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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 27




 勝負が開始されると、挑戦者と店主は同じペースで一杯ずつ酒の注がれたジョッキを空にしていく。六人が順調に酒を消費していくので、アシスタントとして駆り出されたローズとジュラードは忙しく酒の追加を用意する羽目になった。


「と、これで6杯! ……なんか単調でつまんねーなぁ」


 6杯目のジョッキを一気飲みして空にしたユーリは、直後にそんな言葉を漏らす。ちなみにユーリを含めて全員、まだこれくらいでは全然平気そうな様子だった。


「まぁ、確かに単調だけども……これはこういう勝負なのでは?」


 ユーリのつまらなそうな呟きを受けてウネがそう言葉を返す。ユーリは「それはそーだけどよぉ」と、忙しそうに次の酒を準備しているローズたちを眺めながら言った。


「確かにこの程度のお酒じゃ全然酔わないよね、私たち」


 アルコール分解能力がバケモノレベルの猛者がそろっているので、イリスも思わずそんな言葉を漏らす。彼は「ただ、お腹いっぱいにはなるな……」と、言って店主を見た。


「ねぇ、もっと強いお酒無いのかな? さすがにこれじゃ酔う前にお腹いっぱいで飲めなくなっちゃうよ」


 イリスの言葉を聞き、店主は挑戦者たちの様子を眺める。彼はしばらく考えた後、「そうだな」と何か納得したように一人頷いた。


「わかった。お前たちの様子を見るに……確かにこの程度の酒じゃ勝負はつかなそうだ。……ちょっと待ってろ」


 店主はそう言うとまた店の奥へと引っ込んでいく。彼の後姿を見ながら、そんなに苦いお酒は好きじゃないらしいアーリィは「出来れば甘いお酒がいい」と呟いた。


「っていうかお前たち、本当にまだ平気なのか?」


 まだ全然平気そうな顔をする挑戦者たちに、ジュラードがちょっと畏怖の念を込めてそう声をかける。今まで散々飲んでいたユーリだけ少し顔色が朱に染まっていたが、酔っている様子はない。他の者に関しては顔色さえ変わっていなかった。


「あぁ、よゆーだな」


「うん」


「そうだね」


 それぞれユーリ、アーリィ、イリスの返事を聞き、ジュラードは怖いものを見る目で彼らを見返す。そして自分ももしかしたらお酒に対してあんな狂人的な耐久があるのだろうかと、それを想像して自分が怖くなった。


「あ、でもローズタイプの可能性もあるらしいし……」


「私がどうかしたか、ジュラード」


「な、何でもない」


 疑問の表情を向けるローズにジュラードが慌ててそう言葉を返すと、ローズがさらに疑問を問う前に店主の男が戻ってくる。彼は今度は500リットルサイズの木樽を一つ、肩に抱えて持ってきた。


「待たせたな」


 店主はゴトッっと大きな音を鳴らして、床に木樽を置く。そして木樽の蓋を開けた。途端に周囲に漂う、凄まじい甘ったるい香り。


「あ、なんだか美味しそうな匂い……」


「ゲッ……なんだその甘そうな酒の匂い……つーかこの匂い、酒か?」


 周囲に漂ったまるで蜜のような甘そうな香りに、甘いお酒を求めていたアーリィが嬉しそうな笑顔と変わる。反対に甘いものが苦手なユーリの表情は嫌そうに歪んだ。


「なんだか嗅いだことのない香りのお酒だね……すごく甘そう」


 店主が持ってきた謎の酒に対して、イリスがそんな感想を漏らす。そして彼も知らない謎の酒に対して、その匂いを嗅いだラプラとウネが何か驚く表情を浮かべて不可解な呟きを漏らした。


「こ、この匂いは……いや、まさかそんな……」


「いえ、これは確かにアレの匂い……なぜ”あの飲み物”がこんなところに……?」


「? ウネ、ラプラ、どうしたの?」


 何か焦った様子をなった魔族二人に気づいたイリスがそう彼らに声をかけるが、二人はよほど動揺しているのか酒と店主を見たまま固まっている。イリスは怪訝な表情を浮かべたが、次の瞬間「さて、次はこの酒でいくか」と声を発した店主へ視線を戻した。


「おっさん、その甘ったるそうな酒は一体なんだ?」


 ユーリが苦い表情でそう問うと、店主はにやりと笑って彼にこう言葉を返す。


「こいつは特別な秘蔵酒だ。レアものだぞ」


「美味しそう。早く飲みたい」


 甘い香りに誘われてアーリィがそうキラキラした眼差しを向ける。すると店主は「これはたしかに甘くてうまいが、しかしかなりきつい酒だから気を付けろよ」と返した。


「へー、どれくらい強いお酒なの?」


 イリスも興味を持ったふうにそう問うと、店主はにやりと笑んだまま「それは教えられん」と返す。


「しかし、うちにある酒で一番強い酒だ。これを飲んで正気でいられた客はほぼいないな」


 店主のその説明を聞き、ローズは「ちょっとそれはやばいんじゃないか?」と不安げな表情を浮かべる。彼女の肩に乗ったマヤは謎の酒に興味があるようで、「気になるわね」と酒樽の中に視線を向けた。

 酒樽の中には少し赤みがかった琥珀色の液体が、不可解なほどに強烈な甘い香りを発しながら入っている。匂いが強烈なこと以外は普通の飲み物に見えた。


「それじゃあこれを配るぞ。……最後に確認だが、本当にいいんだな?」


 ジョッキに謎の酒を注ぎながら、店主がそう気になる問いを挑戦者たちに向ける。なんだか少し嫌な予感がしたユーリたちだが、しかし今更後には引けない。それぞれに神妙な面持ちで店主の問いに対して頷いた。


「うっ……本当にすげぇ甘い匂いだな……なんだこりゃ」


 手渡されたジョッキから発せられる強烈な香りに、ユーリが顔を顰めながらそう言葉を漏らす。彼に続いて酒をもらったアーリィは早く飲みたそうなうっとりとした表情でひたすら匂いを嗅いでいた。


「うーん……甘いものは嫌いじゃないけど、これは飲み続けるのは大変そう」


 まるで蜂蜜と果物に砂糖を追加して煮詰めて発酵させたような香りを漂わせる酒に、イリスもそれを受け取りつつ少し苦い表情を浮かべる。すると隣でラプラが心配した表情で、彼らしくない警告をイリスに告げた。


「……イリス、あの……あなたは飲まない方がいいかもしれません」


「え?」


 思いもよらないことを告げるラプラに、イリスは思わずぎょっとしながら彼に視線を向ける。すると彼は深くかぶったフードの下で、ひどく思いつめた表情でイリスを見返していた。


「え、なにラプラ、あなたがそんな顔するなんてすごい怖いんだけど……」


「えぇ……私も正直恐ろしいですよ。これを飲んだら、あなたたちがどうなってしまうのか……」


 不吉すぎることを言うラプラが怖くて、イリスは「何なの?」と怯える。そしてなんとなくウネに視線を向けると、彼女もまた盲目の眼差しを心配そうにジョッキに向けて俯いていた。


「え、ウネまで怖い! なんかすごい嫌な予感がする!」


「……私も嫌な予感がするわ。このお酒はたぶん、アレだから……私やラプラは飲んだことがあるからいいけど、でも……」

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