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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 81

「それで……遺言は以上ですか?」


 背後で聞こえた静かなその声に、ジュラードはびくっと肩を震わせる。それは自分に向けられた言葉ではないとわかっているのに、先ほどから感じる恐ろしい殺気も相まって必要以上に体が恐怖におびえてしまう。


「ら、ラプラ……」


 ジュラードが恐る恐る背後を振り返ると、まったく笑ってない目をしながらラプラがロッドを持って暗く微笑んでいた。


「以上なら、もう死んでもらいますが」


「わああぁあぁラプラ、落ち着いてくれっ! ナインも悪気があったわけでは……!」


 予想していた通りの展開ではあるが、やっと落ち着いたのにまた場が混乱してはたまらないとジュラードは必死にラプラを制止する。


「私は落ち着いてますけど?」


「冷静に殺気を出さないでくれ!」


 ナインを殺す気満々のラプラの後ろでは、なぜか項垂れつつも彼を止める気配がないイリスが見える。ジュラードは「っていうか先生も止めてください!」と彼に助けを求めた。しかし顔を上げたイリスは虚ろな顔で首を横に振る。


「ごめんなさい、私には止められない……」


「な、なんで?!」


 顔色悪く首を横に振るイリスに、ラプラが「えぇ、イリスはそこでおとなしくしててくださいね」と怖い笑顔で圧をかけつつ言った。


「この件に関しては口出しせずに私に任せていただくのが私からの『お願い』ですので。……ねぇ、レイリス」


「ハイ……」


 何か怯えてるイリスの様子に、ユーリは「お前、あいつになんか弱みでも握られてるのか?」と問う。イリスは曖昧に「まぁ……」と返事した。


「その、本気出せばアーリィがあんたには逆らえないのと同じで……」


「はぁ?」


 まったくわからないという顔をするユーリに、イリスは「とにかく死人が出ないようあんたたちでなんとかして」と投げやりに言った。

 

「えー、めんどくせぇなー。じゃあ好きにさせるか。ラプラもおっさんも、俺はどっちがどうなろうとマジでどーでもいいし! よーし存分にやりあえー!」


「どうでもよくないだろ!」


 イリスがなぜか頼れず、ユーリは全く頼りにならないことを堂々と言い放ち、ジュラードは急にひどい疲れを感じた。


「きゅううぅ~」


「うぅ、俺がなんとかしないと……」


 うさこも応援(?)しているのでどうにかして惨劇を回避しないといけないが、なんだか急激にすごく疲れる。一時間もナインから逃げ回ったからだろうか。


「おい、お前顔色悪いぞ?」


 ふいにナインにそう声をかけられ、ジュラードは「当然だろ」と不機嫌そうに返した。


「あんたとラプラをどうしたら止められるか考えたら具合も悪くなるだろ……なんか頭まで痛いし」


「いや、俺は別に争う気はねぇからそんな深刻に考えなくても……」


「あんたに気はなくてもラプラがやる気満々だろっ」


「つーか本当に大丈夫か? お前……」


 眉間にしわを寄せたナインの心配する顔に視線を向けると、急に目の前がぐにゃりと歪む。


「っ……」


 突然立っていられなくなり、ジュラードはその場に膝をつく。ジュラードが自分に何が起きているのか理解するより先に、イリスが「ジュラード!」と心配そうに駆け寄った。


「ぅ……せん、せ……」


「ジュラード、しっかりっ!」


 イリスに支えられ、ジュラードはなんとか体を起こす。だが体にうまく力が入らない。やはり自分は疲れているのだろうかと、ジュラードは思った。


「大丈夫です、先生……疲れてるみたいで、ちょっとめまいが……」


 そうイリスに答えたジュラードだが、イリスが不安を滲ませた表情で自分を見つめていることに気づく。彼を安心させようとジュラードがもう一度『大丈夫』と言いかけた時、それより先にイリスが口を開いた。


「違うよジュラード、あなた疲れているんじゃない……待って、これを見て……」


「え……?」


 イリスはジュラードを支えたまま自身の懐を探り、小さな鏡を取り出す。そしてそれをジュラードに向けて、ジュラードは驚愕に大きく目を見開いた。


「これは……っ」


 鏡の中に移った自身の首筋に、見たことのある紋様が浮かび上がっている。それは紛れもない”禍憑き”の呪われた証だった。


「禍憑き……」


 自分の身に起こった出来事が信じられず、ジュラードは唖然としたまま鏡を凝視する。一方でこれは予測できたことでもあるのだと、冷静に思う自分もいた。”禍憑き”がゲシュを蝕む病であるのなら、妹同様に自分も発病する可能性はあったのだから。


「クソッ……!」


 前髪をくしゃりと握り、ジュラードは頭を抱える。そんな彼をイリスは心配そうに見つめながら、「大丈夫」と優しく声をかけた。


「”禍憑き”を治す薬はマヤたちが調合しているはずだし……治らない病気ではなくなったのだから、そこは心配しないで、ジュラード」


「え、えぇ……」


 ジュラードもそれはわかっているので、彼は小さく顔を上げてイリスに頷く。イリスはジュラードのその返事に安心したのか、心配した表情のままだが微笑んだ。


「でも具合悪いよね……無理はしないでね」


 かつては同じ病に苦しんだイリスなので、彼の体調を理解して気遣う。そうして頷いて立ち上がろうとするジュラードを支えた。


「おい、マジかよ……お前もついに禍憑きに……」


 ユーリも心配する眼差しを向けてくるので、イリスに支えられたまま立つジュラードはつい「平気だ」と返す。本当は体にうまく力が入らないが、しかし皆に心配をかけたくないという思いでつい強がってしまう。


「本当かー?」


「あぁ。それよりも……ひとまず魔物の退治は終わったし、もう孤児院に戻ろう」

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