浄化 10
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ローズたちと分かれて一足先に先に中央医学研究学会へと戻ったフェイリスは、ヴォ・ルシェの瞳を入手したことを会長のロンゾウェルへと報告し、その後は通常の業務へと戻っていた。
「あら、ジューザス様ではありませんか」
学会の建物内の廊下を歩いていると、向かいからやってくるジューザスの姿を見つけてフェイリスは声をかける。
「あぁ、フェイリスさん」
ジューザスはフェイリスの前まで歩むと立ち止まり、彼女へ笑顔を返す。そうして彼は「戻っていたんですね」とフェイリスに言った。
「はい、無事に戻ることが出来ました」
「その様子だと、ローズ君たちとドラゴンの瞳を手に入れたのでしょうか」
にっこりと微笑むフェイリスの態度を見て、ジュラードはそう彼女へと問いを向ける。するとフェイリスは妖艶な笑みはそのままに、静かに頷いた。
「ジューザス様もグラスドールを入手して……その後はフラメジュを受け取りに行っていたとお聞きしました」
「あぁ、そうなんです。今、ちょうどフラメジュを会長さんに渡してきました」
フェイリスの言葉にそう返事を返し、「残りの材料はマナ水ですかね」とジューザスは確認するように言う。
「はい、入手が難しいものに関してはそうですね」
「フラメジュを取りに行く途中でマナ水開発の様子を見に行ってきましたが、順調そうだったのでそちらも問題ないでしょう」
ジューザスの報告にフェイリスは微笑み、「それは安心しました」と答える。そして彼女はジューザスへこう聞いた。
「ジューザス様はこの後いかがなされるのでしょう?」
「あぁ、私はお使いも終わったことだし、一先ず一度家に帰り……たいところなんですが、別件の仕事が入りまして」
妊娠している妻のことを心配しつつも、しかしまだまだ仕事があるために家には帰れなさそうなジューザスはそう苦い顔で返事を返す。フェイリスは彼の心情を理解して「それは……お疲れ様です」と気遣う言葉を向けた。
「禍憑きを治す薬のことも、本当でしたら完成まで見届けたいのですが……」
「大丈夫ですよ。ローズさんたちの協力があればきっと完成します。また薬が出来ましたらお知らせいたしますよ」
にこりと微笑んでそう答えるフェイリスにジューザスも笑顔を返し、「よろしくお願いします」と彼女に言った。
「それでは私はこれで。ローズ君たちが来たら私の方の事情と、それと応援していることをお伝えください」
「はい、かしこまりました。道中、どうかお気をつけてくださいね」
深々と頭を下げるフェイリスにジューザスも軽く頭を下げ、そして彼は背を向けて足早に建物を後にした。
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一通り各人の今後の行動について話がまとまると、そろそろ日が暮れる時間ということもあり、本格的に次の行動へ移すのは明日以降にすることが決まる。
なので話し合いが終わると自由行動となり、ジュラードはうさこを連れてイリスと共に旅支度、ローズとマヤ、アーリィは研究所で”禍憑き”の治療薬調合についての話し合い、その他は各々食事の時間まで街を散策したり旅の準備をしたりで時間をつぶすこととなった。
「それでユーリ、オレにどんなお店案内してほしい? きれいなお姉さんと遊ぶちょっとエッチなお店? 残念だけどここって学術都市だからそういうお店少ないんだよね~」
僅かな余暇の時間、エルミラに案内を頼んで街中に繰り出したユーリは、隣でそう大声で問うてくるエルミラに顔を顰める。
「オイバカ、声でけーよ! 大体そういうお店はもう行かねぇって決めたの!」
「え、そーなの?」
「当然だろ! 俺は可愛い嫁がいる勝ち組だからな!」
「あははー」
力強く宣言するユーリに、エルミラは笑いながら不意にこんな言葉を漏らす。
「勝ち組って……なんかそーいう残念な発言聞くと、ユトナのアホを思い出す~」
「え?」
思いがけず耳にした『ユトナ』という名前に、ユーリは僅かに動揺した反応を示す。それに気づき、他意はなくその名を口にしたエルミラはハッとした様子で「あ、ごめん」と言った。
「いや、別に謝ることはねぇけど……つーか謝る意味がわかんねぇけど」
「あー、そだね。でもなんかユーリがびっくりした顔してたから、思わず?」