表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
379/494

古代竜狩り 70

「イリスじゃないですか。あぁ、今日も変わらず麗しく……」


「何をそんなに熱心に見てたの?」


 部屋から顔を覗かせて笑顔を見せてきたラプラに、イリスは静かな声で問いを返す。イリスの問いを聞き、ラプラは一瞬考えた後に自身の手元に視線を向けて、そして再び笑顔でイリスに視線を戻した。


「これですか?」


 イリスが「うん」と頷くと、ラプラは笑顔のままで「マナ水の成分結果を見ていました」と答える。


「マナの濃度がまだ不安定でしたので……濃度を高める為に調整をしていたんですよ。少しずつではありますが、不純物も少なくなってマナの濃度は高くなっていますね」


「あぁ……そっか。ありがとう」


 ここに居てもほぼやることが無く暇な自分と違い、エルミラや彼はマナ水の生成と研究を続けている。自分も何か手伝えればいいのだが……と、そんな申し訳ない気持ちでイリスはラプラへ礼を告げた。


「いえ……これが私の仕事ですから」


「……私も何か手伝えれば、とは思うんだけどね」


 苦笑しながらそう返すイリスに、ラプラは最高の笑顔で「イリスは傍にいてくださるだけで励みになりますよ!」と力強く答える。それに対してどう返すのが正しい反応なのかをイリスは一瞬考え、やはり苦い笑みを返した。

 そんなイリスの反応をじっと見つめた後、ラプラは「あぁ、そうだ」と何かを思いついたように口を開く。そうして彼はイリスへとこう言葉を向けた。


「一つ、あなたに手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」


「なに? 私に出来る事なら、何でもするよ」


「そうですか。……あ、いや……手伝いと言いますか……」


「?」


 ラプラは少し困ったような笑みをイリスへ向けて、小首をかしげる彼へとこう告げる。


「イリス、私とデートしていただけますか?」


「は……?」



 

 ルルイエの街中を外見を隠したラプラと共に並んで歩きながら、イリスは少々呆れた表情を浮かべて呟く。


「デートとか言うから、何かと思ったら……フツーにご飯一緒に付き合ってほしいって言えばいいのに」


「ふふふ、すみません。研究所の食堂の食事には少々飽きてきたので……外の食事にも少し興味がありましたし」


 楽しげな様子で隣を歩くラプラを横目で見つつ、イリスは呆れた表情はそのままに溜息を吐く。しかし魔族である彼が一人で街中を歩く危険性を知ってるので、イリスは彼の要望通り付き合ってあげているのだった。


「それと、街の中も……私はずっと研究所にいましたので、よく知らないのです。マナ水の開発もひと段落しましたので、少々散策などをしてみたいな、と」


 ラプラのその言葉を聞き、イリスは表情はそのままに「ホント、驚きだよ」と言葉を返した。


「あなたがヒューマンの世界に興味を持つなんてね」


「えぇ、自分でも驚きです」


 イリスがふとラプラに視線を向けると、目深に被ったフードの下に見えた蒼い瞳と視線が合う。いつも通り微笑む彼を無表情に見返し、イリスはすぐに視線を逸らした。


「……それで、何が食べたいの?」


「あまりこちらの世界の食事に詳しくなくて。よろしければ、イリスの食べたいものを一緒に食べたいですね」


 すれ違う人々――ヒューマンに視線を向けながら、ラプラはそう答える。自分とは異なる種族、そして彼らが住まう都市の様子を観察するように眺めながら「イリスは何が食べたいですか?」とラプラは問いを返した。ラプラの問いに、イリスは先ほどのアゲハの誘いに対してと同じ返事を返す。


「悪いけど……今、お腹すいてなくて……お店に行くのくらいは付き合うけど、食事はパスしたいな」


「……最近、あまり食べていないようですね」


 心配するような声が聞こえ、イリスは再度ラプラに視線を向ける。視線の先には先ほど聞いた声音通りの表情が見えて、イリスは苦く笑った。


「私のこと、ホントよく見てるね」


「えぇ、あなたのことは24時間いつでもどこでも見守っていますからね! 安心してください!」


「うぅ、ストーカーって怖い……っていうか、それのどこが『安心』なの? 安心の意味を辞書で調べなおしたほうがいいよ」


 本当に24時間見守られていてもおかしくないと、イリスは青ざめながら身震いする。同時に彼は隠密行動が得意な自分を欺くほどのストーカー技術を発揮するラプラに、本気の恐怖を覚えた。

 一方でラプラは真剣な表情を向け、「それより」とイリスに言葉を続けた。


「食欲が無いようですが……どうかしたのですか?」


「いや、別に……」


 イリスは反射的に『何でもない』と答えようとして、しかしラプラの真剣な声音がそれを止める。


「これでも真面目にあなたのことを心配しているのですけどね」


「……」


 遠慮がちにそう呟かれると、イリスもはぐらかす言葉を止めた。しばらく沈黙した後、イリスは大きくため息を吐いて首を横に振る。


「……最近、食事がおいしいと感じなくて……幸い、味はわかるんだけどね。でも、何を食べてもおいしいと感じないんだ。だから……食欲無くてさ……」


「それは……」


 表情を険しく変えたラプラに対して、イリスは苦笑を浮かべてどこか諦めたような様子で「私が魔物だからだよね」と答えた。


「わかってるよ。フツー魔物は食事なんてしないし、美味しく感じることの方がおかしいよね」


 そう答えるイリス同様、ラプラも彼の食欲減退の原因はおそらく『魔物化』であろうと考える。しかし、魔物化してしばらくは彼は普通に食事をしていた。それを思い出し、ラプラは問いを重ねた。


「それはいつごろからそのように?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ