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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 74

「ラプラ、出来るだけ大きいの狙って倒してっ! 小さいのは私とユーリで相手するからっ!」


 そう叫びユーリの背中を追うように駆け出したイリスに、ラプラは一瞬何かを言いかけつつも「わかりました」と返事を返す。その眼差しは心配そうにイリスを見つめていたが、彼はひとまず後方で指示された通り大物を仕留めるための呪術の準備へと入った。


「ってわけでユーリ、聞いてたよね?!」


「聞いてたが、お前が俺に指図すんのは気に食わねぇ!」


 嫌そうな顔をしつつも手前に存在していた小型の肉団子――と、言っても二メートル近い大きさはあるのだが――にとびかかりつつ、ユーリはそう背後のイリスに叫ぶ。蠢く触手を二振りの刃で素早く切り落として間合いには飛び込んだユーリだが、そこから表情を曇らせて独り言のようにつぶやいた。


「で、俺らでこいつはどう倒せばいいんだよ……」


 全体が触手で覆われた球体の存在は、目に見える範囲での弱点らしき弱点は単眼の目しかないが、しかし以前この異形に遭遇した時はその単眼に攻撃してもすぐに再生してしまった。そんな面倒な異形の魔物なので、どう対処をしたらいいのかとユーリは内心で首を傾げる。例えば以前アーリィがしたように魔法という強大な力で一気に破壊してしまうのがやはり現状での最適解なのだろうが、あいにくと自分にはそういう戦い方は難しい。


「わっかんないけど、足止めくらいはしないとっ……!」


 イリスもユーリ同様にナイフを使って触手を切り落とし、彼の近くで別の肉団子を相手しながらユーリの先の独り言に対して言葉を返した。


「足止めじゃダメだろ……この数だぞ? 倒さねぇとこっちがやられるってっ!」


「できるなら倒して! 私はできる気がしないけどねっ!」


 自分たちを捕えようと蠢き迫る触手を切り捨てつつ、二人はそんな会話を続ける。

 イリスは自分たちが出来ることはラプラが呪術を完成させる間、あるいはナインが来るまでの間の足止めがせいぜいと判断しているのだろう。切り落とす触手もすぐに自己修復によって再生するのでキリがなく、やはり何かしらの方法で一気に破壊しないと倒せそうもない。ユーリは忌々しげに目を細めた。


「あっ……!」


 触手を切り捨てながら考えているとイリスの声が耳に入り、とっさにユーリはそちらに視線を向ける。すると大型の肉団子に囚われているイリスの姿が見え、ユーリは「ちっ」と舌打ちしながら彼の元に駆けた。


「世話の焼けるっ!」


 そう叫びながらユーリはイリスを捕える触手を切り捨てる。ボトボトと触手が地面に落ちるとイリスの体は自由になるが、何か彼の様子がおかしい。その瞬間前方に魔法陣が浮かび上がり、ユーリは考えるより先にイリスを抱えて後方に下がった。


「ユーリにフォローされるなんて……最悪の日」


「おー、こっちもこれ以上助ける気なんてねぇぞ」


 ラプラの魔術が一つ完成し、天から降り注ぐ巨大な岩が自分たちが相手していた肉団子の数匹を押しつぶす。土埃が濛々と立ち上がる中でその光景を見ながら、ユーリは抱えてたイリスを下ろして「さっきの借り返しただけだからなっ」と叫んだ。


「これで貸し借り無しだぞ!」


「……もっと貸しはある気がするけど」


「うるせーな。つーかお前、どうしたよ? こんなノロい敵につかまるとか、らしくねぇぞ……歳か?」


 イリスの様子がおかしいことを気にしてそうユーリが声をかけると、イリスは睨みながら「あぁ?」と不機嫌そうに返す。しかしすぐに彼は真面目な顔になり、こう続けた。


「実は……さっき魔法使った疲労がまだ回復しなくて……」


「おいマジかよ……最高に足手まといじゃねぇか」


 ラプラが攻撃している間なので、二人には少し会話をする余裕がある。

 イリスの言う『魔法』とは、道中で遭遇した肉団子を倒すのに彼が使った氷の魔法だろう。あれを使った時の疲労が原因で、思うように動けないと彼は言いたいようだ。今更そんな弱音を言うイリスに対して反射的に罵りたくなったユーリだが、あの時その魔法に助けられたのは自分なのでそれ以上の文句は何とか抑えた。

 ユーリはわりと最悪の事態だなと、イリスの言葉を聞いて頭を抱えそうになる。一方でイリスも気持ちはユーリと同じなので、彼にこう返した。


「だーかーらナイン呼ぼうって言ってるんじゃん!」


「あー……そうだな、素直にバケモンのおっさんを待った方がいいかもな」


 ラプラが次の呪術の準備に入ったのを横目に、ユーリは乱暴に自身の頭を掻く。そして短剣を構えなおしてイリスにこう言った。


「じゃ、足手まといは下がってろ、うろつかれても邪魔だから!」


 ユーリの言葉に「ムカツク」とキレながらも、しかし足手まといは否定できないのでイリスはおとなしく従う。


「わかった、せめてラプラのそばで彼のこと守るよ」


「そーしてろっ!」


 異形へと駆け出して行ったユーリの後ろ姿を一瞬だけ確認し、イリスはラプラの元へと走った。




「イリス、大丈夫ですかっ?!」


 イリスがラプラの元へ向かうと、ちょうどラプラがもう一発呪術を発動させ終えたところだった。彼はいったんロッドを下ろし、自分の元へ来たイリスに心配の眼差しを向ける。それにイリスは「へーき」と短く返し、ラプラの様子を観察した。


「イリスは私の後ろに……先ほどの呪術で疲れているのでしょう」


「いや、私もだけど……やっぱりラプラも疲れてるよね」


 薄っすらと額に汗をにじませるラプラを見て、イリスは彼を気遣うようにそう返す。表面上は笑顔で平気そうな顔をしているラプラだが、彼の魔力も徐々に限界が近づいているのだろう。ラプラは微笑んで「私は問題ありませんよ」とイリスに言ったが、イリスはそれを信じはしなかった。しかしナインが来るまでは彼に頑張ってもらうしかない。


「ごめんラプラ、それでも、もう少しだけ頑張ってほしい。本当に申し訳ないんだけど……」


 『ナインが来るまで』という言葉はラプラには逆効果になりそうなので飲み込んで、イリスはそうラプラに切望する。ラプラはそれにやはり優しく微笑み、「えぇ」と頷いた。


「私のすべてはあなたのためにあるのですから当然ですよ」


 そう言うとラプラは再び呪術の詠唱を始める。イリスは遠くで異形と戦うユーリを見ながら、ナインとジュラードの到着を早くと願った。





 ポチの先導でイリスたちの元へと向かうジュラードたちは、途中大きな爆発音のようなものを聞いて思わず足を止める。ジュラードが不安げに「なんだ?」と聞くと、ナインは「呪術だな」と即答した。


「呪術? 先生たちか?」


「だろうな。ま、呪術を使ってるのはあの魔族の男だろうが」

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