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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 88



 一晩休んでも体調は変わらず優れない状態であったが、ジュラードはローズたちの元へ向かうための出発の準備を行う。

 ナインの話ではクノーに直接転送することは難しいので、それに一番近い都市が転送先の候補となった。



「でもよー、近いって言っても砂漠超えは必要だぜ?」


 地図で示す転送先とクノーの位置関係を見て、ユーリが顔を顰める。イリスも「そうだね」と表情を曇らせた。


「さすがに今のジュラードに砂漠超えは無理だと思う」


 イリスはそう言いながら、傍で座っているジュラードを見遣る。現状はまったく動けないということもなく、ジュラードも多少は無理して移動する覚悟ではある。だがさすがに昼は暑く夜は冷える砂漠の移動は、ジュラード本人も自信が無かった。


「そう、ですね……俺もちょっと自信がないです」


 そう素直に答えるジュラードに、イリスは笑って「うん、大丈夫」と告げる。


「絶対そんな無茶はさせないよ。ジュラードの体調第一で考える」


「じゃーどうするんだ?」


顎を手に乗せながらユーリが問うと、イリスは少し考えて「モロでも借りようか」と言った。


「モロ~? あのモコモコした生き物かぁ?」


 アーリィがやたら気に入っていた砂漠の生き物を思い出し、ユーリは「まぁ、歩くよりはましだろうけどよぉ」と顔を顰める。


「でもやっぱ時間かかるだろー。そんな移動速度は速くねぇし、アレ」


「それはわかってるけど、他に砂漠を超える楽な方法なんて思いつかないよ」


 モロで移動したとしても、クノーまでの距離を地図で確認すると一晩はかかるかもしれない。気温が急激に下がる夜の砂漠は、出来ればジュラードには避けたいと皆が思う。だがモロでの移動以外に案が思い付かないのも事実。


「歩かないで済むだけで十分なので、モロで移動でいいです先生……」


 ジュラードが気を使って笑みながらそう言うと、イリスも申し訳なさそうな顔で「うん……」と頷いた。するとナインが突如何か思いついたように「いや、もっと楽に砂漠越え出来なくもねぇ」と発言する。その言葉に、その場の全員の視線がナインに向けられた。


「え、楽にって?」


「オッサン、何か名案思いついたか?」


 イリス、ユーリに問われて、ナインは「あぁ」と顎髭を撫でつつ頷く。そうしてこんな提案をした。


「砂漠を超える一番早くて楽な移動は空を飛んでいくことだ」


「はぁ?」


 『はぁ?』と言って首を傾げたのはユーリだが、イリスもジュラードも似たような反応の表情でナインを見る。ただ一人ラプラだけは理解したようで、「飛ぶってことですね」と小さく言った。


「え、飛ぶって……ラプラ、それって……」


「我々魔族にはおおよそ羽がありますからね。飛行での移動も普通ではあります」


 何か嫌そうな顔をしているイリスにラプラは微笑んで説明する。それを聞き、確かにゲシュであるアーリィも飛べなくもなかったなと、ユーリもそれを思い出した。


「大体は飛行できる乗り物で移動しますけど、多少の距離なら自分で飛んで移動することもあります」


「いやいや、それ出来るのはお前らだけだろ。俺もジュラードも飛べねぇよ」


 ユーリはそう否定してから、「あ、もしかしてジュラードって飛べるん?」と確認する。しかしジュラードはブンブンと強く首を横に振った。


「だよな。いや、ゲシュでも飛べるから一応確認しただけなんだけど」


「俺は少なくとも自分が飛べると思ったことはない」


 ちょっと体が丈夫で体力があること以外に、自分はゲシュとしてヒューマンより優れていると思える点はないとジュラードは思う。そのわりには髪と目の色がヒューマン離れしているせいで、ゲシュだとバレて辛い目に合うことはしょっちゅうだったが。


「そうか、ゲシュって飛んだりもできるのか……ゲシュって……」


「いや、全員がそうじゃねぇと思うけどな? 魔族も羽あったりなかったりするって、今ラプラも言ってたしよ」


 何か落ち込んでいる様子のジュラードに気づき、ユーリは一応フォローする言葉を向けた。


「飛ぶって、今ユーリが言った通りだよ。私たちは飛べないよ」


「いや、あんたは飛べるだろ。夢魔なんだから」


 ユーリに続いてイリスが訴えると、ナインはそれを即座に否定する。彼の返答を一瞬疑問に思ったジュラードとユーリだが、確かにイリスが魔物化して暴走していた時、彼は普通に飛んでいたことを思い出した。そしてイリスもそのことは気づいていたらしく、気まずい顔で沈黙する。彼の場合は高所が苦手という弱点があるので飛ぶ気はなく、むしろ飛べることは隠しておきたかったようだった。


「なぁ、そうだろ?」


「……仮に私が飛べたとして、ユーリとジュラードはどうするの?」


 そうイリスが改めて問うと、ナインは「それは俺が運んでやる」と答える。それを聞き、ユーリが嫌そうな顔をした。


「えぇ~、なんか俺、昔にもそういう経験した気がするんだけど」


 嫌そうに訴えるユーリにジュラードが「そうなのか?」と聞くと、ユーリは「あぁ」と頷く。


「なんか荷物みたいに扱われて……正直アレ嫌なんスけど」


「っていうかジュラードとユーリ、二人抱えてなんて飛べるの?」


 ナインの体格は竜の融合種であるエンセプトらしく逞しいものだが、しかしそれでもジュラードとユーリという大の男二人を抱えて飛べるほどとはさすがに思えない。イリスのその疑問に対して、ナインは「竜形態になれば余裕だ」と答えた。それを聞き、ジュラードたちの表情が強張る。


「ちょっと待てナイン、お前まさかまたあの暴走竜になる気か?!」


「勘弁してくれよオッサン、あの状態になったら俺らを運ぶどころか食うだろ、絶対!」


「私もキスされるのは二度とイヤなんだけど!」


「したら今度こそ本当に即刻殺しますよ?!」


「きゅうぅ~!」


 うさこまで非難してくるので、ナインは思わず「お前ら、そんなに俺の本気モードがトラウマになったのかよ」とぼやいた。


「当然だ! あんな姿見たら誰でもトラウマになるだろ」


 ジュラードの強い訴えにナインは苦笑し、「大丈夫だ、飛ぶだけなら本気は出さねぇよ」と返事する。


「俺のような竜になれるエンセプトの変身には段階ってもんがある。ちょっとずつ人から竜へと変身出来るんだよ。昨日のアレは本気を出すための最終手段でほぼ竜だったが、俺の場合は滅多にはあの姿にはならねぇ。飛ぶだけなら半分竜になるだけで十分だからな」

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