浄化 80
「お主の場合は肉体を再構築して別のものに変えているからな。マナの再構築とマヤは言っていたが、そんなことが出来る存在なぞあやつ以外にいるのか」
「そうよね……すべての根源であるマナを再構築するだなんて、まるで錬金術」
二人の話はつまりやっぱり打つ手が無いんじゃないかという話で、ローズは「不安になるようなことを言わないでくれ」と嫌そうな顔をする。慌ててウネは「そうね、ごめんなさい」と反省したように謝罪した。
「しかし錬金術か……それはいいヒントになるかもしれん」
ウネの何気ない呟きでひらめくことがあったらしく、フォカロルは「錬金術関連の本を探してみてくれ」とローズに指示する。ローズは「わかった」と頷いてフォカロルを抱えて立ち上がった。同時にウネも立ち上がり、彼女も二人についていく。
「ところでフォカロル、私は錬金術について詳しくないんだが……」
「あぁ、そうなのか。そうだな、それも旧時代の知識か……」
書庫を移動しながらのローズの疑問に対して、フォカロルは錬金術と呼ばれる技術が旧時代にあったことを簡単に説明する。
「錬金術とは簡単に言えば物質を変化させる術だ。価値の低いありふれた金属を高価で価値ある金に変化させることも可能であることから、その名になったのだろう。呪術……魔術とは異なるが、奇跡のような術なので同一視されることもある。……と、今こう説明しているが我も詳しいわけではない。言った通り魔術ではないからな。錬金術は化学と言われておる」
「そういうのはエルミラとかが詳しそうよね」
フォカロルの説明を聞いて後ろを歩くウネが言葉を挟むと、ローズも「確かに」と頷く。しかしあいにく彼とは別行動となってしまった。機会があればまた彼に話を聞いてみようとローズは考える。
「化学に詳しい者がいるのか」
「イメージでだけども……知り合いが詳しそうだなって。それよりフォカロル、話を続けてくれ」
「あぁ」
促されて頷くフォカロルだが、「錬金術についてはこれ以上話せることはないな」と苦笑と共に告げる。
「とにかく錬金術とは金ではない金属を金に変えたりする不思議な術だ。有名な錬金術ともなると、肉体を錬成してホムンクルスを……」
ふいにフォカロルははっとした表情で口ごもり、「いや、何でもない」と不自然に言葉を切る。ローズは思わず首を傾げたが、フォカロルは「本は魔術書と同じあたりにあるだろう」と誤魔化す言葉を続けた。
肉体の錬成といえばマヤがアーリィの肉体を錬成してアンゲリクスを生み出している。あれも錬金術の分野だ。ウィッチはマナの再構築を自分の能力のみで可能としていたが、マヤも近いことを旧時代の知識で行えたということだろうか。
マヤにとってアーリィの製造はあまり詳しくは語りたくないものであることはフォカロルも察しているので詳しくは聞いていないが、ある意味でやはりローズが元に戻る手がかりは錬金術が鍵になるのではないかと、フォカロルは思った。
「ここで調べたことは我があとでマヤにも伝えて相談しておこう。お主よりも説明できるであろうしな」
「あぁ、わざわざすまない、フォカロル。そうしてもらえると助かる」
申し訳なさそうに告げるローズに、フォカロルは小さく笑い「かまわない」と返す。
「我とてお主には早く元に戻ってほしいからな。……我は、アリアの亡霊を見るのはもうたくさんだ」
フォカロルにとってアリアという存在はやはり特別なものらしい。小さく呟かれた彼の言葉に込められた想いに気づき、ローズはどう返事をしたらいいのか迷うように沈黙した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー……久々に暴れちまったぜ」
焼け焦げた大地の上に腰を下ろし、頭を掻きながらナインはそう独り言のように呟く。それを聞き、隣であきれ顔で立つユーリが「だろうな」と言った。
「こんな危険人物が毎度結構な頻度で暴れてたら確実に事件になるぞ」
日が落ちた空の下、薄暗い中に見える周囲は木々がなぎ倒されて大地は抉れ焦げている。まるでドラゴンでも暴れたかのような有様に……いや、実際ドラゴンが大暴れした跡なのだが、とにかくそのひどい有様を見て、ジュラードはちょっと頭を抱えた。
「なんかこの辺の地形が変わった気がする……いいのか? こんなにここって平地だったっけ……」
「いいじゃねぇか、平らな方が使いやすいだろ。なんかこのへんに家とか建てて村でも作れよ」
ナインのやけくそな言葉を聞いて、ジュラードは「作らない」と真顔で否定する。そうして彼は深くため息を吐いた。
「それにしても、元に戻ってくれて本当に安心したよ」
先ほどまでの異形のドラゴンの姿から、今は普通の人間の姿に戻っているナインを見て、ジュラードは疲労しながらそう心からの安堵を告げる。そんな疲れている彼の姿を見て、ナインは「悪かったな」と笑いながら謝罪した。
封印を解いて竜になったナインがどうしたら元に戻れるか問題については、どうやら暴れるだけ暴れたら勝手に元に戻るが答えだったらしい。ナインはドラゴン化して暴れまわり肉団子を駆逐し、肉団子がいなくなった後さらに周囲を一時間ほど破壊してから元の人の姿に戻った。そして現在……と、いうわけである。
肉団子を倒した後は無差別に周囲を破壊しだしたナインに、ジュラードたちはただただ巻き込まれないように逃げるしかなく、彼が人に戻った時はジュラードは本当に安堵したし、とにかく物凄く疲れた。
「もう二度と封印を解かないでくれ」
ジュラードの心からの言葉に、ナインは苦笑したまま「そうだな」と答える。
「俺だって好きでこんな暴れてるわけじゃねぇしな。ああなってる時は理性がなくなっちまうんだよ。だから仕方ないっつーか……つか、今回はお前らの頼みだったからってこと忘れんなよ?」
「そのことは反省している。こんなになるとわかってたら、頼まなかったかもしれない」
「はははっ」
自分がしたことに対して笑うしかないのか、暢気に笑うナインの反応にジュラードはまた溜息を吐いた。




