浄化 25
「……酒飲み対決、ねぇ」
ローズから話を聞き、イリスが苦い表情で考える様子を見せる。そしてアゲハは「お酒、私そんなに飲めないですっ!」と申し訳なさそうに言った。
「大丈夫、自信がある人だけチャレンジでいいんだ! とくにラプラ、ウネ、どうだ?!」
期待大の魔族二人へ向けて、ローズがそうキラキラした眼差しを向けて問う。するとラプラとウネは互いに顔を見合わせ、そしてそろってローズに視線を移した。
「我々ですか?」
「お酒は飲めるけれども……でも、普段あまり飲まないわ」
「え、そうなのか?」
先ほどまで『勝てる!』と思っていたローズだが、二人の反応を見てちょっと『あれ?』という反応に変わる。ちょっと心配になったローズだが、期待を込めて「けど、飲めるよな?」と聞いた。
「まぁ、それなりに……魔族でアルコールを嗜む者は少ないですけどね」
「そうね。高揚した気分になりたかったら、もっと別の……強いのを飲むから」
二人の会話を聞いて、ローズは「別の強いのって何なんだ」と怖くなる。ラプラは薄く笑い、「アレは危険ですから普通の方は飲まない方がいいですよ」と答えになっていない答えをローズへ返した。
「えぇ、アレは危険よね……」
「たまに飲みたくなりますけどね。研究に行き詰った時などに……」
「それはわかるわ。私もストレスがたまったら……少し飲みたくなる」
「うぅ、いったい何を飲むんだ……で、でもこれでわかった! やっぱりウネもラプラも期待できるな! 頼む、参加してくれ!」
ローズに本気で懇願され、ラプラとウネは少し気乗りしない様子だったが、それぞれに「まぁ、いいでしょう」「いいわ」と返事を返す。二人の返事を聞き、ローズの表情がぱっと笑顔に変わった。
「あぁ、よかった! じゃあ、あとは……」
「二人が参加するなら、私はパスしていいよね?」
にこにこと圧力ある笑顔でイリスがそうローズに声をかけると、なんだか彼の笑顔に怖いものを感じたローズは思わず「あ、あぁ」と頷く。それを聞き、イリスは「よかった」と呟いた。
「面倒なことは遠慮願いたいからね」
イリスがほっとしたようにそう言葉を漏らすと、すかさずユーリがこんなことを言った。
「へぇ、自信がないんだな。腰抜け野郎」
「……はあぁ?!」
にやにやと挑発するような笑みで余計なことをつぶやいたユーリに、イリスは「誰が腰抜けだよ」と怖い顔を向ける。見事に挑発されたイリスに、ユーリは表情を変えずに「おっと、聞こえてたか?」と返した。
「わりぃわりぃ、勝負する自信もない臆病者さんには聞こえないように言ったつもりだったんだけどな~」
イリスへ挑発を続けるユーリの隣で、エルミラが蒼い顔色で怯える。エルミラは「ユーリ、レイリスを挑発するなんて命知らず過ぎるよ……」と囁いたが、ユーリは全く意に介さない様子だった。
そして見事挑発されたイリスは、悪魔のような形相でユーリを睨みつけて一言。
「私もやる」
「えー? 自信無いんだろ? やめとけよ~」
げらげら笑うユーリに、イリスは「てめぇを泣かす、ユーリ」と吐き捨てる。そうしてあっさりと彼も参加となった。
「絶対負けない。っていうか、ユーリには負けないから」
「お、おぉ……できれば店主に勝ってほしいんだけども……でも、頼もしいな」
ユーリとにらみ合うイリスにローズはそう感想を呟き、そして残る一人に視線を向ける。
「フェリードは……」
「僕は遠慮しておきます。二日酔いにでもなって明日の仕事に支障が出るといけないので。皆さん頑張って」
予想通りの返事が返ってきて、ローズは「わかった」と彼に頷いた。
そして……――
「なるほど、今日俺に挑戦する愚か者はお前たちか」
そう言って笑うのは、ユーリとエルミラに散々肉と酒を注文されて忙しそうに作業していた店主である大男だ。
彼はローズの呼びかけでテーブルへとやってきて、彼女から挑戦の話を聞くとそんな言葉を返したのだった。
「言っとくが、俺はこの挑戦で一回も負けたことがねぇ。それでも、本当に挑むんだな?」
ユエのような巨人族の末裔なんじゃないかと思うくらいに大きい彼は、2メートルは軽く超える身長で威圧感たっぷりに野性的に笑う。その彼の迫力に、ローズは別に挑戦者というわけでもないのに『やっぱ無理かも』と怯えた。
「おっちゃん、手加減してあげてね!」
店主と仲が良いらしいエルミラがそう声をかけるも、店主は「いや、手加減なんてしねぇぞ」と返す。
「これは男同士の真剣勝負だからな」
「女性もいるわよ」
ウネがそう突っ込みを入れると、店主は「女性相手でも手加減はしねぇ」と返した。
「ま、まぁ別に手加減はいいのだけど……」
「あぁ、手加減はしねぇが、無理はするなよ」
店主はそうウネに告げ、そして改めて挑戦者たちを見た。
「よし、今回挑戦するのはいちに、さん……五人だな」
挑戦するのはユーリ、アーリィ、ラプラ、ウネ、イリスの五人。そして残るローズたちは応援のために、彼らを見守ることにする。
「エルミラはやんねーの?」
店主が参加者を確認する最中、ふとユーリがそうエルミラに問うと、応援側に移動したエルミラは「オレ、フツーのアルコール耐性しか無いもん」と首を横に振った。
「バケモノ耐性の人たちと同じペースで飲んだら急性アルコール中毒で死んじゃう。お酒は美味しくマイペースに楽しみたいよね!」
「ふーん……つまんねーの」