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神化論 after  作者: ユズリ
再会
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再会 1

 アサド大陸はその多くが砂漠地帯の、ひどく乾燥した大陸だ。

 熱く燃える太陽が砂漠の砂に熱を注ぎ、雨が滅多に降らない乾燥した暑さの中では、多くの植物は育つ事が出来ない。その為に大陸のごく一部でしか緑は見られず、人々にとってこの大陸のイメージは乾燥した砂の色だ。しかしこんな環境の土地でも人は多く住み、彼らは皆日々を逞しく生きていた。

 

 この大陸には、旧世界時代から不思議な力を持つ者が多く存在していた。他の大陸よりも過酷な環境は、一説にはマナの流れの歪みがあるとされている。しかし詳細はわからぬままに世界はマナを多く失った為に、今も詳しい事はわかっていない。

 一つはっきりしていることは、この大陸では旧時代は力のある魔術師が多く生まれ、他にも魔法とは違う形でマナと接することの出来る者たちが存在しているという事である。それは千年ほど前の『審判の日』以降にも同じで、アサド大陸にはマナの声を聞いたりその力を魔法ではない形で借りる事の出来る”シャーマン”と呼ばれる者たちが現代にも存在していた。これらの存在がこの大陸で多く産まれることは、この大陸のマナの歪みが関係していると言われているが、しかし詳細はやはり未だ不明である。


 現在、はっきりとマナを感知出来るシャーマンは、やはり『審判の日』を境に少なくなり、現代では彼らの力も多くが衰えてしまっている。そんな中、彼女は異能と恐れられる程に強いシャーマンとしての素質を持って現代に生まれた一人だった。

 

 

 

 アサド大陸の大国の一つマーラーン、その首都イグゼリアの商業区域内にある、とある路地裏の一角の店に彼女はいた。

 雑多な人々が行きかう表通りよりも静かな路地裏に店を構えるそこは、イグゼリアで密かに話題となっている占いの店だった。

 

 

「あ、あの……」

 

 見た目は落ち着いた喫茶店のような雰囲気の店の戸をくぐり、今日も一人の女性客がやって来る。彼女はだいぶ緊張した様子で、薄暗い店内に声をかけた。すると直ぐに店の奥から年老いた女性が出てくる。

 

「いらっしゃい」

 

「あ、は、はい……あの、私……」

 

 何か落ち着くようなそうでないような複雑な香の香りが漂う店内は、怪しい水晶のようなものや壷や宝石の付いた派手な装飾類、あるいは用途不明な品物が至るところに置かれていかにもな雰囲気だ。

 そして女性の前に姿を現した老女も、白髪交じりの髪と皺の刻まれた顔を頭から灰色の頭巾ですっぽり覆い隠し、雰囲気をよりいっそう怪しくさせている。そうやって表情を隠している為に、唯一女性から彼女の表情が読み取れるのは口元のみだった。その口元も怪しく笑んでいて、何か不気味な雰囲気を感じさせる。

 

「あの、ですね……」

 

 女性は店と老女の雰囲気に圧倒されそうになりながらも、勇気を出して自分がここに来た理由を語った。

 

「ここ、ここにその、すごくよく当たる占い師さんがいると聞いて……! 私、占ってもらいことがあって……そ、それで!」

 

 女性は顔の見えない老女をまっすぐ見据え、「あなたがその占い師さんですか?!」と聞く。すると老女は喉の奥で小さく笑いながら、首を横に振った。

 

「いいや、わたしじゃないよ。お前さんの望む存在はこの奥さ」

 

「え……」

 

 老女は戸惑う女性に、「ついて来な」と声をかける。そうして彼女はまた店の奥へと入っていった。

 

「あ、あの……っ!」

 

 困惑した女性は、しかしここまで勇気を出して来たのだからと、覚悟を決めて老女の後をついていくことにする。彼女は店の奥へと続く、仕切りの布のかけられた出入り口をくぐった。

 

 

 

「リーリエ、客だよ」

 

 店の奥に入った老女がそう声をかけながら、薄暗い部屋の中へと入る。女性はますます緊張しながら、老女の後に続いて部屋へと足を踏み入れた。

 

「お、お客さんですか……?」

 

 老女の呼びかけを聞いて、女性の声が返事をする。

 薄暗い部屋には見たことの無い植物が見たことの無い置物のような何かと共にぎっしりと置かれ、その薄暗さと相俟って異様な雰囲気が増していた。こんなところにいるって一体どんな人が占い師なのだろうと、そう女性は固唾を飲む。声の感じは普通だけど、変人だったらどうしようと不安の中で彼女は占い師の女性を見た。

 すると緊張する女性の前に、拍子抜けするほど普通の女性が頭を何度も下げながらやって来る。灰色の瞳は若干気弱な印象を与えるたれ目で、その瞳を中心に少し幼い印象を表情から受ける彼女は、身なりは灰色の上着と紺色のロングスカートという普通な格好で怪しい雰囲気は一切無かった。

 しかし彼女が手に持っていたものは全くもって普通では無く、女性はそれを見て思わず小さく悲鳴を上げた。

 

「ひっ!」

 

「あぁ! す、すみません! はわわ、今あの、お花を整理してて……! いえ、このお花は見た目はちょっと怖いですけど、でもとっても貴重で珍しいお花なんですよ! こ、怖がらないでも大丈夫なんです……!」

 

 リーリエは怯える客の女性に、今自分が抱え持つ植木鉢に入った花をよく見せようとする。それは思わず女性が怯えて悲鳴を上げちゃうほど、見た目はグロテスクで怖い植物だった。

 

「で、でもそれ……」

 

 怯えながら女性が指差す先には、赤と紫と黄色という毒々しい原色が斑に混ざり合った色の花が堂々と咲く。しかも不気味な色合いの花びらは人の手のひらほどもあり、気味悪い色の上にその花は圧倒的な存在感を放つほどの大きさだった。さらに花びらが囲う中心では、何か細長く赤い蔓のようなものが暗い穴のような空洞に収まって、時々まるで生きているかのように動いている。極めつけはその蔓が収納された暗い空洞が、やはり時々青白い色に発光するのが未知の不安を感じさせた。

 何か生々しく生きているような植物に、女性は嫌悪感を感じながら「ホントに花ですか?」と問う。

 

「なにかあの、魔物とかじゃなくて……?」

 

「魔物ではないですよ……と、思います……はい……正直わたしもよくわからない植物で……最近見つかったとかで、とても珍しいので購入したんですよ……」

 

 リーリエの若干不安になる返答を聞いて、女性は全く信じられずに『やはり魔物では?』と考える。そしてよくよく見ればこの部屋中の見たことの無い植物が大体こんな感じの怪しい植物ばかりだという事に気づき、またちょっと悲鳴を上げそうになった。

 

「あ、ここは落ち着きませんよね……ここはわたしの趣味の……あ、いえ……じゃああの、この隣の部屋にどうぞ。そこでお話を聞きます……」

 

 女性の顔色から色々察したリーリエは、苦笑しながらそう言ってまた女性を別の部屋に案内しようとする。女性をここまで案内した老女は、「それじゃあ私はこれで。あとはリーリエに任せるよ」と言って背を向けて一人どこかに消えていった。

 

「えっと、わたしに用ってことは何か知りたい未来の事とかそういうのがあるわけでしょうけども……あ、何さん?」

 

「え? あ、イライザです……」

 

「イライザさんですね……隣の部屋へどうぞ、ついて来てください……」

 

「は、はい……!」

 

 背を向けたリーリエの後姿に、イライザはまた緊張を思い出す。力強く返事をしながら、彼女はリーリエの後に続いた。


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