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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 11

 ユーリの中で思い出と一言で片づけるにはまだ時間がかかりそうな『ユトナ』との関係は、エルミラも事情を理解しているのだろう。彼はユーリに気遣う様子を見せ、「ごめんね」ともう一度言った。

 どう返していいのかわからないユーリが曖昧に沈黙すると、僅かに笑みながらエルミラが言葉を続ける。


「まぁ、オレもユトナとはけっこー仲良かったからさー。よくあいつ、オレが過去に彼女いたことに勝手にキレたり、その話の度に『俺は負け組じゃねー!』とか言ってたから」


「……ははっ。なんだそりゃ」


 エルミラの話に小さく笑い、「アイツ、バカだな」とユーリは言う。エルミラも同じ笑顔で「バカだったよー」と同意した。


「でもさ、嫌いじゃなかったよ。バカだから命がけでジューザスを助けてさ、勝手に死んでカナリティアさん悲しませて……でも、あいつのそーいう真っすぐなとこ、オレはけっこー好きだったかも」


 どこか遠くを見つめるエルミラの眼差しは、優しい感情の中に少しの哀愁を含んでいた。珍しい彼のそんな様子を横目で見つつ、ユーリは小さく「そうか」と頷く。


「なー、ユーリはユトナのこと、好きだった?」


「……変な質問すんなよ。好きなわけねぇだろ、あんなバカ」


 目を合わさずにそう返答するユーリに、エルミラは小さく笑いながら「素直じゃないね」と言う。ユーリは一瞬不機嫌そうな表情を浮かべたが、何も言い返すことはしなかった。

 エルミラは僅かに目を伏せ、「オレ、たまに考えるんだ」と小さく呟く。伏せられた蒼い眼差しには、わずかに睫毛が暗く影を落として彼の心情を隠していた。


「へぇ、なにを?」


「あの時、ジューザスを助けることを決断したユトナの気持ちだよ。あいつ、あの状況で自分が魔法を使ったら死ぬってことを知ってたんだろ?」


 エルミラの言葉を聞きながら、ユーリもそれについてを思考の片隅で考える。

 ユトナ自身、自分が受けた実験のことは知っていただろう。彼が得たという魔法の力が欠陥品であり、その使用には大きな制限があることも。

 それでも彼はその能力が使えるよう、治癒の為の古代呪語を覚えていた。それはいつかその力で、自分の命を犠牲にしてでも誰かを救うことがあると予想していたからだろうか。あるいはそういう決意をしていた、ということかもしれない。それが『二度目の審判』のあの日、あの場所であっただけで。


「死ぬとわかってて、なんで……ジューザスを助けたんだろう、あいつ」


「……。」


 何も答えないユーリを気にすることなく、エルミラは独白のような言葉を続ける。


「オレ、さっきも言ったとおり命がけで誰かを助けるようなユトナのバカなトコは好きだったけどさ……でも、オレはあいつに生きてほしかったな」


「エルミラ……」


 ユーリがエルミラに視線を向けると、エルミラは彼らしくない寂しい笑顔で彼を見返した。


「ヴァイゼスが無くなってもこーやってフツーにあいつと並んで歩いて、もっとくっだらないバカな話をしたかったよ、オレ」


 かつてはユトナと親友であったが、ヴァイゼスを途中で抜けたユーリは、その後のユトナのことをよく知らない。けれども今こうして過去の友人を語るエルミラを見て、その後のユトナの姿の一端を見た気がした。きっと自分を憎むようになったこと以外は、彼は自分が知っていた頃と変わらず、エルミラのような身近な友人と何気ない話を交わして暮らしていたのだろう。

 自分を憎んでいるだけじゃないユトナの姿を知れたことに、無意識にユーリは安堵の息を吐く。そんな彼にエルミラは、寂しい笑顔のままで問いかけた。


「ユーリだってそうじゃない?」


「……まぁな」


 エルミラに問われて、今度はなんとなく素直な返事がユーリの口から洩れる。

 返事をしつつ、ユーリは過去の痛みと思い出を半々に思いながら目を細める。もしかしたら、今こうして隣を歩くのがユトナであった未来もあったのかもしれないと、そんなことを考えて、すぐにくだらないと僅かに首を横に振った。


「いや、でも……自分の命をかけてジューザスを助けたのは、ユトナが選んだことだから。それはせめて認めてやろうぜ」


「あぁ、それはわかってるよ。クールなふりしてさ、ホントはそーいう選択を迷いなく選んじゃう熱いユトナの性格は好きだったって、そう今言っただろ~」


 エルミラは自身の赤毛をくしゃりと掻き上げ、「オレにはできないよ」と自嘲気味に呟く。それにユーリは何も答えず、ただ黙ってまっすぐ前を見た。


「ホント、マネできない。マネできないから今こうしてオレは生きていて、あいつはここにいないんだろうな」


 エルミラの呟きに、ユーリは前を見たまま「そうだな」と小さく返事を返す。彼の呟きが、あの二度目の『審判の日』という境を超えて、自分たちが今生きていることの理由の一つなのかもしれない。

 エルミラは寂しい眼差しのままユーリに視線を向け、数秒の間の後に彼はいつもの笑顔を表情に浮かべた。


「なんて、少し寂しい話しちゃったねー! で、そうする? どこを案内すればいい?」

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