浄化 2
「いや、なんか変な植物学者のおっさんと一緒に花を探して登山したらよぉ、その山が規格外の大きさの虫がわんさか出るヤベー所で……」
「ひっ……」
ユーリか説明する『大きい虫』と言う地獄のようなフレーズを聞き、ローズも地下坑道で出会ったやけに大きく育った芋虫の群れを思い出す。トラウマを刺激されて蒼白になっているローズほどではないが、彼女の隣でジュラードも嫌なものを思い出すような表情で暗く俯き、二人のその反応を見てユーリは「あ、いや、まぁ何でもない」とそれ以上の詳細を語るのは止めにした。
「それでユーリ、見つけたグラスドールはどうしたの?」
ローズの胸から身を乗り出し、マヤがそうユーリへと問いかける。ユーリは「ジューザスに渡したから今この場にはねぇよ」と彼女に返した。
「ジューザス医学会に持ってくって言ったから渡したんだ。あいつがどこかで行き倒れてなきゃ、学会に届いてるはずだぜ」
「そう、行き倒れず無事に届いているといいわね」
二人の会話にローズは「いや、たぶん行き倒れてはいないだろう」と苦い顔で突っ込みを入れる。ジュラードも無事に届いていてほしいと内心で強く思った。
「そうかぁ? ジューザスはもうおじいちゃんだからな、無理して腰痛で倒れてねぇといいけど」
真顔でそんなことを言うユーリに苦笑し、ローズは「それじゃあ後は、フラメジュとマナ水だな」と残りの材料を確認する。彼女の言葉に続き、ユーリが思い出すように口を開いた。
「フラメジュは確か医学会の方で手配してもらってたよな」
「マナ水はエルミラたちがうまくやっているなら、大丈夫なはず……と。それじゃあ次は、先にエルミラたちの所へ行きましょうかね」
ユーリの言葉に続いて、マヤがそう次の行動を提案する。そうして彼女はユーリとアーリィにこう質問した。
「それで、あなたたちはどうする?」
「あ? 何がだ?」
問われたユーリが首を傾げると、アーリィも同様に疑問の眼差しをマヤへと向ける。マヤは二人へとこう説明した。
「いえ、あなたたちはお店もあるし……ちゃんとグラスドールも手に入れてくれたんだし、無理にエルミラたちのとこについてってもらう必要もないから」
マヤのその言葉を聞き、当然この後一緒に行動すると思い込んでいたジュラードが「た、確かに」と呟く。ローズも元々ユーリたちには忙しい中で無理に手伝ってもらっていることを思い出した。
「そうだな、ユーリたちに手伝ってもらうのはここまででも……」
「んだよお前ら、ここで俺らを除け者にする気かよ。こんな半端なとこで用済みにされたら消化不良だろーが」
気遣うマヤやローズの言葉に対して、ユーリは不満げに目を細めて文句を返す。アーリィも「私も、最後まで手伝いたい」と、困った様子で言った。
二人のその反応を受け、ローズは「いいのか?」と二人に確認をする。ユーリは笑い、いつも通りの返事を返した。
「あぁ。店はレイチェルとミレイに任せればいいだろー」
「最近はそればっかりだな……」
少し呆れた様子でジュラードがそう呟くと、さすがのユーリも少々困ったように笑った。
「そろそろ俺らの店じゃなくて、レイチェルとミレイの愉快なお店、ってことになりそうだな。看板変えるか」
「えぇ、それは困るけど……でも、実際そうだし、仕方ないかも……」
大事なお店が乗っ取られそうで少々心配するアーリィだが、でもこれだけ手伝ってもらっているならそれも仕方ないのかと彼女は本気で悩み始める。そんな彼女の様子を横目で見て、ユーリは「冗談だよ」と笑った。
「まぁ、とにかく出来れば最後まで付き合わせてもらいてーんだが」
ユーリは笑った拍子にズレた眼鏡を指先で直しつつ、ジュラードたちの方へ視線を向ける。ジュラードは一瞬困惑した表情を浮かべたが、すぐに「頼む」と彼へ返事を返した。
「おぉ、そうこなくっちゃ。それによぉ、材料集まったっつってもまだやることはあるだろ?」
「え、ええと……え? 何があったっけ」
ユーリの指摘に、ローズは本気で心当たりが無い様子で小首を傾げる。しかしマヤはちゃんと問題を理解しているようで、「まぁ、そうね」と言った。
「んん? 何か他に問題があったか?」
「おいローズ、しっかりしろよ……土地のマナを回収する必要があるだろ」
「あ、そうか」
呆れた顔のユーリに突っ込まれ、ローズは「ドラゴンを探すので疲れて……」と言い訳を呟く。すると直後に、今まで沈黙して話を聞いていたウネが突如口を開いた。
「それに、ジュラードの孤児院の周辺に出る魔物のことも心配。早くアレも退治しないと……危険よ」
「あ、それもそうだな」
ウネの言葉で孤児院の周囲を徘徊する異形の魔物のことも思い出し、ローズは「意外とやることがまだあるな」と言った。
「そうね。土地の浄化の方法も考えないといけないけど、魔物退治も一緒にしないといけないわね。それにユーリとアーリィが協力してくれるのは心強いわ。マナの変化の影響を受けた魔物なんて、どれだけ凶悪なモノかもよくわかんないしね」
「お、なんだマヤ、お前が俺を素直に褒め湛えるなんて珍しいな」
「褒め湛えてはいないわよ。アタシがこんな状態だから、頼りにはしてるけどね」
「そうかよ。ま、頼りにされるのは悪くねぇ。荒事は任せとけ」
ユーリが得意げに返事をし、アーリィも隣で「私も頑張る」と気合を入れる。そんな二人の様子を見て、マヤは微笑んで「えぇ」と頷いた。