浄化 65
そうしておそらく平等なじゃんけんの結果、どうなったのかと言えば。
「なんで!? 本当にラプラと一緒なんだけどっ!」
ラプラと一緒の負けチームになったイリスが蒼白な顔でそう叫び、その隣でラプラはにこにこと笑顔で「ね?」と言う。もっと言えばナインは二人とは別の勝ちチームだ。その作為を感じる結果に、本当にラプラは確率を捻じ曲げたんじゃないかと全員が思った。
「こわいこわいこわい、本当に今のは平等な勝負?!」
「えぇ。でも、何度やっても同じ結果になりますよ……ふふっ」
「絶対になんかヤバイ力が作用してるじゃん、それ!」
「いえいえ、やばいなど……強いて言うなら、私の愛の力がちょっとした奇跡を起こしたのではないでしょうか」
そもそも勝負事には自信がある自分が負けたのが完全におかしいとイリスは思うが、本当に何度やってもラプラの呪いからは逃れられそうもない気もする。イリスは一瞬絶句した後、「わかった、もう……諦める」と自分の負けを認めた。
「そ、それじゃあチーム分けは……勝ちチームの俺とナイン、負けチームの先生、ラプラ、ユーリ……これでいいか?」
「いやだ! なんで俺がクソイリスと一緒なんだよー!」
ジュラードが改めてメンバー分けを確認すると、ユーリが子どものように駄々をこね出す。毎度勝負に負けるタイプのユーリは今回もじゃんけんに負け、イリスラプラと同じ負けチームになったことが不満のようだった。
「そんなの私だって不満だよ。なんでよりによって役立たずと一緒に……」
「役立たずはおめーだろ!」
「うるさい、お荷物」
「なにおー!」
今日も仲悪くにらみ合いを始めたイリスとユーリを見て、思わずジュラードは「もう一回じゃんけんするか?」と呟く。しかしナインが苦笑しながら「もういいだろ、これで」と言った。
「それよりよろしくな、青年」
「え、それって俺のことか?」
ナインに笑いながら手を差し出され、ジュラードはひどく戸惑った反応を彼に返す。数秒悩んだ後に、ジュラードは「よろしく」と差し出された彼の手を握り返した。
(なんだか俺、ナインにすごく気に入られているのか……?)
微妙に気になっていたナインの謎の態度に対して、ジュラードは握手しながら困惑と共に考える。しかし考えてもなぜ自分が彼にそんなに気にいられているのかはわからない。以前『先生に聞け』とナインに言われたことを思い出してイリスを見るが、彼はユーリと罵り合いに忙しいようで、聞けるような雰囲気ではなかった。
「きゅうう! きゅうううぅ!」
ジュラードがぼーっと考えていると、頭の上でうさこが激しく鳴いて主張を始める。その声で意識を現実に戻したジュラードは、うさこを頭から降ろしながら言った。
「わかってる、お前も俺と一緒のチームだよ」
「きゅうううぅ!」
「おぉ、そうだったな。じゃあうさぎもどきもよろしくな」
ナインはうさこの小さな手に指先をちょんと近づける。うさこは嬉しそうに彼の太い指を握り返した。
◆◇◆◇◆◇
一晩フェイリスの家で世話になった翌朝、ローズたちは早速薬の調合のためにロンゾウェルの待つ中央医学研究学会の施設へと向かう。
フェイリスの案内で施設内へとやってきたローズ、アーリィ、ウネ、マヤは、応接室でしばらく待った後に、やってきたロンゾウェルと再会を果たした。
「大変お待たせしました、ローズさん、みなさん」
「いえ、お忙しいところありがとうございます」
相変わらずの柔和な雰囲気を湛えた笑みで、ロンゾウェルがローズたちに挨拶と共に近づく。ローズも座っていたソファーから慌てて立ち上がり、彼に頭を下げて挨拶をした。そんなローズに再び座るようにジェスチャーで促し、ロンゾウェルもまた向かいのソファーに腰をかける。そうして彼は眼鏡の位置を直しながら口を開いた。
「それでは早速ですが本題と入りましょう。ローズさんたちの尽力もあり、無事に”禍憑き”を治療する薬の材料はすべてそろいました」
ロンゾウェルがそう言うと、フェイリスが「材料は全て別室に揃えてあります」と口をはさむ。それにロンゾウェルは頷き、そしてローズたちに視線を戻した。
「あとは調合だけとなります。しかし薬はマナ水を材料とする特殊なものです。我々はそのような薬の調合には慣れていない」
「えぇ、大丈夫です。薬は私たちが調合します」
ロンゾウェルの言葉にローズがそう返事を返すと、ロンゾウェルは微笑んで「お願いいたします」と頭を下げる。ローズは「任せてください」と力強く頷いた。
「調合の方法を記載した本も、材料と合わせて別室に用意してあります。貴重な資料なので扱いだけは気を付けていただければと……」
「えぇ、心得ていますわ、会長」
今度はマヤがそう返事を返し、そして彼女は「それじゃ、さっそく調合に取り掛かりたいのだけど」と促す。ロンゾウェルは頷き、フェイリスに案内を伝えた。
「フェイリス、ローズさんたちを調合室へ。……生憎と私は他の仕事がありますのでお手伝いは出来ませんが、何かありましたらフェイリスに用件を伝えてください」
「わかりました。ありがとうございます」
ローズたちにもう一度「お願いします」と伝えると、ロンゾウェルは立ち上がって部屋を後にする。ローズたちが忙しい彼を見送ると、部屋に残ったフェイリスが「それでは皆さん、私が調合室に案内しますのでついてきてください」と声をかけた。
フェイリスの案内で、ローズたちは続けて施設内の調合室へとやって来る。調合室はその部屋だけでちょっとした研究所のような広さと様々な調合機材が用意されており、それを見たローズは思わず「すごいな」と圧巻された感想を口にした。
「小さい調合用の道具から、なんだか大きな機械まで……私にはどう使うのかわからないな、正直」
「アタシは旧時代に見たことあるようなものもあるけど……でもまぁ、確かに全部どう使うのかはわからないわね」
ローズとマヤがそれぞれそう感想を漏らし、アーリィもほぼ意見は同じようで部屋をきょろきょろとしている。ウネは「興味深いわね」と言葉を呟き、フェイリスに視線を向けた。
「この部屋は色々と機械があるみたいだけど……」
「はい。旧時代にあったものを再現したり、修復して使ったりしています」
ウネの問いにフェイリスが答えると、ウネは「そうなの」と深く頷く。
「触ってみたいけど……機械なら、使い方を間違えると危険よね」
「た、たしかに。しかしこの機械を使わないと調合は出来ないのか?」
ウネの呟きに頷いたローズが疑問をフェイリスに問うと、フェイリスは「必要があれば使ってください」と笑顔で言葉を返した。その微妙な返事に、ローズは思わず苦笑いを浮かべる。必要であれば使ってほしいと言われても、使い方がわからないのだ。エルミラでもいれば興味から初見の機械も使いこなしてしまいそうだが。
「悪いがフェイリス、私たちはこの機械をどう使うのか……見ただけじゃちょっとわからないと思うんだが」




