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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 44

 健気にそう言って微笑むリリンの姿に、ジュラードは胸が締め付けられる。彼は小さく「すまない」と言い、彼女の体を抱きしめた。


「必ず……必ずお前の病気は治すからなっ……」


 こんなにも愛おしい存在を決して失ってはならないと、ジュラードはそれを強く思いながら彼女に改めてそれを誓う。

 自分に残されたたった一人の肉親である彼女を、絶対に失ってはならない。


「うん、お兄ちゃん……ちょっと痛いよぉ……」


「あっ! わ、悪い……っ」


 リリンが苦しそうに身じろぎすると、ジュラードは慌てて彼女の体を離す。リリンは「お兄ちゃんも寂しかったの?」と、困ったように笑いながら言った。リリンの問いに一瞬戸惑ったジュラードだが、直ぐに口をついて出た返事は「そうかもしれない」という素直なものだった。


「そっか……寂しいのはリリンだけじゃなかったんだね」


 兄もまた寂しさを感じていたのだと、それを知ったリリンは今度は自ら兄に抱き着く。


「お兄ちゃんも頑張ってるんだもんね……リリンはいつもね、どこにいてもお兄ちゃんを応援してるよ」


 リリンのその言葉にジュラードは微笑み、「ありがとう」と告げた。





 リリンとの再会を終え、ジュラードは名残惜しい気持ちで病院を後にする。彼らは本来の目的である孤児院周辺の魔物退治へと向かうことにした。



「リリンの体調が良かったのは安心しましたが……やっぱり孤児院に帰すためには、あの土地のマナを正常にしないといけませんよね」


 病院を出て孤児院へと向かう道の途中、ジュラードは隣を歩くイリスにそう話しかける。イリスは「そうだね」と少し険しい表情を向けて返事をした。


「そのマナの浄化は私たちにはどうしようも出来ないから……マヤに何とかしてもらうしかないね」


 異形の魔物を生み出すほどに歪となったマナが土地に根付いてしまっている問題については、そのマナの根源たるマヤに何とかしてもらう以外に今のところ手が無い。しかしマヤは現在ローズたちと共に薬の調合に向かってしまっているので、薬が出来るまではマナの正常化は難しい。


「……今あそこに俺が戻るのも、実は……正直ちょっと心配です」


 妹が”禍憑き”となった原因は異常なマナに長期間晒されたせいだ。イリスもかつては同様の理由で”禍憑き”となったために、ゲシュであるジュラードは少し不安げな表情を浮かべた。

 そしてそれはイリスも同じく心配のようで、彼は顔を隠したフードの下で眉根を寄せて小さく頷く。


「私も、ジュラードはなるべくあの場所には近づかない方がいいとは思う。あなたもいつ”禍憑き”になるかわからないし……どうする? 魔物退治はナインが手伝ってくれるようだし、ジュラードはリリンと一緒に病院で待機しててもいいよ」


 イリスは「その方がリリンも寂しくないだろうし」と言い、ジュラードの意見を伺うように僅かに顔を上げた。


「今ならまだ病院に戻れるし、それに……あそこはゲシュに理解ある病院みたいだから、良くしてくれると思う」


「……俺もそれを少し考えました。俺はリリンの傍にいる方がいいかもしれないって」


 イリスの考えを肯定するジュラードは、しかし「でも、俺も行きます」と言葉を続ける。その眼差しには先ほど『必ずリリンを救う』と誓ったのと同様の強い決意が浮かんでいた。


「俺に出来ることを考えたら、確かにリリンの傍にいてやることも選択肢のうちの一つだろうけど……俺はリリンだけじゃなく、孤児院のみんなの力にもなりたいですから」


 ジュラードはイリスに横顔を向けたまま、「だから、そのために出来ることを選択します」と告げる。彼のその返事にイリスは少し驚いた表情を浮かべ、そして「そっか」と微笑んだ。


「本当に頼もしいお兄さんになったね、ジュラード」


「そ、そんなことは……」


 反射的に否定しかけた言葉を飲み込み、ジュラードはもっと素直な言葉をイリスへ返す。


「そうでしょうか……そうだったら、その……う、嬉しいですが……」


 イリスの言葉にジュラードは照れ笑いを浮かべ、そして視線を彼に向ける。するとイリスは笑いながら「うん」と頷き、そしてこう続けた。


「頼もしいよ。……少なくともアイツよりはよっぽど頼りになる」


 イリスはそう言いながら視線を後方へ向ける。ジュラードもつられて後方を振り返った。


「あいつこそ病院に置いていけばよかったかもね……マジで荷物でしかない」


 イリスの苦々しい呟きを聞きながら、ジュラードは振り返った先にナインに荷物のごとく担がれて運ばれているユーリを見る。


「うぅ……おっさん、もっと……ゆっくり、ガラス細工を扱うように、丁寧に運んで……おぇ……」


「注文の多い荷物だな。運んでやってるんだから黙ってろ」


 もはや自力で歩く力も無いらしく、ユーリはナインに運ばれて一行についていってる状態である。そんな彼を見て、ジュラードは『本当にこのまま魔物退治に行っても大丈夫なんだろうか』と不安になった。


「ユーリは……どこかで休んでもらってたほうがいいんじゃ……」


「いいよ、ほっとけば。それにいざとなったら生肉縛り付けて放置して、魔物をおびき寄せる餌に使おう。その程度には役に立つでしょ」


 ユーリを心配するジュラードに対して、イリスは心配どころか非道な提案をする。ひどい提案だと思ったジュラードだが、しかし案外そうでもしないと魔物を見つけることは難しいんじゃないかとも思った。


「ユーリを餌にするのは良くないとは思いますが……でも、確かにおびき寄せるとかってできませんかね? 例の魔物が今どこにいるかって、それもよくわかっていない状況ですし……」


 目的とする異形の魔物は孤児院周辺を根城にして徘徊していることは間違いないようだが、わかっているのはそれだけだ。具体的にどの辺にいるのかははっきりとはわかっていない。なので、まずは魔物を見つけることが目的となる。

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