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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 8

 確かにラプラの言う通り、早く孤児院に戻ってユエと共に子どもたちの世話をする日常に戻りたかったイリスは、彼の言葉に頷いてみせる。しかし、一方で『いいのかな?』という気持ちもあり……。


「えーっと、別にもう私、やること無い感じかな? 本当に戻って大丈夫?」


 なんとなく今この場で一番権力がありそうなマヤに視線を向けてそうイリスが問うと、マヤは「ま、いいわよん」とあっさり返事を返した。


「あ、いいんだ。それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな……」


「よかったですね、イリス」


 ラプラが笑顔を向けると、やっと現状のやることがないニートみたいな立場から解放されることが素直に嬉しいらしいイリスも、「うん」と笑顔を返して頷く。その彼の笑顔に、ラプラは「あぁっ……」と変な声を上げてよろめいた。


「あぁ、本当にもう、どうしてあなたはそんなに可愛らしいのか……最高のご褒美ですっ」


「……。えっと、ジュラード、私は先に帰ってるけど、ユエたちにはジュラードは元気だよって伝えておくからね!」


 勝手に興奮して悶絶しているラプラを無視してイリスがそうジュラードに声をかけると、ジュラードは「はい、ありがとうございます」と彼に返す。


「でも先生、孤児院の周辺には魔物がまだいるので……その、大丈夫ですか?」


「え? あ、まもの……そっか……」


 ジュラードの言葉に、孤児院は孤児院でまだ周辺に魔物が徘徊していることを思い出したイリスが困った顔をする。すると先ほど『先に帰っていいよ』な許可を出したマヤが、優しい笑顔で彼にこう言った。


「イリス、あなたは先に孤児院に戻って、ラプラと一緒に魔物を退治しておいてちょうだい」


「ええぇー?!」


 マヤの唐突な無茶要求に、イリスは全力で嫌そうな反応を返す。ローズも思わず「それはマヤ、さすがにどうかと……」と苦言を漏らした。しかしマヤは「なんで?」と、なぜイリスが嫌がってローズが苦言を呈するのかわからないというふうに首を傾げる。


「いや、だって彼ら二人だけで倒しておいてなんて……」


「孤児院に戻るんなら、倒しておいてもらうほうがいいじゃない。どっちにしろ魔物倒さないと、戻っても安心できないでしょう~?」


 ローズとマヤのやり取りを聞いたイリスは、先ほど彼女が『帰ってもいいよ』な許可を出した意味を理解した。つまり、先に魔物退治をさせておこうと、初めからそのつもりでの帰宅許可だったのだろう。やはりそう簡単に女神様が下僕に自由を与えるわけも無かったかと、イリスは疲れた表情を浮かべた。


「む、無理じゃないかな、二人だけってのは……ラプラは強いだろうけどさ、私ってホントに魔物を相手にするのは苦手なんだよ……」


「大丈夫大丈夫、イケるイケる」


 無責任な笑顔をこちらに向けてくるマヤに、イリスは「イケない!」と無理であることを強く訴えた。


「わがままねぇ……子どもたちのセンセイなら、彼らのために頑張って魔物という脅威を排除してきなさいよ」


「わがままって……いや、魔物はどうにかしないとは、私もそう思うよ。人数の問題! せめてもう少し助っ人をくれない?」


 イリスがそう提案すると、マヤは少し考えた後に「いいわよ」と答えた。その彼女の返事に、イリスはほっと胸を撫でおろす。一方でせっかく二人きりになれそうだったラプラは、予定が狂ったとでもいうように小さく舌打ちをした。


「助っ人など……私一人でイリスを守りながら肉団子をすべて始末する自信があるのですけど」


「……って彼は言ってるけど、本当に助っ人いる?」


 ラプラの発言を耳にしたマヤが改めてイリスに問うと、イリスは「いる!」と力強く即答する。マヤは「じゃあ、薬の調合に不要そうな人を連れてってもいいわよ」と言ってユーリを見た。マヤと目が合ったユーリは嫌そうな顔で彼女を見返し、こう口を開く。


「おいマヤ、お前なんでこっち見るんだよ」


「言ったでしょう。薬の調合に役に立たなそうと言えば、真っ先に思いつく顔だったから」


 マヤのひどい言い分に、ユーリは「なんだとー!」と怒りの表情で文句を告げた。しかし薬の調合に役立てるかと言えば、ぶっちゃけ役には立たないと本人もそう思う。


「まぁ、たしかに俺はそーいうので役には立たねぇだろうけどよぉ……」


「じゃあ決まりね」


 嫌そうな顔をするユーリにマヤは決定したことを告げ、彼女はイリスへ視線を移す。


「で、助っ人はまだほしい?」


「っていうかユーリじゃあんまり役に立たないから、他に欲しい」


 イリスが真顔でそう要求すると、ユーリが怖い顔で彼を睨みながら「俺じゃ役に立たねぇってどーいうことだよ!」と言う。イリスは「えー、だって」と目を細め、こう説明した。


「ユーリ、私と同じタイプじゃん。徘徊している魔物って大型でしょ? 私もあんたも、大型の魔物は得意じゃないじゃん」


「ぐっ……」


 正しいイリスの言葉に言い返せず、ユーリは悔しそうな顔で彼を睨むことしかできない。確かにイリスもユーリも対人戦闘は得意だが、得物の関係で大型の魔物を相手にするのは苦手だ。


「まぁ、ユーリでもいないよりはマシだけど。荷物持ちとかで使えるし」


「ざけんなっ! 荷物なんて持たねーよ!」


 吠えるユーリを無視して、「とにかくもっと力ある人も一緒がいいんだけど」とイリスは言った。その彼の言葉を聞き、マヤは周囲を見渡してまた考える。


「そーねぇ……んじゃ、ジュラードもついてってあげたら?」


「え、俺か?」

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