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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 39

 準備するウネの様子を眺めながらそうローズが言うと、マヤも彼女を眺めながら「うーん」と考える。


「……あ、間違えた……あら、これも間違えてる……ふぅ……」


 ウネは準備を進めながら不吉なことをぶつぶつと呟く。それを聞き、マヤは「ダメかもしれないわね」と言った。


「やっぱり不安だ……!」


 表面上の受け答えはいつも通りに見えるウネなので、今現在どの程度普段よりもパフォーマンスが落ちた状態なのかがイマイチ把握しづらい。ローズは今現在もぶつぶつと独り言を言いながら準備を進めるウネに、「あの、何か手伝うか?」と声をかけた。


「平気よ。気にしないで」


「……なにかいつもより準備に手間取ってるみたいで気になるから声をかけたんだけども……」


 ローズが不安を独り言のように呟くと、ウネは小さく笑って「そうね、いつもより時間がかかってごめんなさい、座って待っていて」と彼女に告げる。そう言われるとローズも大人しく待つしかなく、彼女はため息を吐いた。


「まぁ、いいか……ウネの気が散ってもいけないし、アーリィを見習って大人しく待とう」


 そう言いながらローズは、椅子に座って大人しく待っているアーリィの元へ向かう。彼女の隣に腰掛けると、アーリィから話しかけられた。


「ねぇ、ローズ」


「なんだ?」


 アーリィはウネの準備の様子を見ながら、隣に座ったローズへ唐突にこんな問いかけをする。


「ローズは自分の調子が悪い時に魔法を使ったこと、ある?」


「え?」


 アーリィの問いかけにローズは疑問を抱きつつも、「うーん、無いかも」と答える。


「魔法を使い過ぎて倒れたことは多いが……そもそも、そんなふうに無理をするとハルファスがとても怖いからなぁ」


「そう……」


 ローズは「どうしてだ?」と、今度は逆にアーリィに問う。するとアーリィはウネを見つめたままこんな説明をした。


「私は滅多にないけど、でも調子悪い時に魔法使うと、なんというか……うまくマナに願いが伝わらない。だから思ったのと違う魔法の効果になったり、威力が制御できなかったり……平たく言うと失敗することもあるわけだけど」


「……アーリィ、今その話をする意図はなんだ?」


 ものすごく不安になることを言うアーリィに、ローズが顔色を悪くしながらそう問う。いや、いちいち問わなくともアーリィが何を言いたいかなんてわかりきっている。


「ウネ、大丈夫かな」


 まるで遠くを見つめるような目でウネを見ながらそう言ったアーリィに、ローズは何も言えずに無言でウネを見遣った。



「ごめんなさい、待たせてしまって。準備が出来たわ」


 しばらくしてウネがそう申し訳なさそうにローズたちに声をかける。ローズは「あぁ、ありがとう」と礼を言って立ち上がり、そしてじっとウネを見つめた。


「どうしたの、ローズ」


 ローズの視線に気づいたウネが彼女に問うと、ローズは「い、いや……」と曖昧に返事をする。そうして彼女は不安を抱えたまま、転送陣の中へと向かった。


「ローズ、心配し過ぎよぉ。さっきはちょっと脅かしちゃったけど、たぶんウネも慣れてるし大丈夫よ」


 あまりにもローズが不安そうな顔をしているのでマヤがそう声をかけると、ローズも少し笑って「そうだな、考えすぎだな」と彼女に言葉を返す。


「そうそう、考えすぎよ。アーリィまで脅かすからローズったら思わず泣きそうな可愛い顔しちゃってさぁ。まぁそれはそれで可愛かったけど」


「な、なんだそれは! 泣きそうな顔なんてしてないぞ!」


 クスクスと可笑しそうに笑うマヤに、ローズは恥ずかしそうに言い返す。そして思う。そうだ、自分はちょっとネガティブに考えすぎるところがあると。マヤたちとの長い旅の間に改善はしたが、基本後ろ向きに考える癖があると自覚している。


「ローズももうちょっとユーリくらい能天気に構えてればいいのよぅ。あ、ユーリはちょっと能天気すぎるとは思うけど」


「ははは、ひどい言われようだな」


 マヤの言う通り、もう少し仲間を信じて前向きに考えるべきだなとローズは反省する。そして、彼女はもっとドンと構えていようと思い直した。


「そうだな、ウィッチに体乗っ取られてあげくにこんな姿にされて、今更これ以上の悲劇も驚くこともないよな~」


「そうよ。それ以上の悲劇なんてなかなかないわよぅー」


「ははは~」


 ローズとマヤが半ばやけくそ気味にそんな会話をしていると、ウネはそんな二人を見て疑問の表情を浮かべる。彼女は不思議そうな顔でアーリィに声をかけた。


「あの二人はなにを楽しそうに話しているの?」


「気にしないでいい。二人とも長くあの姿だから、ちょっと精神的に壊れてきちゃっただけだと思う」


 アーリィのその返事を聞き、ウネは首を傾げつつ頷く。そして彼女は精神的にちょっと壊れちゃってるローズとマヤに「転送するわよ」と告げた。


「あぁ、よろしく頼む。……そうだな、自分の肉体がアリアになってしまう以上の驚きなんて、そんなのあるわけ……」





 転送した先は見知った砂漠の街……ではなく、少し状況が違った。


「ええと、ウネ……ここ、は……?」


 呟いたローズが周囲を見渡すと、そこには深い峡谷と共に砂漠が広がっている。予想していた街の姿は無く、代わりに見覚えのない砂漠で彼女たちを出迎えたのは。


「ごめんなさい、転送失敗したようね……ここは」


 ウネは申し訳なさそうにそう言って、盲目の瞳で空を見上げる。見えないはずの目で彼女は”それ”を追い、そして驚きに目を見開くローズにこう答えた。


「ここは飛竜のなわばりの中、かしら」


 空を優雅に旋回しながら飛ぶ巨大なドラゴンの影が、地上に立つローズたちを不吉に覆う。

 間近で空を飛ぶドラゴンはギガドラゴンとまではいかないがかなり大きく、数は二匹いる。さらに少し遠くの峡谷の陰にも、ドラゴンが数匹休息しているのが見える。どう考えてもヤバイ所に転送してしまった驚きでローズは思わず叫びそうになり、しかし何とか思いとどまった。

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