浄化 17
アーリィ、マヤ二人のそれぞれの返事を聞き、ローズはもう一度「頼んだ」と告げる。そして本当にいつでも頼もしい仲間だと、ローズはふとそんなことを思った。
「ところでアーリィ、この後夕食だというのにそんなにお菓子を食べて平気なのか?」
むしゃむしゃとクッキーを頬張るアーリィを見て、ローズが少し心配した表情で問いかける。マヤもそれは気になっていたようで、「アタシもソレを心配してた」と呟いた。
まるで過保護な両親かのような二人の心配に対して、アーリィは真顔で「平気」と答える。
「全然いける」
「そ、そうか……」
「むしろ、みんなで何食べるのか楽しみ……」
そんなことをつぶやいたアーリィは、本当に楽しみだというふうに僅かに微笑む。そんな彼女の自然な表情を見て、ローズも思わず笑みを零した。
「それは、そうだな。ジュラードと出会ってから大人数で行動することが多かったけど、やっぱりみんなが居ると賑やかで楽しいな」
長くマヤと二人で旅をしていたローズは、それまでの静かな旅と今の賑やかさを比べてそんな感想を口にする。
もちろん大好きなマヤと二人で一緒にいられることは何よりの幸せではあるが、しかし大人数での賑やかさもまた心地よいものだ。少年期の内気な自分であったら考えられないような感想ではあるが、そんなふうに思えるということは自分も成長して変わったのだとローズは思った。
するとローズの言葉を聞いたアーリィは、きょとんとした顔でローズを見返してこう言う。
「え、私はご飯の方を楽しみって言ったのだけど……」
「え、そっち? そ、そんなに食べてて、やっぱりご飯が楽しみなのか……」
何かアーリィとかみ合っていなかったようで、ローズは苦笑する。しかしアーリィも少し考えた表情の後、「まぁ、私もみんなと話すのは楽しいと感じる」と答えた。
「ローズやマヤとも、ジュラードのことがあって、こうしてまた一緒に行動できてうれしいし」
「あーらアーリィ、嬉しいこと言ってくれるわね~」
マヤはアーリィの傍に飛んでいき、「アタシも嬉しいわよ~」とアーリィの頬をつつく。それにアーリィはくすぐったそうに笑った。
そんな二人の様子を見ていたローズも、同じ笑顔を浮かべる。ただ、嬉しいからこそ先日ジュラードが言っていた『別れ』が脳裏を過ぎり、一抹の寂しさも胸に感じた。
「……今生の別れというわけではないのだから、そんな寂しく感じることもないのだけど」
「ローズ、どうしたの?」
思わずつぶやいてしまった独り言をマヤに問われ、ローズは慌てて「何でもない」と返す。そして彼女は誤魔化すようにこう二人に聞いた。
「でも、ご飯も楽しみだな。エルミラが『オススメの店がある』とも言ってたけど……今日はそこでご飯かな?」
「オススメってなんだろう……甘いもの食べたい」
「それだけクッキーとか食べておきながら、まだ甘いものを食べたいのね、アーリィは……」
「はははっ。まぁ、俺も甘いものは好きだし、別に夕飯がそれでもいいけど」
「この甘党どもめ。アタシは別に食べなくてもいいから、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど……でも、どんなお店かしらねぇ」
「おっちゃん、肉足りないや! あと10皿くらい追加してー!」
「あ、ついでに麦酒を瓶で5本なっ!」
店内の喧噪に負けない大きさで響くエルミラとユーリの声。
店はそこそこの広さの店内だが、大人数で押しかけた彼らによって半分近くほどを占領されている。
「さー、ジャンジャン肉焼いて食べよーねーっ! つーかオレがめっちゃ食うよ! ぼさっとしてるとオレが全部食べちゃうからね!」
「や、やきにくか……」
お肉をお腹いっぱい食べれそうで嬉しいのか、トングをカチカチ鳴らしながら張り切るエルミラの声を聞き、目の前で熱くなる鉄板を見つめながらローズがぽつりと呟く。彼女の肩ではマヤが「甘いものじゃなかったわね」と、どこか残念そうなローズに声をかけていた。
エルミラの『おすすめ』で夕食を食べに来たジュラードたちがやってきたのは、大人数でも食事が可能な焼き肉店であった。店主である中年の男性はエルミラと親しいのか、エルミラが「おっちゃん、ご飯食べに来た! 10人で!」と言いながら団体で押しかけた彼らを快く受け入れ、そして現在に至る。
「エルミラさん、よっぽど焼き肉食べたかったんですね……」
「そのようですね……」
一つのテーブルでは収まらないので二つのテーブルに別れ、その一方のテーブルで向かい合わせに座ったアゲハとフェリードが、いつかのお昼での出来事を思い出してそんな会話をする。そんな二人の隣でウネが「これはどういう食事なのかしら」と首を傾げた。




