陸に行くってことがまず不安で……それで行ったとして上手くやってけるのかなって……」

 

「はぁ、なるほど……未来が不安、ということですね……?」

 

「は、はい……」

 

 イライザの話を聞き、リーリエは彼女がまた一口お茶を飲んだのを待ってからこう口を開いた。

 

「わかりました……では、あなたの未来を見る、ということでいいですか……?」

 

「あ、は、はい……」

 

 頷き、イライザは「でも、本当に未来を見るなんて出来るんですか?」と聞く。

 

「いえ、信じていないわけじゃないんですけど……そもそも信じてなかったら来ないわけだし……でも、その……」

 

「ふふ……わたしのところに来る人は皆大体そう言います……そうですね……わたしはその人の未来を見ると言うよりは、可能性の一つとしてある”その人のその先”を教えてもらっているんです……」

 

「教えてもらっている……?」

 

 『誰に?』とイライザが聞く前に、リーリエは微笑みながらこう彼女の疑問に答える。

 

「この”世界”に、です……」

 

「え……?」

 

 マナがこの世界そのものと言うのならが、そう答えるのが正しいだろうとリーリエは思っている。

 不可解そうに首を傾げたイライザに、リーリエは柔らかく微笑みながら「それでは早速準備を始めますね」と告げた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「おねーちゃーん、これゆーりがこっちにはこんでってみれいにゆったのー」

 

 店の工房で魔法薬の生産をしているアーリィの元に、ミレイが大きな箱を抱えてやって来る。アーリィは一旦作業の手を止めて、「あっちの奥の棚の前に置いて欲しい」とミレイに指示した。

 

「りょうかいですー」

 

 レイチェルとミレイがユーリたちの所に来て五日が経ち、二人はほぼ毎日こんな感じでユーリたちの店を手伝っている。ちなみに店の表をレイチェルが、裏方仕事をミレイが手伝っているが、舌足らずな幼女はあまり店の表に出ていないにも関わらず店の女性客に『なんか存在と行動が可愛い』と密かに人気だった。

 

「おねーちゃん、おいたー!」

 

「うん、ありがと」

 

 ミレイは荷物運びを完了させると、アーリィの傍に駆け寄って「なにつくってるの?」と聞く。アーリィは「今はお薬」と答えた。

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