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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 58

「そうだったのか……」


 ラプラの説明を聞き、ジュラードは「先生に無理をさせてしまってたんだな」と反省したように呟く。落ち込む彼の頭の上でうさこも「きゅうぅ~」と寂しげに鳴いた。


「いえ、私も迂闊でした。夢魔の能力の支配はてっきり私の術を同じで、一度かければ恒常的に機能するものであるとばかり……」


 そう苦々しい表情で言いながら、ラプラは自身の経験を思い出す。イリスの術に何度も囚われている自分の状況を思い出せば、そうではないことはすぐに気づけたはずだ。イリスの支配は一時的なものであり、常時支配できるわけではない。だから自分は何度も術をかけられ、彼からの支配と解放を繰り返していたのだ。常時支配するには常に相応の魔力を消費するのだろう。


「今回のことは私の落ち度です。ポチを使うことを提案したのは私ですから。ですからジュラード、あなたが気に病むことはありませんよ」


 ラプラに気遣う言葉を向けられて、ジュラードはひどく驚く表情を浮かべる。そもそも彼に名前を呼ばれることさえ珍しいので、ジュラードは正直なところ軽い恐怖さえ覚えた。失礼すぎる反応だと自覚があったので「あ、あぁ」と曖昧に頷く反応だけを見せて、驚きを表面に出すことはしなかったが。


「相手を支配するには常時術を掛ける必要がある、か」


 不意にナインがそんなことを呟き、それを聞きつつユーリはなんとなくポチに視線を向ける。そして彼は表情を強張らせた。


「お、おいラプラ……ちょっと質問させろ」


「なんですか?」


 表情を強張らせたままユーリはラプラに声をかけ、ラプラは怪訝そうに視線を彼に向ける。ユーリは嫌な予感がする表情でポチを見ていた。


「イリスが常時支配する必要があるってことは、そいつが気を失っている今現在のポチはどういう状態だ?」


「……それは」


 ユーリの指摘を聞き、ラプラもハッとした様子でポチに視線を向ける。ジュラードも嫌な予感を感じて、「まさか」と小さく呟きながらポチを見た。


「グルルルルルルゥ……」


「……あの、ポチ君の機嫌がとても悪そうなんですけど?!」


 低く唸り声をあげながら自分たちの方を見ているポチを指さし、ユーリが上擦った声でそう言う。赤く輝いていたポチの目の色が、徐々に本来の銀色へと変わりかけているのを見て、ジュラードは咄嗟にナインに叫んだ。


「ナイン、ポチを取り押さえてくれっ!」


「えぇ?!」


 一瞬嫌そうな反応を返したナインだが、ポチが低く吠えながらこちらに飛び掛かってくると、素早く彼は前に出て魔獣の巨体を受け止める。そのままエンセプトの剛力で興奮して暴れる魔獣を抱きかかえ、「これでいいのかよ」とジュラードに聞いた。


「た、助かった……」


 本来の野生の魔物に戻ってしまったポチをナインが取り押さえてくれたことで、一先ずジュラードはホッと胸を撫でおろす。しかし魔物は通常人を襲うものなので、支配の無くなったポチは敵意剥き出しでジュラードたちに襲い掛かろうと、唸りながらナインの腕の中で暴れていた。まだ全く安心できるような状況ではない。


「グウウウゥウウゥッ!」


「おい、これはもう殺しちまった方がいいんじゃねぇか?」


 ポチを押さえながらそう言うナインに、ユーリも「そうだな」と頷いて短剣を取り出す。するとポチを始末する気の二人に、ジュラードは思わず「待ってくれ」と声をかけた。


「なんだよジュラード」


「い、いや……なんか名前つけちゃったし、そう簡単に殺すのはちょっと気が引けると言うか……」


 自分でも妙なことを言っているという自覚があるが、ジュラードはそんなことを二人に訴える。そんなジュラードをユーリは怪訝な表情で見返した。


「おいおいジュラード、お前大丈夫かぁ? こいつはペットじゃねぇんだぞ? 魔物だぞ、魔物!」


「うっ……それはわかってるけど……」


 確かにユーリの言うとおり、”ポチ”なんて名前を付けてしまったが魔物だ。ペットではないし、本来は共存できる存在ではない。それはジュラードも理解しているが、しかし。


「きゅううぅ~……」


「……」


 自分の頭の上で鳴くうさこにそっと手を伸ばし、ジュラードはうさこを抱きかかえる。そのまま彼はラプラに視線を向けた。


「なぁ、ポチはもう殺すしか……無いだろうか?」


 ジュラードにそう問われ、ラプラは少し考える様子を見せる。そして彼は「まだポチを利用するというなら」と口を開いた。


「私がイリスと同じように、ポチに支配する術を施しましょうか。そうすれば安全に利用できますよ」


「……利用、か」


 魔物と人は共存は出来ない。魔物は人を襲うし、それが魔物の本能だ。ゼラチンうさぎや、それに”イリス”という例外はあるが、それは非常に稀な例外であり、本来は魔物は自分たちにとって脅威でしかないのだ。魔物と仲良くするなんてことは無理だとジュラードも理解しているし、そもそもそんなことをかつての自分は考えたことすらなかった。

 ジュラードは腕に抱いたうさこを強く抱きしめ、ラプラにこう言葉を返す。


「それで構わない。ポチなんて名前まで付けてしまったのだから、やっぱり殺すのは……なんか、俺には無理だ」


 ジュラードのその言葉に、ラプラは無表情を返す。一方で話を聞いていたユーリは「おいジュラード、お前正気かよ」と呆れたようにつぶやいた。


「魔物に感情移入でもしてるんかねぇ」


「ゼラチンうさぎを相棒にしてるんだ。魔物に同情的にもなるだろ」


 ユーリのボヤキを聞いてナインがそう笑いながら言葉を返し、ジュラードはどう反応していいのかわからずに俯く。するとラプラは不意に「イリスをお願いします」とジュラードに抱きかかえていた彼を差し出した。


「え? あぁ……」


「いいでしょう。ポチは私の術で支配しますよ」

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