古代竜狩り 73
「ふふっ……うふふふっ」
「……フェイリス、なぜ笑っているの? 怖いわ……」
「あら、声に出ていましたか? ふふふふっ」
傍で低く笑いながら砲弾をぶっ放すフェイリスが不気味過ぎて、ドラゴンに対する攻撃は続けながらもウネは彼女へと声をかける。
フェイリスは弾を装填しながら、「とても楽しいので、つい」と言葉を返した。
「た、楽しい……?」
「えぇ。強い獲物との闘いは常に気分が高揚します。私は強敵と戦いたくて軍人になったところがありますので……それに皆さんと連携しての戦いというのも、また新鮮で楽しいですよ」
「……そ、そう」
魔族という戦闘好き種族である自分もドン引くフェイリスの戦闘狂発言に、ウネはどう返事を返したらいいのかわからないといった表情で曖昧に頷く。そんなウネを置いてきぼりに、フェイリスの楽しげな発言は続いた。
「些か私たちの方が不利というところも興奮に繋がりますね。ここから逆転して、あのドラゴンをひれ伏させることを想像すると……ウネさんも、ゾクソクしませんか?」
「……ま、まぁ、少しは……」
ほんの少し理解できてしまった自分に複雑な感情を抱きつつ、ウネは「どうひれ伏させるかが問題だけど」と呟いた。
「えぇ、それはそうですね……私たちの攻撃では、加減を間違えるとこの場所ごと破壊しかねませんし」
飛び道具が主な武器の自分たちでは、加減や狙いを誤ればそれだけでドラゴンと共に生き埋めコースまっしぐらだ。それを理解しているのでウネもフェイリスも加減してドラゴンの相手をせざるを得ない。
「ローズさんとジュラードさんにお任せした方がいいのでしょうか」
「……そうね。私たちはサポートの方がいいのかも」
防御力の高いドラゴン相手には、強力な直接攻撃が適していると二人も判断する。すると丁度そのタイミングで、ローズが二人の元へと駆けてきた。
「ウネ、フェイリスっ!」
「ローズ、どうしたの?」
咆哮を上げたドラゴンへ光の矢を放ちながら、ウネはローズへと返事を返す。ローズは先ほどジュラードに相談された作戦を、戦う彼女たちへ手短に伝えた。
「……そういうわけだから、ジュラードの援護を頼む」
「なるほど……理解したわ。でも、”そういうの”はジュラードではなく、あなたの方が得意なのでは?」
作戦を聞いて理解するウネだが、同時に疑問をローズへと問う。そのことに関してはローズも承知しているが、彼女は苦笑しながらこう彼女へ説明した。
「そうなんだけど、ジュラードが『俺がやる』って……私は無茶しすぎだって怒られたよ。私を心配しているらしい」
「あらあら……ローズさんを心配して叱るだなんて、ジュラードさんも随分と頼もしい男の子に成長したのですね。可愛らしいです」
フェイリスに『可愛らしい男の子』扱いを受けたジュラードに苦笑いを浮かべつつ、ローズも「そうかもしれない」と頷く。
「ジュラードは成長したなって、私も感じるよ。……本人の前で言ったら、なんとなくまた怒られてしまいそうだけど」
出会った当初は共に戦うことにも戸惑っていた青年が、今は仲間を気遣いつつ率先して敵に挑もうとするまでに変わった。その変化を改めて思いながら、ローズは「だから」と言葉をつづけた。
「私たちはジュラードを全力でサポートしよう。……あのヴォ・ルシェを必ず倒す」
「かしこまりました」
「えぇ」
フェイリス、ウネそれぞれの返事を聞き、ローズは頷く。そして彼女もまた薔薇の装飾された自身の大剣を構えなおし、ドラゴンに向き直った。
「ジュラード、ローズから話聞いてやってきたわよ~」
「あ、あぁ、マヤ……」
ローズがウネとフェイリスに作戦を伝えに行っている頃、どこか緊張した面持ちでドラゴンの様子を眺めていたジュラードはマヤに声をかけられる。
ウネやフェイリスの攻撃で荒れ狂うドラゴンから視線を逸らし、ジュラードは自分の肩に腰を下ろしたマヤを横目で見た。
「マヤ、その……」
「あー、大丈夫。あんたの頼みに関してはアタシに任せて。得意だから。でもさぁ……ホーントにあんたで大丈夫なの?」
「どういう意味だ」
マヤの問いに、ジュラードは怪訝な表情を返す。マヤは「言葉通りよん」と、ドラゴンの様子を観察しつつ言った。
「大人しくローズに任せておけばいーんじゃない?」
「むっ……お、俺だって……たぶん、出来る」
「たぶん?」
「……出来る」
少し自信なさげではあったが、そう返事を返したジュラードに、マヤはにやりと笑って「言ったわね」と呟いた。そのマヤの様子が怖くて、ジュラードは思わず苦い顔を浮かべる。しかし彼はどうしても譲れないという様子で、こうマヤに言葉を向けた。
「大体、俺もだけど……みんな、ローズに頼り過ぎだ。そんなだから、お人好しなあいつは倒れるまで無茶するんだ。もっとあいつには……頼るだけじゃなく、頼ってもらいたい」
意識的にも無意識的にも、『ローズの力ならなんとかしてくれる』と思ってしまっている自分自身への反省も込めて、ジュラードはそう告げる。マヤは彼のその言葉を何か想う様子で黙って聞いたが、しばらくして彼女は小さく「そうね」と言った。
「その通りよ。ローズ自身が頼られることを望んでいる部分もあるけれど……アタシも心配している」
「……お前はいつもローズの心配をしているじゃないか」
珍しく真面目な声音で言葉を呟いたマヤに、ジュラードはどう返したらいいのか変わらずにそんな返事を向けた。するとマヤはいつも通りの強気な態度へと戻って、ふんぞり返りながらこう言った。
「とーぜん、ローズに何かあったらイヤだからね! 何事も無いよう、アタシとおねーさまがいつでもどこでもローズを見守っているのよん」
「そんなに心配されているのに、あいつは無茶ばかりなんだな……困ったやつだ」
ため息とともに呟かれたジュラードの言葉に、マヤは苦笑して「そうね」と頷いた。
「まぁ、でも……そうね、アタシもたまにはローズじゃなく、あなたを頼って信頼すべきね。いいわ、ジュラード、頑張ってちょうだい」
考えを改めたらしいマヤにそう励まされるような声をかけられたが、ジュラードは「え、俺を信頼してなかったのか?」と、そこが気になって素直に応援を受け取れなかった。