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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 55

「ポチのほうが可愛いし……」


 自分のネーミングを否定されたことで不機嫌になるイリスを見て、ジュラードは慌てて「そっちも可愛いと思います」とフォローする。まぁ名前なんて本人? が納得していればなんでもいいかとジュラードは思い直した。


「君だってポチの方がいいよね~?」


「ワウッ!」


 イリスが魔獣に声をかけると、魔獣は嬉しそうに『ポチ』の名を受け入れて返事をする。操っている本人の命名なので拒否のしようがないのかもしれないが、やはりポチを気に入っているようなので、ひとまず魔獣の名前は『ポチ』となった。


「変な奴に変な名前つけられて操られて……可哀想なポチ……」


 ユーリがポチを見下ろしながら哀れみの視線を向ける。するとポチは同情されたというのに知らん顔をし、ユーリに対してそっぽを向いた。


「なっ……飼い主に似て可愛くねぇやつだな!」


「グルゥゥゥ……」


 どうやらポチとユーリは相性が良くないらしい。にらみ合う一人と一匹を少し呆れた様子で見つめつつ、ジュラードは「先生、とりあえずお願いします」と次の行動を促した。




◆◇◆◇◆◇




「うぅ、なんとか着いたぞ……!」


 途中何回か戦闘する羽目になったがなんとか砂漠のオアシスである都市にたどり着き、ローズは眼前の豊かな街並みを見ながら喜びの声を上げた。


「日が暮れる一歩手前で助かったわね」


 ローズの肩にちょこんと腰掛けながらマヤが声をかけると、ローズは「本当にな」と喜びから一転して真剣な表情で頷く。

 砂漠の夜は気温が下がり、昼間との寒暖差が激しいのだ。砂漠を移動する予定ではなかったために装備が十分ではないので、そんな状態で砂漠での一晩は命にかかわる危険性もあっただろう。それを回避することが出来たのは不幸中の幸いだとローズは思った。

 しかしマヤの指摘する通り日没前の時間となっており、空を見上げると日がだいぶ傾きかけている。また砂漠をずっと歩いて移動していたために、アーリィの様子を見るとひどく疲れている表情であった。


「……今日はとりあえず一晩休んで、明日ロンゾウェルさんの所に話に行くか」


 ローズがそうアーリィに声をかけると、アーリィは疲れているオーラを発しながら無言で頷く。その彼女の様子に思わず苦笑し、ローズは「じゃあ、宿に向かわないとな」と言った。するとマヤが「その必要はないわよ」と言い、ローズは怪訝な表情を彼女へと向ける。


「なぜだ?」


「フェイリスのとこに行けばいいじゃない」


 さも当然という顔でそう言い切ったマヤに対して、ローズの表情が恐怖からか強張る。そして彼女は「ダメだ、絶対」と首を横に振った。


「なんでよぅ」


「マヤ、フェイリスの家は便利な宿屋じゃないんだぞ?」


 毎回快く家に泊めてくれるフェイリスではあるが、その対価が恐ろしいことをローズは知っている。いや、ローズしか知らないというべきか。とにかくあの美人な元軍人女性は戦闘では頼りになるし、それ以外の部分でも頼りになることは確かだが、出来るだけ借りは作りたくないとローズは思う。

 一方で利用できるものはなんでも利用する主義のマヤは、拒否するローズに納得いかなそうな表情を浮かべた。


「フェイリスだっていつも一人じゃ寂しいわよ~。泊まってあげた方がフェイリスも喜ぶって!」


「マヤ、そうは言っても毎回毎回世話になるのはさすがに図々しいぞ」


「……私も、普通に宿に泊まった方がいいと思う」


 ローズに続いてウネも控えめに手をあげつつ、「フェイリスの家に泊まるのは、ちょっと……」と遠慮する反応を見せた。そんなウネの様子を見て、マヤは「あら、ウネまでそんな謙虚なことを」と意外そうに目を丸くする。そのまま彼女はアーリィに視線を移した。


「アーリィの意見はどう? アタシは独裁者じゃないし、なんだか多数決っぽい雰囲気だからアーリィの意見も参考にさせてもらうわ」


 ユーリがいたら『お前は間違いなく独裁者だろ』とツッコみを入れていただろう台詞を言い、マヤはアーリィにそう問う。アーリィは少し考えてから口を開いた。


「えっと……私はどっちでもいいけど、早く休みたい……お腹すいたし」


 アーリィがあくびをしながらそう言うと、ローズは思わず苦く笑う。早く休みたいアーリィの為にも早急に宿問題を解決しないといけない。


「マヤ、多数決では宿に泊まる派が多いんだ。フェイリスには明日会いに行けばいいし、今日は宿で……」


 ローズがそう肩に止まるマヤに説明しかけた時だった。背後から女性に声をかけられる。


「あら、ローズさんたちじゃありませんか」


「こ、この声は……!」


 良く知った声を耳にして、ローズは咄嗟に顔色を悪くして振り返る。咄嗟に顔色を悪くするとはなかなか失礼な反応だが、それだけローズにとっては『その声』はトラウマだった。


「あら~、フェイリスじゃない! いいタイミングで会ったわね!」


 マヤがそう返事した通り、背後からローズたちに声をかけてきたのは、まさしく今話題の中心となっていたフェイリスだった。彼女は手に買い物袋を持って、微笑みながらローズたちの元へとやって来る。


「お久しぶりです、マヤ様。こちらにいらしていたのですね」


 にこりと妖艶に微笑んだフェイリスは、マヤにそう挨拶をする。マヤは「今着いたばかりだけどね」と彼女に言葉を返した。

 

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