浄化 16
「それでマヤ、薬の調合とは具体的にどのように行うんだ?」
研究所を後にしてアーリィ、マヤと共に宿に戻ったローズは、荷物を整理しながらそう彼女へと問いを向ける。
マヤはアーリィが自分が飲むように用意した紅茶のカップのふちに腰掛け、ローズの問いに考える様子を見せながらこんな言葉を返した。
「アタシも詳しくはわからないんだけどぉ」
「え、わからないのか?!」
驚いたローズは思わず荷物を整理していた手を止める。そんなローズを見てマヤはなぜか可笑しそうに笑った。
「まー、でも調合の方法は本にあったし、魔法薬作るような感じだったわよ」
一瞬少し不安になったローズだが、マヤのその返事を聞いて安心した表情を浮かべた。
「あ、そうなんだ……そうだよな、うん」
「そうそう、だから大丈夫よん」
アーリィが紅茶を飲みたそうにしていたのでマヤはカップから降り、少々難しい顔で「ただ、作ったことない薬だから上手くいくかはわからないけど」と呟く。
「そうだね……作り方はあっても、うまくいくか心配……」
アーリィまでもが自信の無さそうなことを言うので、一度は安心したローズだが、その表情は再び不安に変わる。
「えぇ……そんな、アーリィまで」
ローズは不安そうな表情のまま、「そんなに調合って難しいのか?」と問う。普段のアーリィの様子からは簡単に魔法薬の調合をしているように見えたのだが、実際は難しいものだったのだろうか。するとアーリィはローズにこう返事を返した。
「初めてのものは難しい。だってやったことが無いんだから、成功するかわからない」
「あ、まぁ、そうだよな……」
アーリィの言葉を聞いて、ローズは納得する反応を示す。そして彼女はアーリィとマヤ、二人にこう聞いた。
「何か俺が手伝えることはあるだろうか」
「ん、ローズが? ……そうねぇ」
魔法薬の調合にはあまり詳しくはないので役には立てないだろうとは思いつつ、ローズは「出来ることがあればなんでもするよ」と声をかける。そんな彼女の言葉を聞き、マヤはにやりと妖しい笑みを返した。
「なんでも?」
「え、あ、あぁ……」
マヤの笑顔がちょっと怖くて、ローズは狼狽えながら頷く。そして彼女は『なんでも』と言ったことをすぐに後悔した。
「わかったわ、じゃあローズには応援を頼もうかなっ!」
「お、おうえん……?」
「そう、応援! もちろんふつーの応援じゃアタシは満足しないわよ。ほら、可愛いチアリーダーの恰好してもらってぇ」
「……それは何か意味があるのか?」
呆れた眼差しを向けてくるローズに、マヤは力強く「すごい意味があるわよ!」と返す。二人のいつもどおりのやり取りが始まり、アーリィはお菓子を食べながら二人を傍観した。
「アタシがやる気を出すわ! それってすごい大切なことでしょう?!」
「そうだな、すごく大事だ。しかし、そんな応援をしなくてもやる気を出してほしいんだが……」
「もちろん最善は尽くすわよぉ。でもでもぉ、いくらアタシだってやっぱり初めてのことは自信無いって言うかさ~。とっても不安だから、ローズに応援してもらいたいのよぅ」
「本当にそうだろうか……」
なおも疑惑の目で自分を見てくるローズに、マヤは「ローズぅ」と甘えた声を向ける。ローズは大きくため息を吐き、「変な格好はしないけど」と前置きしてから彼女にこう告げた。
「俺はいつでもお前のことを応援しているよ、マヤ。だから今回もお前についていくんだし」
「……もー、そんな言葉で満足するマヤちゃんじゃ」
『ないんだから』と続けようとしたマヤだが、しかしローズが優しい笑みを向けると「ま、まぁいいわ」と言って顔をそむける。そんなマヤを見て、黙って二人のやり取りを見ていたアーリィがふと「マヤ、顔が赤い」と言った。
「そ、そんなことないわよぅ! 気のせいよ、気のせい!」
「そう? 照れてるのかと思ったのだけど」
「照れてないわ! ローズの可愛い笑顔なんて見慣れてるし! まぁでも、何度見てもいいものよね! それは認めるわ!」
「マヤ、お前なに言ってるんだ……」
テンパっているのか妙なことを言うマヤに苦笑し、ローズはアーリィに視線を移す。そして彼女は「まぁ、俺が心配しても仕方ないか」と呟くように言った。
「薬の調合は二人に任せるよ。さっきも言ったけど、俺に手伝えることがあれば言ってくれ」
「うん、わかった」
「りょーかいよん」