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神化論 after  作者: ユズリ
浄化
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浄化 7

「しかし、良い経験になりましたよ。出来ればこの経験を生かして、エレでもウルズのマナを生成したいのですが……さすがにそれは難しいでしょうかね」


「魔物みたいに、わかりやすく『こっちの世界の生き物』ってのが無いらしいからね~、あっちの世界では」


 ラプラの呟きを聞き、エルミラは「あっちだと、ウルズのマナ抽出の実験に使える生き物はゲシュくらい?」と怖い発言をする。ラプラは苦笑いと共に「さすがにゲシュを材料にしたら倫理的な問題が発生します」と、まともな感性を持っているであろう発言を返した。


「だよねぇ。っていうかラプラってマッドサイエンティストか何かかと思ってたから、今マトモなこと言ってびっくりした」


 さらりと失礼な発言をするエルミラに、しかしラプラは気にする様子もなく薄く微笑んでこう言葉を返す。


「魔物からマナを抽出する方法を考えるあなたの方がよっぽどマッドですよ。私はごく普通の、善良な研究者の一人です。……しかし、ゲシュ差別が行き過ぎている国では彼らが実験材料になっているという噂も耳にしますが」


「うげー、マジ? 怖い……」


 ラプラの言葉にエルミラが嫌そうな顔をし、ゲシュであるローズとジュラードも同じ表情を浮かべる。彼らの反応を見て、ラプラは「あくまで噂ですよ」と微笑んだ。


「ふふ……当然私はそのような非人道的な実験には反対の立場ですし」


「へー、本当かなぁ……」


「反対と主張するわりには魔物を使役する術を習得したり、違法な禁呪に詳しかったり……気になることが多いけれども」


 友人であるウネにまで胡散臭いものを見る目で突っ込まれ、ラプラは「随分と私は信用されていないんですね」と苦笑する。


「本当に、表向きは普通を装っているんですけども……」


「表向きはフツーって言ってる時点でヤバイヤツ確定ね。ローズ、これからも彼には近づいちゃダメよ」


 マヤが一言で切って捨て、彼女はラプラが弁解するより先に「それで、このマナ水は今回薬を作るのに使っていいのね?」と問うて話を進めた。そしてマヤの問いには、エルミラが答える。


「うん、いいよー。フェリードたちもいくつか実験サンプルでほしいって言ってたから全部はダメだけども……まぁ二、三本は持ってっていいんじゃない?」


「二、三本? ケチくさいわね、十本くらいよこしなさいよ。こっちだってうまく調合出来るかわかんないんだから、余分に欲しいわ」


「え、ええぇ~……わかったよ、じゃあ十本持ってきなよ」


 マヤのどす低い声の脅しにあっけなく屈して、エルミラはマナ水の瓶を十本ほど箱から取り出して、「はい」とテーブルの上、ちょうどジュラードの前へと置いた。


「まぁ、また魔物捕まえてくればいくつでも作れるものだからいいけども……でも、大事に使ってねー?!」


「え、あ、あぁ……わかった。ありがとう」


 マナ水を受け取り、ジュラードは礼を口にする。彼は小瓶を改めてまじまじ見つめ、そして大事に荷物の中へと入れた。


「それで、この後はどうなさるのでしょう?」


 ジュラードがマナ水を受け取ったことを確認し、ラプラがそうローズたちへと視線を向けて問いかける。彼の問う『この後』とは、今後の行動のことだろう。


「あぁ、それね。一先ずは中央医学会へ向かって薬の調合かしらね。たぶん残りの材料もそろってるだろうし」


 マヤがそう返事を返すと、アゲハが思い出したように「そうだ!」と声を上げる。マヤは視線を彼女に向けた。


「アゲハ、どうしたの?」


「ええと、残りの材料の……フラメジュ、でしたっけ? それも、ジューザスさんが持ってましたので、材料は大体そろったと思いますよっ」


 アゲハがそう笑顔で答えると、マヤも同じく微笑んで「それはよかったわ」と言う。ジュラードもほっと安堵のため息を吐き、そして彼は小さく呟いた。


「そうか……これで、やっとリリンを助ける薬が作れる……」


 ジュラードの呟きを聞き、ローズも「あぁ、よかった」と頷いた。


「はい、よかったですよね! 私も嬉しいです! それにヒスさんも”禍憑き”の患者さんのことを気にしていたので、薬が出来た時は私がヒスさんにお知らせに行きますよ~!」


 アゲハが両手をたたいて喜ぶと、聞きなれない名を聞いたジュラードは「ヒス?」と首を傾げる。思いがけず懐かし名前を耳にして、イリスも思わず目を丸くして反応した。

 ジュラードが疑問の反応を示したことにアゲハはハッとして、すぐに彼へと「私たちの知り合いのお医者さんです」と説明する。


「ヒスさんも、周りの禍憑きの患者さんのことを気にしてたんですよっ。ですから、治療法についてお話しに行きたいなって思いまして」


「そうか……そうだな。禍憑きに苦しんでいるのはリリンだけじゃないものな……今後は、他の苦しんでいる患者も助けられるようになるだろうか」


 ジュラードが目を細めてそう言葉を告げると、マヤが「そうなるように努力しないといけないわ」と答える。


「薬がうまく作れれば、その後は量産を考えないといけないわね。それはまぁ、医学会にも手伝ってもらえばどうにかなるでしょう」


「そうだな……」


 ジュラードが頷き、マヤは「そういうわけだから、次の行動は医学会へ話をしに行くことね」と改めて今後の行動を示した。

 そしてマヤのその説明を聞き、ラプラは少し考える様子の後にこう言葉を返す。


「そうですか……では、薬の調合はあなた方にお任せしますので、私とイリスは先に孤児院へと戻ってもよろしいでしょうか?」


「え?」


 ラプラの発言に『え?』と驚きの声を上げたのはイリスだ。彼はラプラに「ど、どうして?」となんとなく疑問を問うた。ラプラはイリスに視線を向けると、優しく微笑んでこう返す。


「なぜって……ずっとあそこを離れていたわけですから、あなたもそろそろ戻りたいと思っているのではないかと。心配でしょうし」


「そ、そうだね……うん、それはその通りだけど」

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