浄化 32
エルミラのその問いに、店主は短く「あぁ」と返事する。
「つーか知ってるんだな、やっぱりそういうの」
店主が関心したようにそう呟くと、話を聞いていたラプラが「あぁ、そうなのですか」と会話に入ってきた。
「それはそれは……では、よろしければ一つ頼みを聞いてくださいませんかね?」
「ん? なんだ?」
ラプラは普段よく見せるあの胡散臭い笑顔を顔に張り付け、「我々を転送してもらいたいんです」と彼に告げる。それを聞き、店主の表情が怪訝に変わった。
「転送してもらいたいって……急になんだよ」
「明日でいいんですけども、我々行くところがあるんです。しかし少々移動が面倒なので、送っていただければありがたいと……そう思ったのです」
ラプラはそう言い、そして店主へと孤児院近くまでの転送を依頼する。話を詳しく聞いた店主は、あまり乗り気ではない表情を返した。
「いやー、急に送れって言ってもなぁ」
「ダメですか? 近くでもいいんですが」
ラプラと店主のやり取りを聞き、ジュラードも「あの、お願いします」と声をかける。店主はジュラードに視線を向け、一言「ゲシュか……」と呟いた。
「え……あ、もしかしてゲシュは嫌い、ですか?」
動揺するジュラードに、店主は「あぁ、いや、違う」と首を横に振る。
「嫌いとか好きとかはねぇよ。ただ……いや、何でもない」
何か言葉を濁す店主は、その言葉の続きは語らすに「しかしなんで孤児院なんだ?」と質問した。そしてその質問にはジュラードが答える。
「俺の育ったところで……ちょっと戻る用事があるんです」
「……そうか」
店主は何か考える様子でジュラードを見つめ、そして急に彼は「わかった、送ってやるよ」と返事をする。その返事を聞き、ジュラードは目を丸くして「いいんですか?」と聞いた。
「いいって言ったじゃねぇか。ただし孤児院の場所は知らねぇから、その近くまでになるけどな」
「全然、それで大丈夫です。すみません、ありがとうございます」
店主の返事を聞き、ジュラードは嬉しそうに僅かに微笑む。そんなジュラードに店主の男も小さく笑みを返した。
「あぁ、別にかまわねぇ」
「私が頼んだ時はあまり乗り気ではなかったですけど」
ラプラがぼそっとそう呟くと、店主は苦い顔を浮かべて「いいだろ、気が変わったんだ」と返す。そんなやり取りを見ていたローズは、店主の気がなぜ変わったのかはわからないが、しかし良かったと安堵の表情を浮かべた。
「それじゃ、明日よろしくお願いします」
「あぁ」
ジュラードが店主にそう声をかけ、店主が返事をすると、ジュラードに抱えられて大人しくしていたうさこが「きゅ~」と嬉しそうに声を上げる。店主はうさこに視線を落とし、「ゼラチンうさぎを相棒にしてるのか」と笑った。
「あ、相棒ではないです!」
「きゅううううう!」
否定するジュラードと、否定する彼を怒るうさこの声が店内に響き、店主はおかしそうに笑う。「おもしれぇな、お前」と、店主はジュラードに言った。
『面白い』と言われてどう返したらいいのか困惑するジュラードは、一先ずうさこを撫でてなだめつつ、この後のことを考える。
「ローズ、食事はもう終わりか?」
酒飲み対決で中断していた食事についてを彼女に問うと、ローズは「あ、そうだな」と周囲を見渡して考えた。
「ええと、まぁ……もうみんなお腹いっぱいなんじゃないかな?」
酒飲み対決中も一人で黙々と肉を食べていたエルミラは満足そうに横になっているし、アゲハとフェリードも完全に食事する手を止めている。
一方酒飲み対決に参加したものたちは、もはや食事できるような状態ではない。はっきり言ってひどい有様だ。
「ジュラードはまだ食べるか?」
「いや、いい。でも……」
ローズの問いにジュラードは首を横に振り、そして彼女に続いて周囲を見渡して表情を曇らせた。
「どうやってこの後、宿に帰るんだ?」
「……」
ジュラードの問いかけに、思わずローズは無言になる。マヤも彼女の肩の上で「どうしましょうね」とため息交じりに言った。
「う、うぅ……小人さん、俺ぁトウコのことを思ってだな……やめてくれ、そんな責めないでっ……」
「らぷらー、私ねむくなってきちゃったからぁ、一緒にねよぉ~! あはははっ!」
「はーい、いいですよ~! 一緒に寝ましょうね~!」
完全に正気を失っているのが約二名と。
「……」
「けーき、ばいきんぐ……むぅ……」
深い眠りについているのが二名。
「こ、困りましたね……どうしましょう? とくに寝ちゃっている方は……」
「ここに置いていけばぁ?」
アゲハの言葉に続いて、考えるのが面倒になったエルミラの非情な一言が続く。それに対してローズは「そんなわけにはいかないだろう」と返し、店主も「酔っ払いは責任もって持ち帰ってくれ」と言う。ローズは深いため息を吐き、「な、なんとか持ち帰ります……」と力なく店主に返事をした。
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