古代竜狩り 74
「ふふっ……冗談。信頼してるし、頼りにしてるわよん。……今はね」
「い、今……」
何か納得いかなそうな顔をしているジュラードだが、突如足元から「きゅい~」という鳴き声を聞いて視線をそちらへ向ける。戦闘の邪魔にならぬよう自主的に避難していたらしいうさこが、いつの間にか足元でジュラードを応援するようにピョンピョンと跳ねていた。
「うさこ……」
「きゅっきゅ~!」
「さ、うさこも応援していることだし、ローズたちもいい感じにドラゴンを引き付けてるわね……そろそろジュラード、準備いいかしら?」
ドラゴンと戦うローズたちの様子を確認し、マヤがそうジュラードに声をかける。彼女の声音が真剣なものへ変わったのを理解し、ジュラードもまた表情を引き締めて「あぁ」と頷いた。
「頼む、やってくれ……!」
「ローズよりよっぽど丈夫そうなカラダだしぃ、最大限まで強化しちゃおうかしら。……あ、そんなことしてジュラードが魔物化しちゃったらシャレにならないか」
「おい、怖いこと言ってないで真面目に頼むぞ!?」
「ジョーダンよ。それじゃジュラード、頑張ってねん」
クスクスと笑いながら、マヤはジュラードの肩から飛び立って彼の周囲をふわりと飛ぶ。そしてジュラードの正面で止まった彼女は、彼に向けて『身体強化』の呪文を唱えた。
◇◆◇◆◇◆
ユーリとアーリィが戻った後のアル・アジフの雑貨屋では、いつも通りの日常が戻っていた。
アゲハが『マナ水』の様子を見にエルミラたちへ会いに行ったが帰って来ず、ローズたちの方も音沙汰がない。よってユーリたちは現状”禍憑き”の治療に関して出来ることがないので、普通の日常を送っているというわけであった。
「ユーリさん、商品の棚卸しておきました」
「ゆーり、みれいもおにいちゃんをてつだったのよ! ほめていいよ! いっぱいね!」
「あー、二人ともサンキュなっ」
レイチェルたちに声をかけられ、店内で帳簿を確認していたユーリは顔を上げて返事をする。そして小走りに走ってきたミレイの頭をグリグリ撫でながら、「ミレイめっちゃえらい、最高、すごすぎる、かわいい、天才じゃねーの?」と彼女の要望通りに褒めまくってあげた。そうして胸を張って喜ぶミレイを苦笑いを浮かべながら見つめ、レイチェルはユーリにこう声をかける。
「ユーリさん、あまり雑にミレイを褒めないであげてくださいね……」
「え、なんで? 喜んでるからいーんじゃね?」
「よ、喜んでるけど……なんとなく、教育にあまりよろしくないような……」
「そーかぁ?」
雑に褒められて調子に乗ってしまうんじゃないかと心配するレイチェルを横目に、ミレイは得意げな表情で「みれいはやっぱりすごいのよ」と嬉しそうに自信を持つ。自分の心配はもう手遅れかもしれないなと察し、レイチェルはため息とともに色々諦めた。
一方、レイチェルたちに声をかけられたタイミングで、あまり得意ではない事務仕事の手を止めたユーリは、しみじみとした様子で唐突に「楽」と呟く。
「レイチェルたちが手伝ってくれるから、ホント店が楽……こんな楽を経験してしまうと、もう俺はお前たちがいないとダメな体に……禁断を知ってしまったな」
「は、ははは……お役に立ててるなら、ホント嬉しいです」
居候の身であるので手伝いをするのは当然と考えているレイチェルだが、こうもユーリが喜んでくれると手伝いが嬉しくもある。彼は傍によってきたミレイの頭を撫でながら、「ミレイも楽しそうですし」と言った。
「うん! みれいね、おみせ、たのしいの! みれいもしょうらいはおみせをひらくよ! きらきらしたあくせさりーとか、かわいいぬいぐるみをうるの! かわいいものいっぱいうるからね、きっとおねえちゃんもみれいのおみせ、すきになるよ!」
「そっか……あれ、ミレイは大きくなったら大冒険するんじゃなかったの?」
「はっ! ……ぼうけんしながら、おみせするの。みれいとおにいちゃんならできるよ」
「で、出来るかな……僕は少し自信無いけど、ミレイが頑張るならできるのかな?」
「うんうん、みれいにまかせてー!」
両腕を上げてアピールするミレイに、ユーリは笑いながら「すげぇな」と感心したように言った。
「俺は店と冒険は、どっちかしかできねぇや。体力が持たねぇよ。ミレイが羨ましいぜ」
「ふーん。ゆーりはいがいとよわいんだね。どっちかしか、できないんだ」
「よわかねぇよ。けど今は冒険より店の方を頑張らねぇと」
「そーいえば、ゆーりとおねーちゃんはもうだいぼうけんしないのー?」
ミレイの問いに、ユーリは「ん?」と一瞬首を傾げる。しかしすぐに彼は理解したように返事を返した。
「あぁ、そうだな……どうだろう、エルミラやローズたちの状況がわかんねーからなぁ」
「エルミラさんの様子を見に行ったアゲハさんも帰ってこないですしね」
ユーリの言葉を聞き、レイチェルが困ったように眉根を寄せながら言葉を返す。すぐにユーリは「ま、アゲハのことだからどーせアッチで元気にはしゃいでるんだろ」と笑いながら言った。
「そうですね……何かあったら連絡もとれますし、そんなに心配とかはしてないんですけど」
「まぁな。……まぁ、エルミラもローズも、もう少し待ってみるしかねぇかな」
答え、ユーリはふと店内の時計に目をやる。そして彼は「あ、やべ」と小さく呟いて立ち上がった。
「ユーリさん、どうしたんですか?」