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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 59

 ジュラードはうさこを再び頭の上によじ登らせ、ラプラからイリスを受け取る。

 ラプラはロッドを構え持つと、ポチを持つナインに近づいた。


「グウウゥウウゥッ」


 低く唸りナインの拘束から逃れようとするポチに対して、ラプラは禁呪の呪文を小さく唱えて術を施す。すぐに術が効果を発揮してポチは大人しくなり、ナインは「へぇ」と感心しながらポチを地面におろした。


「なるほどな、それが魔物を支配するっていうお前さんお得意の術か」


 ナインの意味ありげな視線を不愉快そうに無視し、ラプラはジュラードへと向き直る。


「これで安全に利用できますよ」


「あ、そうか……ありがとう」


 今度はラプラによって大人しくさせられたポチは、目の色は通常の銀であったが先ほどのように敵意剥き出しという態度ではなくなる。大人しくなった以外に外見的に何か変化があるようには見えないが、とりあえず安全になったことは確かなようで、それを確認したジュラードは少し複雑な気持ちでポチを見つめた。


「……」


 きっと今は”こういう方法”でしか魔物と共にいることは出来ない。そのことに自分はやりきれない思いを感じている。

 別に自分は魔物を傷つけたくないと主張したいわけではないし、過剰な博愛主義でもないと思うが、不思議と魔物に同情的になる自分の心にジュラードは戸惑いを感じた。


「それでは……本日はもう孤児院に戻るということでよろしいでしょうかね」


「え?」


 不意にラプラに声をかけられ、ジュラードは視線をポチから彼に移す。彼の言葉を聞いてその話を思い出したジュラードは、「そうだな」と頷いた。


「先生を休ませたいし……今日は一旦これで捜索は終了にしよう」


「それがいいですね。あ、イリスは私が運びますので返していただけますか?」


 一旦預けたイリスを返してほしいと笑顔で凄まじい圧を掛けてくるラプラに、ジュラードは動揺しながらイリスを返却する。本当に恐ろしい人物にストーキングされていて可哀想だと、ジュラードはイリスに深く同情した。


「んじゃ続きは明日ってことか」


 ユーリは疲れた様子で大きく伸びをしながらそう言い、ジュラードは彼の言葉に「そうだな」と頷く。ジュラードの返事を聞き、ユーリが面倒臭そうにあくびをしながらこう言葉を続けた。


「そうあっさり魔物退治が終わるとは思ってなかったけどよぉ……でも数時間探して出くわさなかったってことは、何かの理由で案外もうこの辺にはいないんじゃね?」


 随分楽観的なユーリの意見だが、ジュラードも内心でひそかにそれを期待していた。

 周辺に生息している痕跡はあるが、以前の襲撃からその後一度も目撃したという話が無いのだ。ユーリの言う通り、どこかに移動しているのではないだろうかとジュラードもその可能性を考えた。


「なぁ、ラプラ……あんたはどう思う? もうその、肉団子がいなくなってる可能性とか無いのか?」


 異形の魔物に詳しそうなラプラにジュラードが問うと、ラプラは「可能性は低いですね」とはっきり否定する。


「そうなのか?」


「この土地はマナが豊富です。正常なマナではないが、あの魔物にとって豊かな恵みであることは間違いない。無限に餌が湧く美味しい餌場なのですから、余程の理由がない限りは移動しないでしょう」


 ラプラの答えを聞き、ジュラードは「そうか」と残念そうに返事を呟く。続けて疲れたように肩を落としたジュラードに、ラプラが小さく笑って声をかけた。


「ここら辺一帯がマナの豊富な餌場状態ですが、それを範囲として考えれば多少は見つけやすくなりますよ。明日は今日捜索できなかった範囲で探しましょう」


「わかった」


 頷き、ジュラードは「じゃあ、孤児院に向かおう」と一行に声をかける。そうして彼らは今日の捜索を中断し、孤児院へと足を向けた。






 ジュラードたちが孤児院の近くまで来ると、ラプラは孤児院周辺に施していた魔よけの術を解除する。そうしてすっかり日が傾いた頃、ジュラードは久々に我が家である孤児院に帰還した。


 ポチを孤児院の玄関前に待機させた後、孤児院の戸を開けてジュラードが「ただいま……」と控えめに挨拶をすると、夕食の準備をしていたらしいエリがちょうど玄関前を通りかかり、驚いた顔で彼らを迎える。


「えぇ?! おかえり」


「な、なんだよその反応……」


 なぜか驚愕の声を上げてジュラードたちを迎えたエリに、ジュラードが怪訝な表情を返す。するとエリは「いつも突然なんだもの」とジュラードに不満げな表情を向けた。


「出ていくのも帰ってくるのも、あなたっていつも突然だからさ」


「仕方ないだろう。大体今回は出て行ったのに関しては突然じゃないぞ」


「しかも毎回知らない友達を連れてくるし。別に悪くは無いんだけど、リリン以上に社交的になったみたいでびっくりするの」


「と、友達?!」


 エリの言い分を聞いて、思わずジュラードはぎょっとした顔で後ろに立つナインを見る。ナインは楽しげに笑い、「トモダチだ、よろしくな」とエリに言った。


「おいナイン、冗談はやめろ!」


「なんだよ、俺とオトモダチは嫌か?」


 ナインが笑いながらジュラードに言うと、ジュラードはひどく困った様子で「そうじゃないけど」と口ごもる。するとユーリが「ヤク中のオッサンと友達なんて嫌だろ」と小声でだがはっきりと言った。


「おい、勝手に俺を薬物依存症キャラにするなよ」


「俺らの中じゃあんたはすでにヤベェヤク中キャラだぞ」


「おいおい、マジかよ。俺は善良な一般市民だってのに」


「善良な一般市民は素手で魔物を殴り殺したりしねぇだろ」


 ユーリとナインが言い合いを始めると、物騒な二人の話を怪訝な表情で聞くエリに対して、ジュラードは神妙な面持ちで「あの二人の話は聞かないでいい」と言った。


「多分あの二人の会話は、まだ大人の庇護下にある立場の俺たちが聞いていい話じゃないんだ。俺たちが物騒なあの二人の会話を耳にしたと知っただけで、ユエ先生やイリス先生が悲しむと思う」


「よ、よくわからないけど……っていうか、お姉ちゃんどうしたの? 大丈夫?」


 エリが気を失っているイリスに気づいて心配した声を上げると、ジュラードは「ちょっと疲れて寝ているだけ、だと思う」と説明する。続けて彼を抱えているラプラも頷いて、「心配はいりません」とエリに言った。


「彼の言う通り、イリスは疲労で気を失っているだけですから。しかし早く落ち着いた場所で休ませてあげたいですね」


 ラプラのその言葉に「わかった、先生呼んでくるねっ」とエリは言って駆けだす。玄関に残されたジュラードたちは、「とりあえず中に入ろう」とのジュラードの言葉に頷く。ポチだけは玄関前に残し、彼らは孤児院の中へと歩みを進めた。

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