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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 84

 いつもの彼女らしくない気落ちした様子でそう返事をするユエは、ジュラードのことがよほどショックなのだろう。ジュラード自身も彼女のそんな姿を見ると、やはりつらい気持ちとなった。


「それで、この後はどうすんだい」


 ユエにそう問われて、無意識に俯いていたジュラードははっとしたように顔を上げる。そして彼は「ローズたちのところに行きます」と、考えていたことを口にした。


「ここにいても病状が悪化するだけだと思うし、それなら薬を作っているローズたちの元へ行った方がいいかと思って」


「そうか……まぁ、確かにそうだね」


 歪んだ土地のマナが原因で患う”禍憑き”という病だ。本来ならジュラードはこの場にいるべきではなかっただろう。それを反省してももう遅いので、せめてここから遠ざかるという選択にユエは反対しなかった。


「けどよー、ジュラード。お前移動できるんか?」


 ジュラードの体調を気にしてユーリがそう問うと、ジュラードは「頑張る」とだけ返す。正直はっきり『大丈夫』とは言い切れない体調だが、多少無理してでもローズたちの元へ向かった方が良くなる可能性もあるのだから、とにかく頑張ろうとジュラードは思った。


「まぁ、俺が転送してやるから大丈夫じゃねぇか? 長距離を移動することはねぇだろ」


「本当に助かる、ナイン」


 ジュラードの礼に続けて、ユーリも「オッサン良いヤツだな!」と急にナインを持ち上げ始める。しかしナインは苦い顔で「そう思ってるならオッサンじゃなくナインさんって言えよ」と、もっともな言葉を返した。

 そんな会話をしていると、イリスがお茶をもって戻ってくる。ユエは彼から温かいお茶を受け取りながら、「そうだ、イリスは付いていってあげてくれ」と声をかけた。


「なに?」


 不思議そうに首を傾げるイリスに、ユエが説明をする。


「ジュラードがローズさんたちのところに行くって話だ。病人を行かせるのは心配だからさ」


 ユエは小さくため息を吐き、「本当はあたしがついていきたいくらいなんだけどね」と呟く。


「でもあたしはローズさんたちのいる場所をよく知らないし、あんたにはせっかく帰ってきてもらって早々に悪いんだけども……」


 そう申し訳なさそうに告げるユエに、イリスは「ううん、もちろんだよ!」と力強く返事した。しかしそんな返事をした直後、こちらもこちらでユエと同じ態度となる。


「ジュラードを一人にさせる気はないよ。でも、またしばらくユエ一人になっちゃって、そっちもそっちで私は心配だけど……」


「お互い心配ばかりだね……まぁ、大丈夫。あたしは平気さ。子どもたちも協力してくれてるし」


 ユエが小さく笑うと、イリスは「本当に?」と眉を顰める。そんな彼に「本当だよ」と言ってユエは大きな手で優しく撫でた。


「もー、また子どもたちと同じ扱いー」


「子どもたちと同じくらいにあんたもかわいいからね」


 不満げな顔をしてユエを見るイリスだが、彼女から触れてもらうのは満更でもないのが頬を染める彼の態度でよくわかる。ちょっと照れているイリスを顎で指しながら、ナインはラプラに聞いた。


「おいおいあんた、あそこで堂々とイチャついているのはいいのか?」


 イリスと共に戻ってきたラプラは、ナインに声をかけられたことに不愉快そうな顔をしつつも、「えぇ」と返す。


「イリスにはユエさんが必要ですからね」


「なんだそりゃ」


 どこか寂しげな表情を一瞬見せながら答えたラプラにナインは首を傾げるが、ラプラはすぐにその感情を消してナインを睨んだ。


「あなたには関係の無いことです」


 そう冷たく言い放ったラプラは、さらに凍った視線をナインに向けて「とりあえずあなたはあとで確実に殺しますよ」と物騒な宣言した。


「おぉ怖ぇ」


 ラプラの殺気に肩を竦めつつもあまり動じた様子もなく、ナインは苦笑しながらお茶を啜った。


「なージュラード、ローズんとこ行くって明日とかか?」


 ユーリが問うと、ジュラードは「早い方がいいし、そのつもりだ」と返す。その返事を聞き、ユーリは「とーぜん俺も行くぜ」と言った。


「あぁ」


「早くアーリィに会いたいしー。あぁー会いたいっ! 抱きしめたいー!」


 ジュラードも、当然ユーリも一緒に行くと考えていた。しかしラプラはどうなのだろうと、ジュラードは彼に視線を向ける。しかしラプラは特に何も答えず、疲れていたジュラードもあえて彼に問おうとはしなかった。


「じゃあ予定も決まったのなら、今日はもう休みな。とくにジュラード、あんたはさっさと寝た方がいい」


 ユエのその言葉にジュラードは素直に頷く。一応寝る前に体は洗いたいとは思うが、しかし思った以上に”禍憑き”に犯された体の調子が悪い。常に体が重いし、時々ひどい頭痛がして起きているのも億劫になる。妹はこんな状態を長く強いられていたのかと考えると、一刻も早く彼女を救いたいと強く思い、ジュラードは早急にリリンを助けると決意を改めた。


「体を洗ったらすぐに寝ます……」


 やっとなんとか食べ終えた食事の皿をイリスに預け、ジュラードは立ち上がる。彼はユーリに「うさこ、今日は預けていいか?」と聞き、ユーリが頷くとうさこを彼の頭の上に乗せた。


「いや、なんで頭にのせる」


「そこが定位置だから」


「きゅうぅ~」


 顔色悪いジュラードを見ていると退けるのも気が引けるのか、ユーリは「まぁいいけど」と頭の上で鳴くうさこを受け入れた。そうして彼はフラフラとした足取りで自室へと向かう。そんなジュラードの後ろ姿を、その場の全員が心配そうに見送った。


「……本当に大丈夫か、あいつ」


 ユーリの呟きにイリスが「大丈夫には見えないね」と不安げな表情で返事する。うさこも飼い主を心配して「きゅうぅ~」とか細く鳴いた。





◆◇◆◇◆◇

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