浄化 24
ローズが視線を向けたその先にあったものは。
「挑戦者求む、店主と酒飲み対決……」
「勝ったらお代タダ……」
ローズとジュラードがそれぞれそう、アーリィが指さした先にあった壁の張り紙を読む。そしてマヤが「あら、ローズの悩みを解決する方法があってよかったわね」と感想を呟いた。
「……お代タダっ!」
ローズはガバっと勢いよく立ち上がり、彼女は現在進行形でがぶがぶ酒を消費するユーリに視線を向ける。そして「ユーリ!」と彼を呼んだ。
「あ、なんだローズ。肉は早いもん勝ちだぞ。お前あんまり食ってねぇからって、俺に文句言うなよ?」
「違う! お前酒大好きだよな! アレ、アレにチャレンジしてくれ!」
「あー?」
ローズに声をかけられ、ユーリも彼女が指さすものに視線を向ける。ついでにエルミラも「なーに?」と言いながら張り紙を見た。
「店主と酒飲み対決で買ったらここのお代がタダになるらしいぞ! な、ユーリ、お前酒それなりに強いし頑張ってくれ!」
「ん~? ……お、酒飲めてお代もタダになるなんてサイコーじゃねぇか」
ローズの頼みを聞いて、ユーリは「いいぜ」と返事する。しかしその隣でエルミラが苦い表情を浮かべて「止めた方がいいよ」と言った。エルミラのその言葉を聞き、ユーリは「なんでだよ」と怪訝な表情で問いを向ける。ローズとジュラードも同じ表情をエルミラに向け、エルミラは彼らにこう説明した。
「おっちゃん、すごい酒に強いことで有名らしいから。絶対勝てないって聞いたよ」
「そんなにすごいのか?」
ジュラードが半信半疑というふうに問うと、エルミラは神妙な面持ちで頷く。
「お酒の強さに自信がある強者たちが今まで挑戦したけど、誰一人勝てなかったって。めっちゃヤバイよ」
「マジか……すげぇな」
エルミラの言葉にユーリも思わず険しい表情を浮かべる。しかし彼は次の瞬間、「でも酒飲めるならチャレンジだけでもすっかな~」と気楽に言った。
「えぇ、チャレンジするの? あのさ、勝てる自信があるならいいけど、アレよく見て……?」
心配そうな表情を浮かべるエルミラは、再度張り紙を指さす。ユーリは「なんだ?」と首を傾げつつ、張り紙をよーく読んだ。
「……ただし負けた場合、勝負に使った酒代は挑戦者の負担とする」
「支払い金額が増えるってことか!」
張り紙に書かれていた注意書きをユーリが読むと、ローズの表情が再び絶望した表情となった。
「ど、どうしよう……勝てば天国、負ければ地獄って感じだ……」
顔色を悪くしてまた頭を抱えるローズに、マヤが「アタシが元の体だったらチャレンジするんだけどね~」と言う。確かにユーリよりも酒に強い彼女なら、勝機はあったかもしれないとローズはため息を吐いた。
「私はそんなにお酒強くないし……」
「俺はそもそも飲めないな」
ローズの呟きを横で聞き、ジュラードもそう言葉を続ける。するとアーリィが「じゃあ、私もチャレンジする」と手を挙げた。
「え、アーリィ、いいのか?」
ローズが視線を向けると、アーリィは「うん」と頷く。
「何人でもチャレンジしていいんでしょう? 私もチャレンジする。お酒に強いし」
「た、確かに勝負は一対一とは書いてないな……何人でもいいのか」
アーリィの指摘に、ローズは「つまり誰か一人でも勝てば……!」と再び希望を得た表情と変わる。しかしマヤは内心で『チャレンジ人数が増えるほど酒の消費が増えて、負けた時のリスクが高まるんじゃないかな』と思ったが、それを言うとローズがまた泣きそうになってしまうと思ったので黙っておいた。
「そうだ、こっちは人数が多い! よし、みんなでチャレンジしよう! あ、もちろん酒の強さに自信がある人だけで、だけどな!」
「あと、未成年はダメ」
力強いローズの言葉に続けて、アーリィがジュラードを見ながらそう続ける。ジュラードは「言われなくても俺は飲めないと思うから遠慮する」とアーリィに言葉を返した。するとマヤがジュラードへとこう言葉を向ける。
「そうかしら? ローズは珍しい例外だけど、基本的にゲシュはお酒に強い人が多いからジュラードもいい戦力になると思うけど」
「えぇ? でも、別に俺は……飲みたいとは思わないし……」
ローズ以上に生真面目なジュラードなので、マヤにそう言われても『じゃあ飲む』とは返事が出来ない。そんな彼にマヤは「ま、止めといたほうが無難か」と言い、ジュラードは安堵にホッと胸を撫でおろした。
「でも、なんでゲシュはお酒に強いんだ?」
気になった疑問をジュラードが問うと、マヤは「ゲシュっていうか、魔族が強いの」と答える。
「魔族が基本的にアルコールに強いのよ。だからゲシュもそれなりに強いってわけ」
「そうなのか……じゃあ」
ジュラードはちらりと隣のテーブルに視線を向ける。マヤも同じように視線を向けて、「そうね、もしかしたら彼らもいい戦力になるでしょうね」と言った。
「そうだな! こっちには魔族が二人もいるんだ、いける! 勝てるな!」
大声で言ってはいけないことを思わず大声で言っちゃうほど、今のローズは会計の心配で頭がいっぱいいっぱいだった。そして彼女は隣のテーブルで食事するイリスたちに声をかける。
「なぁ、ちょっと相談があるんだ!」
突然ローズに声をかけられ、イリスたちは彼女に視線を向ける。代表してイリスが「どうしたの?」と聞くと、ローズは彼らに今の話を説明した。