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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 89

 ナインがそう説明するが、ジュラードは「本当だろうか」と疑う視線を向けた。しかしこの説明に対してはラプラが「そのようですね」と呟いたので、真実だろうとすぐに理解する。


「半分竜になるだけってのなら、封印は解かなくても大丈夫なの?」


 二度も彼とキスする羽目になるのは心底勘弁したいイリスが再確認するようそう聞くと、ナインは「あぁ」と頷いた。


「封印はあくまで俺の破壊衝動を封じているもんだからな。逆に、俺に本気で戦えって言うならまた封印を解かないとどうしようもねぇぞ。封印のせいで力とやる気が出ねぇからな」


「いや、お前封印解かなくても結構恐ろしいぞ……」


 封印された状態でも素手で魔物を仕留めるくらいは余裕のナインを目撃しているので、ジュラードは思わずそう呟く。それを聞き、ナインはなぜか楽しげに笑って「そうか?」と返した。


「そんじゃなんだ、オッサンに乗って行くってことでいいんか?」


 ユーリがそう話を纏めようとすると、イリスは「あまり良くない」と呟く。


「お前は乗るわけじゃねぇだろ」


「そうだけど……」


 イリスは顔色を悪くして「飛ぶのは無理……」と弱々しく訴えた。するとそれを疑問に思ったナインが口を開く。


「なんだよ、夢魔なら出来るだろ。あいつら羽あるぞ」


「その……私が高いところ苦手なんだよ」


 恥を忍んでそう正直にイリスが言うと、ナインは呆れた顔を見せた。


「高所恐怖症かぁ? そりゃ気の毒だが、病人のこと考えたら我慢してくれや」


「……わかった」


 確かに空を移動すれば早いし、ナインが運ぶならジュラードにとって負担は少ないだろう。自分が少し……いや、かなりの我慢と努力をすれば最善の策ということは間違いないので、イリスは仕方ないといった顔で頷いた。


「先生、高いところ苦手だったんですね……なんだかすみません」


「いや、ジュラードが謝ることじゃ……いいの、ジュラードが一番大事だもん。むしろ情けない先生でごめんね……こんなだからユエに男らしく頼ってもらえないんだよね、きっと」


 申し訳なさそうに項垂れるイリスに、ジュラードは「そんなことは」と首を横に振った。


「それにしても……飛べるかな……う~」


「大丈夫ですよ、イリス! あなたは私が運びましょう!」


「……」


 ラプラがキラキラした眼差しで自分を見てくるので、イリスは力ない笑顔で「ありがとう」とだけ言った。




 転送先とその後について話がまとまり、全員の再出発の準備が整うと早速ナインは転送の準備を始める。

 ジュラードが大雑把そうな見た目に反して丁寧に魔法陣を描いていくナインを眺めていると、見送りのためにやってきたユエが彼に声をかけた。


「ジュラード、本当に大丈夫かい?」


「えぇ、大丈夫……です」


 ユエは禍憑きになったジュラードが心配で仕方ないという様子で、「何かあったらイリスにすぐに言いな」と念を押す。


「はい」


「……ちゃんと周りを頼るんだよ、ジュラード」


 本当の母のような眼差しでそう優しく諭すユエに、ジュラードは小さく笑ってもう一度「はい」と頷いた。


「ん、素直でよろしい」


 ポンポンと優しくジュラードの頭を撫で、ユエはほんの少し心配が解消されたようで、こちらも微笑みを見せた。


「ところで先生、俺の禍憑きのことはみんなには……」


「わかってるよ、今は言わないさ。もちろんリリンにもね」


 声を潜めて確認するジュラードに、ユエもまた小さく囁く。近くてはジュラードたちを見送るため、ギースたちがいたからだ。


「お姉ちゃん先生、また行っちゃうの~? 寂しい~」


「ケガしないように、気を付けていけよな!」


「お土産よろしくね~」


「はーい、いい子にしてたら全員にとっても素敵なお土産買ってくるからね。ちゃんとユエの言うこと聞いて、仲良くみんなで協力してね~」


 笑顔のイリスと、彼を囲む最年少三人組を横目で見つつ、ジュラードは「お願いします」と言った。


「あぁ。でも薬であんたの病が治らなかったら、エリたちには話すよ。あとは、リリンにも……」


「……はい」


 もしもローズたちの薬で治らなかったら……その時はリリンを治すこともできないということだ。考えたくはないが、そうなった時に自分が妹のためにできることは何もない。


「その時は、いいね」


「はい。でも大丈夫です、ローズたちを信じてますから。絶対に大丈夫だって」


 まっすぐ自分を見つめてそう返したジュラードにユエは少し驚き、そして微笑んだ。


「いい顔するようになったね、ジュラード」


「え? なんですか、急に」


 キョトンと目を丸くするジュラードに、ユエはただ嬉しそうな笑みを返すだけだった。


「おい、準備できたぞ」


 魔法陣を描き終えたナインが立ち上がってそう声をかける。ジュラードは「わかった」と頷いた。





 転送はいつも一瞬だ。光に包まれたかと思えば、気づけば先ほどいた場所とは全く異なるところに自分は立っている。


「着いたぞ、目の前のアレがオアシスの都市だ」


 ナインの声が聞こえて、転送時に目をつぶっていたジュラードは目を開ける。肌にまとわりつく熱は紛れもなく厄介な砂漠の気候で、ジュラードは急に今まで以上に体が重くなるのを感じた。


「相変わらず地獄みてぇにあつい~」


「きゅうぅ~」


 ユーリとうさきの暑さ苦手組がそれぞれに不満を口にすると、ナインは「砂漠だからな」と答える。そうして彼は素早く肌を守るための外套を身にまとった。


「んで、今回あのオアシスはスルーしてこのままクノーへ行くってことでいいんだよな?」


 砂漠の蜃気楼の中に浮かぶ都市を指差してナインが問うと、イリスは「うん」と頷く。


「飛んでいくならクノーへも半日もかからないし、さっさと先に進むほうがジュラードの負担にはならないよ」


 イリスはそう答え、こちらも砂漠を超えるために外套を着こみながら「水も、クノーへ行く分には十分な量を持ってきてるから」とラプラの背負う荷物を指差した。


「それじゃオッサン、さっさとすげードラゴンに変身してくれよ! 俺は早急に嫁に会いに行きてぇから!」


「お前、いい加減に年上に対する態度ってもんを……」


 失礼なユーリに呆れるナインへとジュラードが改めて「よろしく頼む」と言うと、ナインは「まぁいいか」と頭を掻いた。

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